第21話 相撲対決

シヴァが指をパチンと鳴らすと近くの地面がせり上がり、そこに直径4メートル55センチメートルの円が現れた。


「ほぉ、相撲か」


「私は女神対抗相撲大会で108年連続優勝している。私が一番力を発揮できる舞台が相撲なんだ……。すまん、考えてみればフェアじゃねぇな。何かハンデをつけよう。あぁ、それよりも競技自体を変えようか。お前の好きな方法で構わん。もちろん真っ向からの殴り合いでも、構わん、それなら貴様の好きなタイミングで殴り掛かってきて構わんぞ」


さっきまで怒り狂い、カインを庇いはちゃめちゃな事を言っていたシヴァであったが、土俵を前にした途端冷静になっている。


鈴木は今のシヴァが今まで自分が戦ってきた誰よりも手ごわい相手であり、相撲という舞台では勝算がほとんどない事を本能的に悟った。

それを悟ったうえで鈴木はニヤリと笑う。


「いや、相撲でかまわん」


そう言って鈴木は学士服を脱ぎ捨てる。

鋼の様な肉体を見て、シヴァはヒューと口笛を鳴らす。


「褌は私からのプレゼントだ」


シヴァが再び指を鳴らすと、鈴木の腰に純白で立派な褌が巻かれた。


「ハンデはいらんよ。俺が負けたら二度とカインには手を出さん」


「後悔するぞ」


「それより、早くやろうぜ……」


鈴木は今まで感じたことのない高揚感を覚えた。久しく感じなかった戦うことへの喜び。

鈴木とシヴァぁは土俵に上がると、ゆっくり、ゆっくり、腰を落としていく。

そして二人が同時に手をついた瞬間、二人は音速を超えるスピードで額からぶつかりあった。


ズンッッ!!!!!!!!


激しい音と共に森全体が揺れた。

鈴木はシヴァのTバックに手をかけ思いっきり引っ張り上げる。


「乙女のパンツ引っ張るのにちっとわ遠慮とかねぇのかよ!」


「悪いな。遠慮などして勝てる勝負ではない」


「………ふっ。分かってるじゃねぇか!だがな、お前がいくら気張ろうと……」


そう言ってシヴァが鈴木の褌をつかみ引き上げる。

途端に鈴木の体はふわりと浮き上がりそうになる。とんでもない力だ


「!?」


「いくら気張ろうと!私には勝てねぇんだよ!!!!」


そう言って鈴木を持ち上げるためにシヴァが渾身の力を出す。

しかしどうした事か、まるで鈴木が地面に張り付いているかのように、動かなくなってしまった。


「こ、こいつ!」


シヴァは驚くべき事実に気が付く。


「こいつ、足の指で地面にしがみついてやがる!」


今まで女神相撲でもこんな手を使ってくる奴はいなかった。


「今度はこっちの番だ!」


そう言って今度は鈴木がシヴァを持ち上げようとする。


「ふざけるな!」


シヴァは鈴木っと同じように足の指で踏ん張ってみせる。

シヴァも鈴木同様全く持ち上がらなくなった。


「ふっ、やるな……」


「お前もな……」


こうなってくると、もう勝つにはこれしかない。

二人の考えは一致していた。

二人は同時に動き出す。

そう、無数の張り手。

体が動かないのであれば相撲には格闘界最高峰の打撃技張り手がある。

鈴木とシヴァはガードもせずにお互い張り手をぶつけ合う。

打撃を受け続ける中、流石のシヴァも意識が朦朧としてくる。

薄れゆく景色の中、シヴァは50年以上前の出来事を思い出していた。


「キャ」


女神の一人が一瞬で土俵に尻もちをつく。


「シヴァの勝ち」


一瞬で勝ってしまったシヴァは負けた相手を憎々しげに睨みつけた。


「何故!本気で戦わなかった!」


シヴァが怒鳴りつけると負けた女神は頬に指を当て甘い声を出す。


「えーだってシヴァさん強すぎなんですもん。私なんて、全然かなわない~」


怒りで拳を震わせながらも、シヴァは黙って控室に帰った。


「くそ!」


思わず拳骨で控室の壁を殴りつける。

自分の大好きな相撲の試合であるが、女神の誰一人として、真剣に取り組んでいる様子が見られない。シヴァはそれが不満で仕方なかった。

シヴァが無言で座り込んでいると、どこからか他の女神達の声が聞こえてきた。


「あーあ。一回戦からあのおばさんと当たるなんてついてな~い」


「シヴァさんね。あの人だけこの大会いつもマジだもんね」


「だいたい女神だっつうのになんで相撲とかしなきゃいけないわけ?」


「そうそう。相撲なんか真剣にやってたら婚期遅れるっつうの」


「シヴァみたいに?」


「「ハハハハハハハハハハ」」


顔面に鈴木の最高の張り手の一撃をくらい、


「あぁ、私負けるんだ」


とシヴァは悟った。

体が土俵に向かい倒れていく。


「負けるけど……」


不思議とシヴァの心には悔しさは湧いてこない。

地面に倒れこんだシヴァの耳に鈴木の言った一言が、すっと耳に溶け込んだ。


「……最高の試合だった」


シヴァは目をつむり、そのまま意識を失った。

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