第9話 スライムVS鈴木

上空から、スライムに追い詰められる3人を見て


「いいぞ!このまま3人ともやっちゃえ!!私の可愛いスライムちゃん♡」


もはやティアは完全にスライム側、魔物の立場である。


「でもいいのか?あのロミオとかいうやつ、お前が呼び出してスキルや加護を与えたやつじゃないのか?」


鈴木がそう聞くと、ティアは表情を強張らせた。


「は!?そうだった!やばい、どうしよう!死んじゃうじゃんあれじゃ」


ティアの言うとおり、全滅は間違いない。しかもスライムを強くしすぎてしまい、この数のスライムを対処するのはティア本人でも難しいのだ。


「やれやれ、世話の焼ける女神だな」


鈴木は何故か偉そうである。


「元はと言えば、てめえがスライム強くしろっつったからじゃねぇか!!」


「お前ちょっと前まで、じゃあスライムに殴られたら疫病になってオエェーってなっちゃうとかどうよ!とか言ってたぞ」


「ぐっ!」


「はあ、仕方ない。俺が手を貸してやる。スライム達を惹きつけるから、その間に3人を離れたところに逃がせ」


そう言うと、突然鈴木はティアの背から、ロミオ達目掛けて飛び降りた。


「え!?ちょっと!」


涙と恐怖と鼻水と、おまけに疫病の状態異常までついて、景色は霞み、前すらろくに見えないロミオ。


スライムはもうあと数メートルのとこまで迫ってきている。

もうだめだと3人が思ったその時だった。

ロミオ達の直近に、空からものすごい勢いで何かが落下してきた。


もちろん落下してきたのは、先ほどティアから飛び降りた鈴木である。


「ふん!」


鈴木は落下と同時に地面を思い切り殴りつけた。


「バァァァーーーン」


まるで小さな隕石が落下したかのような凄まじい衝撃が走り、地面がえぐれる。

その衝撃の余波までもが凄まじかった。


周辺にいたスライムはおろか、ロミオ、ルイザ、エリックの3人までも、その衝撃波で空に吹き飛ばされた。


「ちょ、ちょっと!」


ティアが慌てて空に投げ出された3人をキャッチしようとする。

まずは60 kgくらいあるだろうロミオを片腕でキャッチ。


その華奢な見た目からは想像できない腕力である。

次にルイザ、


「こんな力仕事が!」


反対の腕でキャッチ成功。

最後はエリック、


「女神の仕事であって!」


ズンと最後のエリックを背中で見事キャッチ


「たまるかぁぁぁぁ!!」


「ティア、ナイスキャッチ」


「重いと思ったら、こいつらお前の落下の衝撃で気絶しちゃってるじゃねえか!」


「じゃあ尚更安全なところまで、よろしく」


3人の重みで、ティアはかなりの低空飛行になってしまっている。


「しゃあねえ。女神の底力、見せたるわ!それよりお前はどうすんの?さすがにこの数の私の強化スライム相手は、きついと思うけど。触っただけで状態異常よ?」


落下の衝撃波で、4、5体のスライムはコアだけになっていたものの、まだ数十体ほどスライムは残っている。

鈴木はむき出しのコアを一つ拾い上げて言う。


「んー……まあ問題ないよ」


拾い上げたコアを、まるでりんごを砕く時のようにぐしゃりと握りつぶした。

コアが粉々に砕けた途端、全てのスライムの殺気が鈴木の方に向かう。


「あぁあ、怒らせちゃった。というかさ、お前何でスキルも加護もないのにそんなに強いんだよ!20メートルくらいのところから落下したはずなのに、無傷だし」


「まあ理由は……気が向いたら教えてやろう」


「……ふーん……」


秘密ってわけか。

こりゃますます他の女神のさしがねに違いないと、ティアは思った。

十中八九、自分以外の二人の女神のどちらかが、コイツに力を与えて、私の召喚した人間の邪魔をさせていると言ったところだろう。


鑑定で見ても、スキルや加護がなしになっているのは不可解だが、それも何か秘密があるのだろう。


「まあせいぜい頑張れ」


そう言ってティアは全速力でその場を離れた。

この数の強化スライムを一人で相手にして、無傷とはさすがにいくまい。

一撃もらえば状態異常でお陀仏のはず。死んでしまえば私への妨害も失敗だ!



「さて……」


ティアが飛び去り、一人残された鈴木は、顔の前で構えをつくり、トントントントンと、両足で軽やかにステップを踏み出した。


「ちょっと本気を……出しますかね……」

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