第24話 魔術VS鈴木

城の中で学生服姿の大柄な男が大量の兵士に囲まれている。


そう、鈴木だ。


鈴木はアーノルド王子の首根っこを捕まえている。


そんな鈴木を、兵士が槍で威嚇しながら怒鳴りつける。


「王子を離せ!この賊が!」


その場にはマリアもいる。


マリアは王子と結婚できて幸せの絶頂から一転、突然の異世界人の襲来にパニックであったが、とりあえず王子を心配する演技をしてみせる。


「やめて、アーノルドを離して!(なんなんコイツ?これ学生服よな?私と同郷よな?なんのつもりなん?というかなんでコイツだけ転生じゃなく転移?)」


はてなだらけのマリアだが、とりあえず兵士に任せるしか方法は無い。


「王子を人質をとるとは卑怯だぞ!」


「別に俺は人質にとったつもりはないが?ただこいつが洗脳の術にかかっているからそれから解放してやろうと思ってな」


「洗脳?」


城の面々はにわかにざわつき始める。


「(げっ!?やばい!!私が王子を洗脳した事、コイツにはバレてる!?かくなる上は……)相手は丸腰です、王子を助ける為、迷わず捕えなさい!殺しても構いません!」


「ま、待てマリア!?丸腰だけどこいつ力強くてヤバっ……」


「そうだ!マリア様の言うとおりだ!丸腰なら王子が怪我をする心配は無い!かかれ、かかれ!」


「ちょ、まっ!」


王子の制止も虚しく、数十の兵士が一斉に襲いかかる。


しかし鈴木は王子を掴んだまま数十名の兵士を圧倒してみせる。

王子を振り回し、武器のように使い、バッタバッタと兵士を薙ぎ倒していく。

毎日訓練を積んでいる兵士たちがまるで赤子のようだ。


「この程度……か」


全ての兵士が倒れ、鈴木がフーッとため息をついた。

王子はすでに生きた心地がしない。


するとそこへ、颯爽と現れる立派なローブを着た五人の老人達。


「お待たせしました!」


五人の姿を見て、やられていた兵士たちは皆活気ずく。


「おお!王国直属魔法使い、五輪集!!」


「五つの属性をつかさどる、王国最強の魔法使い集団!」


五人のジジイは決めポーズを作る。


「賊よ!この五輪集が来たからにはもう好き勝手にはさせん!くらえ!ロックウォール!」


茶色のローブを着た老人がそう叫ぶと、たちまち鈴木と王子の周囲に黒い岩盤が現れ二人を覆った。


「出たー!岩属性グレッグさんの脱出不能の岩盤で敵を囲み窒息させる最強技!」


「あれ?でもあれじゃ王子も……」


兵士達は一瞬王子を心配してみたが、その心配は徒労に終わる。


鈴木はまるでパンケーキの様に岩盤を軽々素手でかき分け破壊した。


「ば、化け物!?」



「ファイヤボルト!」

「アイスニードル!」


赤と青のローブが同時に魔法を放つ。


「馬鹿!王子に当たるぞ」


王子も必死にうーうー唸っている。


飛んできた巨大な魔法を当然のように片手チョップでかき消す鈴木。


それを見てじじい達は顔を真っ赤にし地団駄を踏んだ。


「こうなったら!五輪集全員の魔法を同時に放ち、あの男を消し炭にするのだ!」


「おい待て!クソジジイ!俺も消し炭になるだろ!」


王子がそう叫ぶと一瞬場はしんとなるが、金色のローブを着たリーダーっぽい男が一喝する。


「よし、やろう!このままじゃ五輪集の沽券にかかわる!」


出番の無かった緑ローブもそれに乗っかる。


「皆!力を合わせるんだ!」


「「「「「はぁー」」」」」


禍々しい力が集まっていく。


「この魔法を撃てば……」


「城も粉々だ!」


「早く逃げろ!」


「巻き添えを喰らいたいのか!」


それを聞いてマリアはさっさとその場を逃げ去る。


しかし兵士達はまだ逃げかねている。


「我々も腐っても城の兵士です!逃げる訳には……」


「……ふっ、お前らはまだ若い、生きろ」


「ご、五輪集さま!」


「行け!たまにはジジイ達にカッコつけさせろ!」


五輪集の生き様に兵士たちは一様に涙した。

そんな感動のシーンに水を差すアーノルド王子。


「おい馬鹿共!俺が死ぬだろ!兵士だろ!助けろ!そしてジジイ!魔法の詠唱をやめろぉぉ!!」


兵士達は王子の言葉がまるで聞こえなかったかのように、泣きながらその場から離れていく。


残されたのは五輪集と鈴木と王子のみ。


「「「「「これがワシらの、全力だぁぁぁぁ!!!」」」」」


五属性が集約された高密度の魔力球が王子目掛けてすごいスピードで飛んでいく。


「うわぁぁぁぁぁぁ!!」


王子は盛大な悲鳴をあげる。


「五月蝿いな」


鈴木は王子を解放しかまえを作る。

そう、殴るのだ、魔法を。


その時の事を後に王子は語る。

「いや、死んだと思いましたよ。だって魔法にパンチって。でもね、鈴木さんが構えた瞬間、とてつもない寒気っていうか、殺気っていうか、とにかくなんかとてつもないものを感じたんですよね」



「死ねぇーー!」

老人達は奇声を上げるが、鈴木はへいぜんとしている。

鈴木は大きく息を吸い込み、渾身の一撃を放った。


鈴木の拳と魔力球がぶつかり、七色の光を放つ。


「す、すげぇ……」


王子はそのこの世のものとは思えない光景に呆然とした。

鈴木のパンチで魔法が相殺され、拡散していったのだ。


「拳で……魔法を消し去った?」


「ば、馬鹿な!?」


五輪集は驚きを隠せずにいる。


「何を思ったかしらんが、魔法が鍛えてあげた筋肉に勝てるなどと、本気で思っているのか?」


五輪集は怒り心頭である。


「くそ!修行のし直しだ!皆、帰るぞ」


そう言ってそそくさとその場を後にする。


「ま、待て馬鹿ども!」


「さて、そろそろ目を覚ましてもらうぞ、王子様」


王子はサーっと血の気が引いていくのを感じた。


鈴木による執拗なまでの往復ビンタ。


「あれ?大抵の心の問題はビンタで解決するはずなんだが?」


美しい王子の顔は膨れ上がって、見る影もない。


「えい!」


16回目のビンタ。


そこでようやく王子の洗脳が解けた。


「ふ、ふぁ!そ、そうか、俺はマリアの術にかかって……す、スカーレット!!スカーレット!!!」


王子は鈴木を振り解き、スカーレットを追って走り去ってしまった。

その姿を鈴木は満足げに見つめる。


「さて、こっちはこれで終了だが……」


鈴木は鼻をクンクンさせ、周囲の臭いに神経を研ぎ澄ませた。


「臭いな……女神が近くにいる……」

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