第32話 えっ?誰このイケメン
楓はGPSを頼りに女を追いかけていく。
幸いにも、女は徒歩で移動しているようだ。
ヨシヒコと春菜はファミレスに置いてきてしまったが、鈴木だけは楓の後に続いた。
携帯の画面に女が明らかに人通りの無い裏路地の方に入って行くのが表示され、楓は確信する。
「間違いない!ここでなんか証拠が掴める!鈴木!アンタは尾行に向いてないからここで待ってて」
女に怒り心頭で我を忘れている楓は、鈴木を堕とそうとしていたことなど忘れ、いつもの様に鈴木に厳しく命令する。
「いや、駄目だろ。こんな人気のないところじゃ流石に危険だ」
鈴木が珍しく楓を心配して常識的な所を見せるが、もう楓は止まらない。
「大丈夫、大丈夫。その代わり電話したらすぐに来て。すぐ電話できるようにしとくから」
「……分かった」
鈴木は楓の要求を飲み、裏路地に入る手前で待つことにした。
「さてと」
楓がもう一度携帯の画面を見ると、GPSの点が動かず留まっていた。
「ここで、なんかしてるのね!」
楓は静かに隠密に、しかしできるだけ素早く、GPSの表示されている場所に向かった。
「ちっ。今日はこんだけか」
見るからに私チンピラですといった感じの、チャラい20歳くらいの男が、自称山田花子からお金を受け取っている。
もちろんその金は女が鷹山から毟り取った金だ。
「そんなイライラしないでよ。いい話もあるんだよ。あいつもう400万も貯めたらしいの。次持って来させる約束したし」
400万という大きな金額を聞き、男はニヤリと笑う。
「マジか。じゃあそれ奪ったらおさらばするか」
「それよりはやく遊び行こうよ。それともすぐホテル行っちゃう?」
「それもいいな」
やはり鷹山は騙されていたのだ。
最初は拳を握りしめ、物陰に隠れて悪事を録音していた楓だったが、あまりの二人の糞っぷりに、とうとう我慢できなくなり飛び出し、自称山田花子の後頭部を思い切りはたき付けた。
バシン
体重を乗せた全力の一撃だったおかげで、いい音がした。
自称花子は声にならない程痛がり、その場にうずくまった。
「この糞女!糞男!鷹山さんから取ったお金返しなさい!」
怒りに任せて怒鳴りつける楓。
「なんだこいつ?」
男の方は多少動揺している。
「いったぁい!何すんのよ!アンタ誰よ!」
やっと声を出せた自称山田花子。殴られた事もあり、怒り狂っている。
「おい、ユウコ。お前あとつけられてたんじゃないのか?」
「やっぱり名前も偽名だったのね!」
「おい、お前、どっから私の事つけてたんだよ!」
楓はふふんとドヤ顔で言う。
「ファミレスからずっとよ!もちろん音声も録音済みよ!アンタら終わりだからね」
それを聞き、男がギロリと楓を睨む。
今までは怒りで恐怖心など微塵も感じていなかった楓だったが、体の大きい柄の男に本気で睨まれた事により、流石に萎縮してしまう。
「な、何よ!私に手を出したら、もっと罪が重くなるわよ!」
そう男を牽制したつもりの楓だが、男は全く動じない。
「ふーん。どうせ捕まるならお前をめちゃめちゃにしてからにするかな」
冗談とは思えない言い方だ。
楓は思わず後ずさる。
「そうだ、携帯!」
楓は鈴木に電話しようと携帯電話を取り出すが、いつの間にか後ろに周りこんでいた女に羽交締めにされ、携帯を奪われてしまう。
「やった!ケンジ、取ったよ!携帯取った!」
「でかしたぞユウコ!恐らく証拠は携帯の中だ!携帯電話を押さえちまえばこっちのものだ!この女、性格はキツイが顔だけは悪くないな。俺の仲間で回して、ビデオ撮って裏で金にする」
「ちょ、ちょっと!ま、まじ?そんなの犯罪でしょ!アンタらずっと刑務所入って出て来れなくなるわよ!」
「なら警察に言えないようにお前を説得するだけだ。もしも誰かに俺らの事を話したら、お前の家族も無事じゃすまない。もちろんお前の友達も、俺らみたいなのは容赦なく襲うぞ」
楓は真っ青になる。
逃げよう暴れる楓をユウコが強い力で押さえつける。
「いいぞ、ユウコ!」
「離して!」
全力で暴れるが、全くほどけない。
恐怖で涙が溢れそうになる楓。
「そのまま抑えとけ。顔はダメだが腹を殴ってちょっとおとなしくさせる」
「オッケー、後で私にも殴らせて!こいつに一発殴られてるからさ」
「分かった分かった」
男は拳を振り上げ思いっきり楓の腹目掛けパンチした。
楓は恐怖に目を瞑った。
……。
……。
……。
(えっ?)
いくらたっても痛みがこない。
「な、誰だテメェ!!」
男の驚きの声に、楓は目を開いた。
すると楓の前には、ずっと大嫌いだったはずの空気の読めない変人のクラスメイトが立っており、男の拳を受け止めている。
クラスメイトは男に向かって言い放つ。
「誰だ?うーん難しい質問だ。そうだな……今は、一応……こいつの彼氏、かな」
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