第18話 いざカドカワへ

午前9時50分、約束の10分前に金城目颯人(キンジョウメハヤト)は待ち合わせ場所にスタンバイしていた。


鈴木が行くと言い出した時は最悪だと思っていた颯人だったが、考えてみればおかげで美女二人とデートができることになったわけだ。


捉え方によっては最高の展開である。

さらに颯人には追い風が吹いていた。


なんと鈴木は、偶然にも自分の携帯を壊してしまっていたらしい。


「握りつぶしてしまった」


と、訳の分からない事を言っていたがそれは置いといて、つまり鈴木だけに連絡がつけられない状況なのである。

颯人は鈴木にだけわざと2時間遅い待ち合わせ時間を口頭で告げておいたのだ。


これで連絡がつかない鈴木を置いて行く口実ができる。

まさに完璧な作戦ではないか!


「ふっふっふっふっ」


思わず笑い声から口から漏れる颯人だったが、鈴木は颯人の作戦の斜め上を行くような人間である。


「颯人!君も早く来ていたんだな」


この声は!?まさか!

そう思い振り向くと、絶対にいるはずのない男、鈴木おさむがいつもの学生服姿で立っていた。


「な、何でいるんだよ!」


「うん。今日は集合場所まで100 km ないし、近いし天気もいいんで歩いて行こうと思っていたんだが、ついトレーニングをしたくなってしまい全速力で家から駆け抜けてきてしまった結果がこの時間だ。颯人も早く来てくれていて良かった。退屈しないで済みそうだ」


(なんなんだこいつ?俺をからかっているのか?どっからか正しい約束の時間を聞いていたのか?)


もちろんそうならないように時間は前日金曜の放課後に一人ずつ個別に告げている。


「実は予定が2時間早まったんだよ。鈴木に連絡がつかないからどうしようかと思っていたから丁度良かった」


鈴木が何を考えているか謎だったので、とりあえず言い訳をしておく颯人。


「そうか、それは良かった」


鈴木は大して気にしている様子もなさそうだ。


(何とぼけてやがる。こいつアホに見えて意外に侮れんかもしれん。要注意だ)


そんな会話をしていると、次に春菜が待ち合わせ場所に合流する。


「お、おはようございまするっ!」


春菜はこの日のために服を新調していた。

紺色のロングスカートに白のブラウス。今日はコンタクトではなく敢えて黒縁メガネをつけて知的清楚コーディネート。バッグは紐長めの斜めがけでパイスラッシュでセクシーさもさり気なく出す。


もちろんこれはショップ店員のオススメをそのまま買ったものである。

たぶん春菜が自分で選べばTシャツとジーンズだ。

は春菜の胸が強調されたこの可愛い服を見てテンションが爆上がりである。

颯人も鈴木も「おはよう」と挨拶を返す。


「す、 鈴木君は今日も制服なの?」


颯人もこれに関しては突っ込みたかった。


「ん?ああ、これを10着持っているからな」


馬鹿かこいつ?と颯人は思う。


「ちょ、ちょっとそれはどうなんだろう。 休みの日くらい制服以外の服着た方がいいんじゃ……」


「うーむ。 ちょっと洋服に関しては疎くてな。 何を着ていいかさっぱりなんだ」


「タンクトップ!絶対にタンクトップ!」


春菜は筋肉が一番映える服を即答する。


「それが今の流行りなのか?」


春菜は自分の好みをとっさに押し付けてしまったことに赤面する。


「ご、ごめんなさい。 やっぱりタンクトップは無しで。 ただ私がタンクトップと言うか、、そういう男らしい感じの服が好きと言うか何と言うか……」


なるほど。笹垣春奈の好みは男らしい感じの服装っと。颯人の頭にその情報はすぐにインプットされた。


そんなこんなで待ち合わせ時間から5分たった10時5分。今度は須藤楓が現れる。


楓は春菜とは対照的にショートパンツに胸元の開いたピチピチの T シャツ。アクセサリーもモリモリで典型的なギャル系ファッションで登場した。


春菜ほどではないが楓もなかなかの物を持っており、大胆な服装からか、通行人の目を引いている。


(こっちもたまらん!!)


「ごめんね。ちょっと遅れちゃった」


そう言って楓が手を合わせぺろっと舌を出してウインクする。


「 遅い。5分遅刻だ」


鈴木は容赦なく楓に告げる。

その物言いに楓はカチンとくる。


「はっ? 遅いってたった5分だろう!」


「5分あれば筋トレが1セットできる。 時間は貴重だ」


「意味わかんねーよ!女子にはいろいろ準備に時間がかかるんだよ!5分くらい許すのが男の器量だろうが!」


「遅刻は遅刻だ。関係ない」


開始早々に喧嘩ムードだ。

この空気は颯人にとっても望むところではない。


「おい鈴木!空気読めよ」


「そうよそうよ!」


「あわわあわわ!」


「よくわからん。 俺が何か間違ったことを言ったか?」


鈴木は本気で訳が分からないといった表情をしている。

これを見て颯人も楓も鈴木には構うだけ無駄であると悟った。


「分かったわよ。私が悪かった。ごめんごめん」


「分かればいい」


「……いちいちムカつくやつだな」


「何かいったか?」


「何でもない何でもない」


楓が折れてくれて颯人はほっとする 。

そう、こんなところでつまづいているわけにはいかないのだ。

今日は……


(二人のどちらか!いやあわよくば二人ともお持ち帰りする!!)


(颯人くんといい感じになる!)


(鈴木くんの筋肉を!あわよくば戦っているところを見る!!)


(カドカ○のカク○ム責任者を殴る)


四人それぞれ思惑を胸に、波乱の会社見学が幕を開けたのであった。

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