第35話 違和感
鈴木は久しぶりに、チート勇者のロミオがいる世界に来ていた。
そのはずなのだが、鈴木が迷い込んだのは、まるでロボットアニメの司令室の様な部屋であった。
空中に無数の液晶が浮遊しており、それを見ながらティアがキーボードをカタカタと打ち込んでいる。
どうやらこの間鈴木とスライムを改造した時の様に、この世界の魔物を改造しているようだ。
液晶の画面には魔物のデータもあれば、地形マップの様なデータもある。
かと思えば、ロミオの現在の状況を監視する、防犯カメラの画像の様なものまで様々である。
突然部屋の中に女性AIの声が響く。
「対象(ハヤシバラロミオ)、目標地点を通過。間も無くゴブリンメイジの生息地点に到達します」
「予定より早いわね。ゴブリンメイジの改造率は?」
「現在47パーセント」
「ちっ。間に合わないか」
そう言ってシリアスな顔を作るティアをの後頭部を、鈴木は思い切りはたきつけた。
「い、イッターいわ!何すんだ!」
「何すんだはこっちのセリフだ。ファンタジー世界に明らかに不釣り合いな部屋を作って雰囲気を壊すんじゃない」
「仕方ないじゃない!急ピッチでこの世界の魔物強くして、ロミオを鍛えなきゃいけないんだから!」
そう言ってまたキーボードを忙しく叩き出す。
「強くしないと何か不都合があるのか?」
「何よ!とぼけちゃって。あんたシヴァのとこから来たの?それともランのとこ?」
「意味がわからん」
鈴木がそう言うと、ティアはピタリと手を止める。
「アンタ、本当に何も知らないの?」
「最初からそう言っている」
ティアは腕を組んで何か考えている様だったが、すぐにまた画面に向き直る。
しかし今度は魔物の改造ではなく何か調べ物をしているようだ。
「……私たちはね。ある神の命令で3人で勝負をしているの。勝負に勝った女神の一人だけが、神格を上げることができる」
「それが、お前とシヴァ、ランというわけか」
「そう。その勝負の方法は女神がチート勇者、スローライフ、悪役令嬢の世界から一つを選択する。それぞれの世界の代表者1名を女神は選び、戦わせる」
「なるほど。勝ち残った世界の女神の神格が上がるというわけか」
「そう、そして負けた女神の世界は……消える……」
シリアスにそう言うティアだが、鈴木は何をそんなにムキになっているのか分かっていない。
「別にいいだろ。こんなつまらん小説の世界が一つや二つ消えたところで」
「バカね!私たちはそれぞれの世界の代理戦争をやっている様なもんなのよ!私の世界が消えたら、おそらく現実世界のチート勇者ものの小説が全部消えちゃうわよ」
「他の小説が無くなる?なんかどこかで聞いたような話だ。それこそ現実世界で……」
鈴木がそう言うと、ティアはサッと顔を曇らせる。
「現実世界で?いや、まさかでもそれなら辻褄は……でもそうなると……」
ティアは鈴木をじっと見つめる。
「一体あんたは何者なのよ」
鈴木は即答する。
「ただの高校生だ」
「ただの高校生があんな……ふぅー。でも嘘をついてる感じじゃないもんね。あーもう!何なのよ!本当ムカつくわ!」
そう言って腕を組みティアはぶつくさ独り言を言いながら考え事を始めた。
「おい」
「あー、うるさいうるさい!今ここまで出かかってるんだから静かにしといてよ!」
何を言ってもダメそうである。
見たところ、この世界は自分好みのファンタジー世界に近づいて来ていると思った鈴木は、この世界を後にすることにした。
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