第16話 農業舐めんな

「スキル狂化!!」


そう唱えるとカインの目は真っ赤に染まりまるで魔物のように変貌した。


「これで俺の攻撃力は9000!その上ダイヤモンドナックルの攻撃力までもが上乗せされる!お前の生存率は……0%だ!!」


鈴木は宣言通りその場から1ミリも動くことなくカインの攻撃をもろにくらった。


バグゥッ


と物凄い音を立てて、鈴木は土煙を上げて吹き飛んでいった。

吹き飛んでいった鈴木を見て、カインはもう隠すつもりもないといった様子の悪人面で笑う。


「へっへっ……死体を回収しなきゃな」


他の者に殺しがバレれば今までの生活には戻れない。

良い人のふりの俺に騙され、ヘラヘラとついてくる労働力や女共。こんないい生活、捨てるつもりはない。


カインは鈴木が吹き飛んでいった方に歩み寄る、少しずつ土煙が晴れていく。


「……ちょっと待って!嘘だろ!!」


血煙が完全に晴れるとそこには、無傷の鈴木おさむが立っていた。


制服が破け、上半身が裸になっているものの、体には傷ひとつ見当たらない。

その顔に似つかわしくない鍛え上げられた鈴木の腹筋が、妙な存在感を放っている。


「ど、どんな手を使った」


「どんな手、とは?」


「あの一撃を食らって無傷なんて……」


「あぁ?腹筋を鍛えていれば、あれぐらいどうってことないだろ?」


「……」


「……」


何を言ってるんだこいつ、腹筋をいくら鍛えたところであの攻撃を防げるはずがないだろ?やはり何かスキルか加護を隠して……


「それより、続き、そろそろ行くぞ」


そう言って一気に距離を詰める鈴木。


(まずい!?)


鉄壁のスキル発動に加え、カインは何とか反応し腕を十字にして打撃を受ける。


カインの両腕には竜の牙よりも硬いとされるミスリルの小手が装備されている。

これで先ほど無防備に一撃くらった時より、数倍防御力が上がっている。


「まず一発…………スローライフ系小説わなぁ、終わりが見えねえんだよ!」


鈴木は今までの鬱憤を晴らすかのように力を込めた一撃を放つ。


(重い!鉄壁の上に小手でガードまでしているんだぞ?)


しかし休む暇もない。鈴木の攻撃は止まっていない。


「特に大きな目標もなく、村を大きくするだけだから、着地点がふわふわ、最悪未完のまま終わる!ふざけるな!!そんなにスローライフがしたいなら、マザー牧○にでも行ってろ!!!」


鈴木は喋りながらも猛烈なラッシュを繰り出す。

カインに反撃の余地すら与えない。


「そして2発目…………おっさんの主人公……多すぎなんだよ!」


(軽減しているはずの攻撃が重い。一撃一撃が重い。これが……痛い……)


カインのミスリルの小手にひびが入る。


「少年と青年主人公がいる中で、たまにおっさん主人公がいるのがいいんじゃねえか!な○うやカク○ムにいる主人公、半分おっさんじゃねーか!!」


「バキィィィン」


ミスリルの小手がついに砕け散る。


「ば、馬鹿な!?」


「そして3発目………」


(まずい!まずい!まずい!まずい!)


鈴木が大きく拳を振り上げるが、スキル鉄壁の反動でカインは動けない。


「スローライフとか言って簡単に畑や水田作ってるけど……農家なめんなや!!!」


強力な一撃に、鉄壁のスキルが強制解除される。


「肥料もやってない森に畑!ましてや水田ができるか!!これは……農家の分!!!」


渾身の左ストレートがカインの顔面にヒットする。

カインは意識が遠のいていく。


「畜産業がどれだけの苦労と努力をしていると思う?銀○匙読んでみろや!お前たちのやっていることはスローライフじゃねぇ。チートで楽楽生活だ!!これは畜産業の分!!!」


鈴木のラッシュはまだ止まらない。


「これが漁業の分!」

「これが俺の分!!」

「これも俺の分!!!」


カインの HP はみるみるうちに減っていく。

カインは生まれて初めて死への恐怖を感じていた。


「最後でかいの行くぞ…………」


(あっ……終わった……最後にプリシラとアーニャと3Pしたかったな……)


「そもそも…………一年で村づくりなんか……できるわけねーだろ!ご都合主義のスキルやら加護やら付けやがって!村づくり……なめるなよ!!最後のこれは……T○KI○の分だぁ!!!!!!!」


鈴木のアッパーでカインの体が天高く舞い上がる。


カインは消えゆく意識の中で、鈴木の最後の言葉を聞いた。


「DA○H村何年やってたと思ってんだ」

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