第7話 黒いスライム

ロミオ達はついにスライムの群生地にたどり着いた。


「スライムは他の魔物と同じく、人や獣の肉を感知して集まってきます。ですからなるべく怪我をしたりしないようにしましょう」


「スライムには目も鼻も耳もないのに、感知ができるなんて不思議ですわね」


「スライムについては研究している学者が少なく、分からないことも多いですが、おそらく体の中にあるコアと呼ばれる丸い球体。それが目や鼻や耳と、同じような役割をしていると考えられているようです」


エリックとルイザの話を聞いて、ロミオはいいこと聞いたと思った。

ロミオはそっと自分の指を短剣で切りつけ、少量の血を流させた。


そして30分後、ロミオたちはかなりの数のスライムに囲まれていた。


「どうしてこんなことに?」


ふふふ、俺の仕業ですよ。とロミオは内心ほくそ笑む。

しかし少し不可解なことがあった。


ロミオが知っているスライムは、青く透明な綺麗な色をした魔物であるが、今ロミオ達を取り囲んでいるスライムは、どす黒く、さらに醜悪な臭いを放っていた。


ここは沼地のようなので、環境の違いでそういうスライムがいるのかもしれないと思ったが、


「く、黒いスライム?初めてみます」


「私もです、姫様」


えっ?嘘?初めてなの?

ずっとこの世界に暮らしているはずのエリックとルイザがこのスライムを知らないことに、多少違和感を覚えたが、まあ所詮スライムはスライム。


魔法での活躍はすでに見せているので、今度は剣技を見せようと、早速ロミオはスライムに斬りかかった。


「トゥワァー!」


ロミオが斬りつけると、スライムはバッサリと半分になった。

ふっ、決まったな……。

そう余韻に浸っていたロミオであったが、


「危ない!」


ルイザがそう、ロミオに警告した瞬間、


「ふぇ?えでぇぶしぃー!!」


ロミオはスライムに顔をどつかれ、吹き飛ばされ、地面に転がり泥だらけになった。


「いってぇぇぇ。スライムに吹き飛ばされるとか、どうなってんだ?」


チート能力があるので、そこまでのダメージにはならなかったが、最弱モンスターに一撃食らったことは、屈辱であった。


自分が斬ったスライムに目をやると。半分にはなっておらず、体がくっついて再生していた。


「前に戦った時は、斬っただけで死んだのに……」


「ロミオ殿、おそらくこのスライムは、我々が知っているスライムとは違う、別の魔物なのでしょう。今一度、心してかかりましょう」


エリックに諭されたことが癪に触ったが、今はそれどころではない。

一匹ならまだしも、ロミオにダメージを通せる魔物が、数十匹もいるのだ。


まぁ剣がダメなら魔法の炎で焼き尽くせばいい。

ロミオがそう思って魔法発動しようとしたその時であった。


「うぇぇぇぇ、ゴホッ!ゴホッ!」


突然の吐き気がして、ロミオは胃の中のものを全てぶちまけた。


「こ、これは疫病!」


「おそらくあのスライムの攻撃、疫病のステータス異常を付加するものなのでしょう」


「姫様!どうかロミオ様の回復を!私はその間、なんとかこのスライムの大群をくい止めてみせます!」


「わかりました!」


魔法と薬でロミオの状態異常を治そうとするルイザを、ロミオは静止した。


「くっそ、スライムごときが!!調子に乗りやがって!俺はロミオ!勇者だぞ!!!」


ロミオの目は怒りに燃えていた。


「火球!!」


ロミオがそう言った瞬間、ドラゴンを倒した時のように、無数の火球が空中に出現した。


「消えろや雑魚虫!!!!」


ボボンボンボンボンボンボンボン


と、火球がスライムに被弾して花火のような音がしばらく続いた。

火球での攻撃が終わり、やがて辺りは攻撃の余韻である、白い煙に包まれた。


「へへ、どうだ……」




ロミオがスライムに囲まれていたちょうどその瞬間、鈴木もティアにおぶさり、スライムの群生地の沼地に到着していた。


「おぉー!!やってるやってる」


「ちょっと!さすがにおかしくありませんか?女神におぶさるとか、絵面やばいんですけど!」


「だって俺飛べんしな。せっかく作ったスライム空から見てみたいじゃん」


「はぁー」


ため息をつきつつも、ティアはなんだかんだ鈴木に付き合っていた。

実を言えば、テンプレ以外の魔物を作るのはティアにとって初めてのことであり、新しいスライム作りは、悔しいがめちゃくちゃに楽しかったのだ。


「おっ、俺が言った黒いボディいい感じじゃん?」


「確かに。なかなか沼地に映えてますね」


「お、スライム斬ったぞ、アイツ」


「くっついちゃうのに。馬鹿だねーあいつw」


ロミオがスライムにどつかれた時、二人は声を揃えて、


「「よっっっっし!!!」」


と言ってガッツポーズをした。


「うぇぇぇぇ、ゴホッ!ゴホッ!」


ロミオが吐いたのを見てティアが言った。


「見ろ見ろ!私が言った疫病付加!めっちゃ効いてるじゃん!(ニッコリ)」


「本当だぁ。マジでえぐいことするな。さすが女神だわ!」


ティアはガチで嬉しそうである。


ロミオが無数の火球を作った時、二人はアチャーっといった顔をした。


「あーあ……」


「やっちゃいましたね……」


二人は溜息の後にんまり笑う。


「「ぜぇーんぶ、無駄なのに」」



白い煙がはれると、そこにスライムの姿はもうなかった。

「す、すごいです!ロミオ様」


そお言ってルイザはぴょんぴょん飛び跳ね、巨乳をブルンブルン揺らした。


「さすがロミオ様!」


「へへ……」


ロミオの体は疫病でボロボロであったが、結果的に二人の尊敬を勝ち取ったため、かなり満足であった。


考えようによっては、この後ルイザが手当をしてくれる。それでさらに好感度を上げることができるはずだ。

まあおっぱいぐらい揉んでもいいだろう。


喜んでいる3人に絶望が訪れる。

ゴポリゴポリと嫌な音がした。


ティアは上空から満面の笑みで成り行きを眺めている。


「コアを完全に破壊しないと水分を吸い上げ、スライムは何度でも再生する。我ながらいいアイディアでした。」


「俺が真っ黒な体にしたから、従来の透明のボディーと違って、コアの位置がわからない。これは強敵ですわ。すげぇわティア!お前魔物づくりの才能あるわ!」


「いゃあー。それ程でもありますけどね!」


鈴木とティア、なぜか妙な絆と信頼関係が生まれていた。


ロミオは数秒で再生したスライムを見て、涙声でつぶやいた。


「嘘だろ、おい……」


ゆっくりとにじり寄ってくるスライムたちを見て、ロミオは初めてモンスターに対し、身も凍るほどの恐怖を感じた。


もう恥も外聞も無かった。

ロミオは鼻水と涙を垂らし情けなく叫んだ。


「誰か!助けてくれー!!!」

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