第26話 山村さんと鈴木くん
カド○ワ見学は、結局誰もが実りないまま終わった。
強いて言えば、金城目颯人(キンジョウメハヤト)の叔父さんと鈴木に絆と、怪しい暗躍が結ばれたのみであった。
それからはしばらくなんて事ない、鈴木がクラスで煙たがられる普通の日々が続いた。
そんな中久しぶりに学校に大きな出来事が起こった。
なんでも、今までずっと休学中だった女生徒が今日登校してくるのだと言う。
担任は転校生でもないのにその生徒を紹介をする。
「山村真里亞。今まで家のゴタゴタで学校に来ていなかったが今日から復学する」
教室がざわつく。
それはそうであろう。
山村真里亞は異彩を放っていた。
山村の母も父もとてつもないクズではあったが、異性をたぶらかす才能だけはあった。
つまり美男美女であった。
そのせいか、シャンと立った真里亞は自称クラス一番の美人須藤楓なんぞよりも何倍も美人であったのだ。
転生世界のマリアはどちらかといえば可愛い系であったが、本当の真里亞はむしろスカーレットの様な美人だった。
しかしその容姿も真里亞の人生にとってはマイナスにしかならない。
顔がいいので借金取りに風俗に落とされそうになったり、単純にヤクザに犯されそうになったこともあった。
最初にその容姿に食いついたのは女子たちだ。
「山村さん、どんな化粧品使ってるの」
「別に……」
その一言だけで、女子たち全員から反感を買うことになるとは、真里亞は思ってもみなかった。
「何、あの態度」
「気取っちゃってさ」
真里亞は別に気取っていたわけではない。
久しぶりに同学年の者と話すので緊張してそっけなくなってしまっただけなのだ。
しかも本当に真里亞は化粧品を使っていなかった。
だから別に、なのだ。
貧乏なのだ。
化粧品なんて買う暇があれば米を買いたい真里亞である。
須藤楓もこれはチャンスと、大ぴらに真里亞を女子の間でハブる事にした。
「ちょーっと変わってるし、山村さんは私たちとは合わないよね」
楓のその一言で、ゾロゾロと女子たちは真里亞の前から姿を消していった。
ポツンと一人ぼっちになる真里亞。
しかし男子たちにとってはそれはチャンスだ。
ハブられていようがそんなことは関係ない。
クラスに美人が一人増えたのだ。
あわよくばという奴らが女子がいなくなったことで押しかけようとしたのだが、
「山村さん、学校に来れて良かったね」
そいつか一番に声をかけ、男子たちはあちゃーと、もう入り込む余地はないと諦めた。
「誰ですか?」
「僕は金城目颯人(キンジョウメハヤト)、分からない事があったらなんでも聞いてね」
スーパーヤリチンイケメンの渾身の爽やかスマイル。
笑顔を見せられた女は皆堕ちる。
「ふーん。ありがとう」
しかし真里亞はそっけない態度。
金城目が話しかけたことにより、完全に山村の女子グループ入りは消えた。
「何あの態度」
「颯人(ハヤト)が優しくしてあげてるのにあの態度おかしいんじゃない」
「調子乗ってんだよ」
「あの子のお母さん男と逃げたらしいよ」
「ふふ、親子揃って男をたぶらかすビッチなんじゃないの」
かなりエグい悪口を、わざと颯人にも聞こえるように言う女子たち。
しかしそんな事は気にせず、真里亞は颯人に質問する。
「じゃあ早速教えて欲しいんだけど、あいつってどんなやつ?」
真里亞が指したのは教室で一人黙々とファンタジー小説を読む鈴木だった。
「あ、ああ、鈴木ね。あいつは大分変わったやつだから、近づかない方がいいよ」
「ふーん」
そんな颯人の注意もなんのその。
真里亞はすくっと立ち上がった。
「あれ、どこ行くの?」
もちろん真里亞はまっすぐに鈴木の所に歩みを進めた。
「何読んでんの」
「『影との戦い』」
「何それ、面白いの?」
「面白い。物凄くな」
「ふーん。私も読んでみたいな」
真里亞がそう言うと、鈴木は読んでいた本をパタンと閉じた。
「じゃあ貸そう。読んでみるといい」
真里亞は慌てる。
「えっ、悪いよ。読み途中じゃん」
「構わない。すでに10回以上読んでいるからな」
「本当に?」
「本当だ」
鈴木がそう言うと真里亞は『影との戦い』を宝物を受け取るみたいに恭しく受け取った。
「ありがとう。大事に読むね」
そう言って鈴木に向けた笑顔は美人の真里亞には信じられないほど、無邪気で可愛らしい笑顔だった。
軽く頬を赤らめるその姿に、男性陣は愚か、真里亞を一番に嫌っていた同性の須藤楓までもちょっぴりキュンと胸をときめかせてしまった。
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