第29話 金有り、顔良し
楓は改めて鈴木を頭からつま先まで眺めてみる。
ハイブランドで固められているがかなりおしゃれに纏まっている。
ブランドに詳しい楓は少なく見積もっても鈴木が50万円以上の品を身につけている事を頭のそろばんで弾き出した。
そしてピンときた。
なるほど、借金まみれと噂の真里亞(マリア)が急に学校に来れるようになったのも、鈴木がきっと借金を肩代わりしたんだ!
だから鈴木に媚を売って……。
そして春菜は鈴木がイケメンなことをきっと知っていた!
あの子、颯斗目当てじゃなくて、最初から鈴木目当てだったんだ!
……つまり鈴木がどんな奴かというと……頭がおかしくて……ぶっきらぼうで……空気読めなくて……ちょーお金持ちで、物凄いイケメン……何それ…………それって超最高じゃーん!!!
「鈴木くーん。颯斗の叔父さんと何してるのー?」
楓は甘くすり寄る様な声で鈴木に話しかける。
鈴木はなんだこいつ。気持ち悪いなという顔で楓を見ているが、ヨシヒコは楓に見つかった事に、かなり困惑している様だ。
それもそのはず。
今日はカクヨ○のファンタジー小説を、チートもの、スローライフもの、悪役令嬢もののどれか一つにしてしまおうという、めちゃくちゃな計画を阻止するために、3人いるその企画担当者の一人の不祥事をリークするため、尾行作戦を行う予定だったのだ。
不祥事がバレたら間違いなく企画からは降ろされる。
順当にいけばその後釜はヨシヒコだ。
自分が担当になれば古典ファンタジーをもうプッシュできる。
これがヨシヒコの考えた作戦であった。
しかしこんな後ろ暗い作戦に高校生を巻き込んでいると知られたらだいぶ不味い。
「参ったな、これ」
ヨシヒコは鈴木をチラリと見てアイコンタクトをとる。
(鈴木君!なんとか同級生に上手く言って帰ってもらってくれ!)
鈴木は即座にヨシヒコのアイコンタクトを受け取り、こくりと頷いた。
「須藤楓(ストウカエデ)、今から大事な用事があるから帰ってくれ」
「ふーん、大事な用事って?」
「今からヨシヒコさんの同僚が派手な女遊びをやっているという黒い噂があるから尾行して確かめるんだ」
「ちょ!ちょ!す、鈴木君!そ、それは内緒のやつで!」
ヨシヒコは慌てて鈴木を静止するがもう遅い。
「ん、そうなのか?すまない」
楓はニヤリとイタズラっぽく笑う。
「ずいぶん面白そうな事やってますね」
「い、いや、これには深い理由があって……」
「そうだぞ。今から尾行する鷹山進(タカヤマススム)はヨシヒコさんの会社の若手のホープで、今やってる企画のチート勇者部門の担当なんだ。そいつの不祥事が明るみに出れば今の企画から降ろされて、その後釜にはヨシヒコさんが入れると言う訳だ」
「な、る、ほ、どー♪よーく分かりました」
ヨシヒコは顔を真っ青にしている。
「じゃあ私もそれ着いて行きますね♡」
「だ、駄目だよ、それは!」
「そうだ、駄目だ。帰れ須藤」
楓は2人を見てふーっとため息をつく。
「いや、中年と高校生の男二人って目立ちすぎでしょ!むしろ私がいた方が自然だと思うけどなー」
「た、確かに……で、でもこれは僕と鈴木君の問題で!」
「いいのかなー。こんな尾行なんて、会社にバレたらまずいんじゃないですか?」
「ぐっ!」
「この件がバレたら、後釜どころじゃないですよねー」
「し、仕方ない、時間もないし今回は君にも着いてきてもらおう」
「やったー♡じゃあ早く行こう」
そう言って楓は鈴木の腕に飛びついた。
「邪魔だ。離れろ」
いつもの鈴木のぶっきらぼうな態度もイライラしない。
イケメンに言われていると思えばむしろご褒美だ。
「えー、別にいいじゃーん」
その光景を影から見ていた春菜はとうとう我慢できなくなった。
「ぐ、偶然ですね、み、みなさん!」
突然物陰から飛び出してくる春菜を見て、楓が意地悪をする。
「えー、なんで笹垣さんがいるのー?もしかしてー、ストーカーだったりしてー」
「ち、ちが!!わないかもしれなくもないけど……と、とにかく私も話は聞きましたので、一緒に行きます!」
ヨシヒコは全てを諦め目を瞑った。
「もうどうにでもしてくれ……」
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