第13話 よくあるスローライフファンタジー

これは一人の運の悪い中年冒険者の物語である。


「悪いがお前にはパーティーをぬけてもらう」


「えっ!?」


突然そう言われた時、カインはもちろんショックを受けた。だがそれも考えてみれば仕方がないことだなと、すぐに諦めがつく。


カインはもう30半ば、冒険者としてはもう落ち目、衰えていく年齢である。

それに対してカインが属していた、今目の前にいる勇者アレックス率いるパーティーは自分を除き、他は10代の未来ある若者たちばかりだ。


帝国と魔王軍を倒すという目的のため、各地を旅していた期間はもう1年になろうとしていたが、そんな今でさえ、ちょくちょくパーティーメンバーとのジェネレーションギャップに悩まされる。


だが冒険をする上で、一人くらいは自分のようなオッサンがいた方が、経験や知識で役に立つこともあるかもしれないと思って、今まで必死に努力してきた。


実際パーティーメンバーの一人、女性で魔法剣士のプリシラなどは、しょっちゅう話しかけてくれたし、私の古臭いアドバイスにも「なるほど!すごく参考になります!」と笑顔を見せてくれていたのだが、今考えれば、あれも年長者の私に対する接待のようなものだったのかもしれない。


「すごいです!カインさん!」


それが彼女の口癖であった。

一縷の望み、と言うか救いを求めるように、


「私がパーティーを抜けるのは皆……プリシラ達も知っているのか?」


未練がましい言葉がつい口から出てしまう。

私のその台詞を聞いて、勇者アレックスは鼻で笑って見せた。


「知ってるもなにも、お前のパーティー脱退はプリシラが言い出したことだ」


「!?」


これにはさすがの私も苦笑した。

すべて私の思い違いだったのだろう。

辛い気持ちもあったが、むしろこれで踏ん切りがついた。


「そうか。私はどうしたらいい?」


「リーダーの俺がわざわざ一人で言いに来たのも、もう他の仲間はお前に会いたくないと言っているからだ。ほら」


そう言ってアレックスは私にみすぼらしい麻袋を投げてよこした。

ジャラリと音がする。おそらく手切れ金であろう。


「本当は渡す必要もないんだがな。俺からのせめてもの情けだ」


「……すまないな」


「謝罪はいいから、みんなが起きる前にここから姿を消してくれ」


こうしてカインは勇者パーティーを抜けた。

そんな過去の出来事をカインは晴天の空を見て思い出す。


あれからしばらく経ったが、帝国と魔王軍を打ち倒す戦争が終わったという話は聞こえてこない。

きっと皆、今も一生懸命旅を続けているのだろう。


「ふぅー、今日の作業はこれで終わりだ」


畑の収穫作業をしていたカインは、そう言って額の汗を拭う。


カインはあの後、冒険者をすっぱりとやめていた。

タンカー(盾役)として優秀であった彼が冒険者ギルドを去る事に、多くの人が反対した。


だがこのまま未練がましく冒険者を続けてしまえば、あてつけかとアレックスたちも気分を悪くするだろう。

だとすれば、すっぱり冒険者を諦め、第二の人生を歩むのがいい。


案外そんなのも悪くないと、カインは即断したのであった。


まずカインは、アレックスからもらった金で小さな山の土地を買った。

モンスターも多い地区とあって、かなりの安値で広大な土地を手に入れることができた。


カインは荒れ放題な自分の土地を見て一人つぶやく、


「これはやりがいがあるぞ!」


カインのスローライフ生活のスタートであった。

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