第17話 イケメン登場

金城目颯人(キンジョウメハヤト)は、美しくなった笹垣春菜に早速話しかける。


「笹垣さん、おはよう」


春奈はびくりとする。


「お、おはよう、ございます……」


(緊張しているな。ここはさらりと褒めてやるのが定石)


「今日はいつもと雰囲気違うね。すごく可愛いよ」


春菜の顔があからさまにひきつる。


「は、はぁ……ども」


(あれ?おかしいな?手応えねーぞ)


教室も春菜のつっけんどんな態度にざわつく


(しゃーねー、もう一発いっとくか)


「そういえば、クラス一緒になって結構経つのに、笹垣さんだけ苗字呼びだったよね。今日から……春奈って呼んでいいかな?」


(これはいっただろ!いきなり学校一のイケメンに名前で呼んでいい?なんて言われたら、勘違いして舞い上がっちま……)


「駄目です」


教室の空気が凍る。


「ちょ、ちょっと!あんた何調子乗ってんのよ!」


颯人達を静観していた元クラス1の美女、須藤楓(ストウカエデ)も我慢できなくなって口を挟む。


「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」


春菜はカースト上位にいきなり怒鳴られ、怯えて悲鳴を上げる。


(何なんですかこの人たち!?あんな髪型や瓶底みたいなメガネじゃ、社会に出た後苦労するよって美容師のお姉さんに言われて、確かに納得だったから思い切って髪切ってコンタクトにしたのに……。こいつら……こいつら全力で私のこと殺しにきている!?私が調子こいたから、私を殺そうとしている?)


「せっかく颯人が優しく声をかけてるのに、ひどくない?」


「いいんだよ楓。俺が急に声をかけたのが悪かったんだ」


「颯人は、優しすぎるんだよ」


そんな混乱の中、空気を読まずに鈴木が登校してくる。


「……笹垣さん、髪切ったんだね。おはよう」


「お、おはよう!!」


春菜は気合を入れてなるべく明るく大きな声で鈴木に挨拶を返す。


「えっ!?」


(なんか鈴木に対しての方がいい反応してねえか?)


鈴木以下の対応されたことに、颯人はプライドを傷つけられ少なからずショックを受けた。


颯人はちょろい相手だと春菜のこと思っていたが、どうやらその認識は間違っていたらしい、


しかしそんなことで諦めるような金城目颯人ではない。

颯人は本気を出すことにした。


(警戒が解けないのなら……無理やりとくだけだ!)


日々教室を観察していた結果から春菜の趣味を割り出す。

その姿はいつも本を読んでいる。

その結果から、趣味は読書と断定。


「笹垣さんっていつも本読んでるよね。俺も本好きなんだけど、どんな本読むの?」


本が好きなのは別に嘘でもない。

いろんな話題についていくため、流行りの本はできるだけ読むようにしている。

颯人は糞野郎ではあったが、モテるためのその努力には見習うべきところもある。


春菜はといえば無視したい気持ちでいっぱいだったが、また楓に怒鳴られるのではないかと思い、仕方なく答える。


「はい……主にファンタジー小説を読ませて頂いております。私のようなものが、選り好みをして本を読んでしまい、誠に申し訳ありません」


春菜がまともに喋ってくれるようになったのはいいのだが、なんだか距離を感じる颯人であった。


「ファンタジー?」


ファンタジーという言葉に鈴木が食いついた。


「うん、指○物語とか……ロード○島戦記みたいなラノベのファンタジーも好きだし。たまに携帯サイトとかでも読みます」


「じゃあこれ知ってる?」


鈴木は自分のスマートフォンで小説家にカク○ムのサイトを開き、春菜に見せる。


「ああ、カクヨ○ですね。私も使ってますよ」


鈴木がいきなり会話に入り込んできたのには腹が立ったが、颯人は○クヨムの話が出たことに心の中でガッツポーズをした。


「カ○ヨムってカド○ワって会社が運営しているんだけど、実は俺の親戚そこに勤めてるんだよね」


「えーえ!凄いですね」


初めて笹垣がいい反応する。予想通りだ。


「カクヨ○……あのとんでもないファンタジー達を生み出している悪の元凶……」


鈴木がなんかブツブツ言っているがそれは気にしない。


「もし興味があれば、今度の休みに会社に見学に行ってみないかい?」


「……えっ?」


春菜はそれはちょっとという顔をしている。


(ここはどうするべきだ?押すか?一旦引くか?)


「よし行こう!」


颯人が迷ってる間に返事をしたのは、まさかの鈴木であった。


「えっ、いや、別に俺お前を誘ったわけじゃ……」


「鈴木君行くの?なら私も行ってみようかな」


「ああ、ちょっとカク○ムには因縁があってな。本社には興味がある」


颯人が戸惑っている間に、楓までがしゃしゃり出てくる。


「ちょっと待って!なら私も行きたい!いいよね颯人」


本当は駄目なのだが、勢いに流されてしまう颯人。


「あぁ、3人くらいならなんとかなるかも……」


まんまと承諾してしまう颯人。


この後、颯人が鈴木をカ○カワに連れて行ったことで、とんでもない波乱が起こるのだが、この時の颯人には知る由もなかった。

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