第12話 牛丼が3万杯食べれるくらいの額
残り10秒。
ブッチャーは、性懲りもなく鈴木めがけてナイフを振るが、やはり簡単にかわされ、しかも今回はかわされただけでなく、ハイキックナイフを蹴り飛ばされてしまった。
ハイキックが命中した場所は、本来ダメージになりそうもない手の甲であった
が、鈴木の蹴りが高速で凄まじい威力だったため、ブッチャーは「ぐわぁー!」と情けなくうめき声をあげてしまった。
ブッチャーはよろめく。
「体勢崩れたよ、ボディガラ空き」
鈴木がブッチャーにそう言ったがブッチャーはどうすることもできない。
「普通のパンチにしといてやる」
そう囁き、鈴木は無防備なブッチャーの腹に、一撃をお見舞いした。
「ドォーン」
という、本来人を殴った時ではありえないような音がした。
鈴木のパンチを食らったブッチャーの巨体は、リングの端から端まで吹き飛んだ。
ブッチャーはリングを囲んでいる金網叩きつけられた後、泡をふき白目を剥いて、ドサリとリングに崩れ落ちた。
その光景を見ていた会場の者達は一瞬シーンとなったが、次の瞬間一気に今日1の大熱波と歓声がこだました。
「なんて野郎だクソボウズ!!」
「ふざけんなブッチャー!子供に負けやがって!」
「見直したぞクソガキ!お前に賭けとけば良かったぜ!」
「二度と闘技場に出てくんじゃねえぞブッチャー!」
春奈は、今の鈴木のパンチを見て鼻血をぽたりぽたり流していた。
せっかく着て来ていた可愛らしい服が鼻血で汚れてしまっていたが、そんなことどうでもいいと言った様子で、瞬きもしないまま呆然としている。
「おいマジか嘘だマジか!本当かよ!」
横のモヒカンがだいぶうるさい。
「すいません。ちょっと黙ってくれますか?今の瞬間、私の人生変わっちゃったんですよ。もう大晦日の格闘技とかで興奮出来なくなっちゃいましたよ。明日からどう生きてけばいいか、考えなくちゃいけないんですよ!」
「そうだよ、それだよ!人生変わっちまったんだよ!」
「だからちょっと静かに」
「これが静かにしてられるかって言うんだ!おい嬢ちゃん!」
「何ですかもう!」
「孃ちゃんの賭けた金!」
「お金?」
「そうだよ、金だよ!」
「あー、そういえば鈴木君が勝ったんですもんね。いくらになったんですか?」
「孃ちゃんの取り分は……1500万だよ……」
「あぁ、1500ですか」
「そう1500!……驚かねぇのか?」
「…………………………1500!?」
「そうだろ!?信じられねえだろ?」
「待って待って?嘘でしょ?嘘でしょ?」
「嘘じゃねえんだよ!!俺たちは、たった数時間で、とんでもねぇ大金を手にしちまったんだよ!」
「いっせん、いっせん、いっせん、ごひゃく……」
春菜は一度に様々な衝撃を受けた事のショックにより、その場にフラリと倒れ、失神してしまった。
モヒカンが実はかなりいいやつだったため春菜は助かった。
モヒカンは倒れた春菜を介抱した後、自分の車に乗せ、春菜を家まで送ってくれたのだ。
もちろん金もネコババしたりせず、しっかり春菜に渡した。
「金のことでも何でも、問題があったら相談しろ。そんでまた闘技場に行きたくなった時も言ってくれ。これは俺の名刺だ」
そう言ってモヒカンが差し出した名刺には、弁護士橋本正義(ハシモトセイギ)と書かれている。
「誰ですかこれ?」
「俺だよ」
「何言ってんですか?」
「だから俺の名刺だよ」
「人を騙すにしてももうちょっと上手くやった方がいいですよ」
「辛辣過ぎねぇか?」
「だってどこの世界に、あなたみたいなアウトローな弁護士がいるって言うんですか?」
「ここにいるんだから仕方ねーじゃねーか」
「あと名前正義って!どう見ても正義に淘汰される側の見た目してるじゃないですか!」
「いやお前急に毒吐きすぎだろ!まぁいいけどよ」
「いやなんか色々ありすぎて、もう些細なことはどうでもよくなっちゃったと言うか」
「まぁ無理もねー。今日はゆっくり休め」
「あの……」
「なんだ?」
「ありがとうございました」
「ふっ。いいってことよ」
そう言ってモヒカンは去っていった。
もちろんその日、春菜は遅くまで外にいたことを両親にこっぴどく叱られたし、いつものように風呂に入り、布団に入っても、なかなか眠ることができなかった。
今日あったことは、みんな夢なんかじゃないかと思ったが、部屋に転がっている現金1500万の入った自分のバッグが、あれが紛れもない現実であると語っていた。
だとすれば春菜がやることは一つだった。明日。明日になれば……。
次の日学校に行き、春菜は放課後まで待った。
今日は金曜日である。
明日学校が休みというのは、とても都合がいい。
放課後というのも、皆部活をしたり、家に帰るだけだったので、何か問題が起きても尾を引きづらい。
最高の状況だ。
春菜が何をしようとしているかと言うと、もちろん鈴木に話しかけようとしている、
「す、鈴木くん、ちょっと、いいかな……」
昨日の一撃が、春菜はどうしても忘れられなかった
のだ。
鈴木に好き好んで話しかける奴なんて、このクラスには誰もいない。
そのため鈴木に人が話しかけた。しかも女子がである。この事実にクラスにいた面々は驚き、一気に注目が集まった。
「笹垣さん?」
鈴木が自分の名前を知っていたことに驚いてちょっと戸惑う春菜。
「鈴木に話しかけた女子、あれ誰?」
「あんな地味な奴いたっけ?」
「暗そう」
「ブスだしお似合いじゃねえか、鈴木に」
鈴木にはそんなヒソヒソ話が聞こえていたのだろうか?
春菜が用件を言う前に、鈴木の方から言葉を続けた。
「笹垣さん、前髪切った方がいいよ。メガネももっといいのがある。今は分厚いレンズじゃなくて、もっと薄くて可愛いやつがある」
「えっ?」
「似合うと思う。そっちの方が」
鈴木の気持ち悪い発言に女子はおろか、男子までもドン引きだ。
「何あれ?」
「純粋にキモすぎ」
「100回死んでくれ」
しかしそんな反応とは対象的に、春菜は満更でもないようだ。
沸騰したヤカンのように顔を真っ赤をが真っ赤にしている。
「それで、笹垣さんは何の用?」
「や、やっぱり、大丈夫です!」
そう言って春菜は逃げるように教室を走り去っていってしまった。
「あーあ、キモすぎて逃げられちゃったw」
「いや案外あの女、照れちゃって逃げ出しただけなのかもよww」
「ウケるw」
鈴木はあまり感情を表に出すタイプではなかったが、その日は何故かちょっと不機嫌そうであった。
走ってそのまま家にまで帰ってきてしまった春菜は思わず逃げてしまったことを後悔した。
だがこの失敗が春菜に一つの決意をさせた。
お金もある、明日は土曜なので時間もある。
(私の目的のためには、今のままの自分では駄目だ。もっと自分に自信が持てるようにならなくては!)
春菜は一人そう考えていた。
春菜がとある決心をした金曜日から、週があけて月曜日、鈴木と同じクラスの、クラス1、いや学校1と言っても過言ではないイケメン金城目颯人(キンジョウメハヤト)は、次の獲物を誰にするか考えていた。
(さあて、どうしようか。次に美味しく頂くのは)
金城目は自分の手にかかれば、どんな女子でもあっさり股を開いてしまうと思っている。
実際は誰とでもとはいかなかったが、ほとんどそれに近いぐらい簡単に、金城目は学校の女子を口説き落とすことができた。
しかし、誰彼構わず遊ぶわけにもいかない。
金城目には今まで積み上げてきた評判というものがある。
手を出してすぐポイ、手を出してポイ、では金城目はただのヤリチンとなり、いずれ危険人物扱いになってしまうだろう。
そうなれば今のように楽しく女の子遊べなくなってしまう。
これでなかなか賢い金城目は、秘密裏に動き、うまい具合にこれまで女遊びを続けてこれていた。
やっぱり次のターゲットはクラスで一番の美人の須藤楓(ストウカエデ)かな?
あの子もかなり人気があるし、俺達が付き合ってもまあ仕方ないとか、お似合いだとかいう雰囲気になってくれるだろうし、仮に別れても、男子からはやっと別れてくれたと喜びの声の方が大きいだろうし、女子達も俺がフリーになったことを喜ぶだろう。
いい具合に楽しく遊べそうな条件の女だ。
さあそうなれば、朝から行動開始、と金城目が思っていた時である。
教室に見たこともない美しい女子が入って来た。
しかもよく見ればかなりの巨乳、スタイルも申し分ない。
(誰だこの女は?クラスの女子は地味な女も不細工な女も、誰であろうと全員名前を覚えている俺が分からないとは)
金城目は全ての女子に優しく接することがモテるための秘訣の一つであると知っているので、下調べはきっちりやっている。
謎の女は最初転校生とも思ったが、流石にそんなはずはない。
クラス全員が謎の美少女の動きを目で追っていた。
美少女は見つめられ、照れたように俯く。
その姿が超かわいい。
少女は申し訳なさそうに、クラスの後ろの方の席に腰掛ける。
(あの席は!)
そう、その席は笹垣春菜の席であった。
春菜はこの土日で髪を切り、眼鏡をコンタクトに変え、大幅なイメージチェンジをしたのである。
元々素材が良かったこともあり、クラス1位の美女は須藤楓から、あっさり笹垣春菜に塗り替えられた。
元一位の楓は 、イメチェンした春菜を苦々しげな表情で見つめた。
金城目颯人(キンジョウメハヤト)はこの変化に驚きつつも、もの凄いチャンスが舞い込んできたと喜んだ。
笹垣は間違いなく処女である。
どういう訳か急なイメチェンをしてきた。
話しかける口実もバッチリだ。
しかも遊び慣れていない地味でおとなしい女は口説くのが楽な上に、口を封じるのも非常に楽だ。
ということで、次の獲物は……。
金城目颯人毒牙が笹垣の元にシュルリシュルリと忍び寄っていた。
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