第4話 嫌われ者と陰キャ女子

鈴木おさむの朝は早い。


日課である10kmのランニングと筋トレをこなす為だ。


日課後には軽くシャワーを浴びた後、朝食を作り、珈琲と一緒に朝食をとる。


その後、学校にももちろん軽いランニングで向かう。


せっかくシャワーを浴びたので汗をかかない程度の軽いランニングだ。


鈴木の走る登校風景を見た同級生たちが、


「走って登校とか(笑)ウケる」


「走ってる顔キモッ」


「ウザっ!」


などと言っているなど鈴木は知る由もない。


教室に着くと鈴木は一人静かに大好きなファンタジー小説を読む。

ここ最近は携帯小説ばかり読んでいたので、本で読むファンタジーは久しぶりだ。


しかしそんな平穏な時間も長くは続かない。


「おい眼鏡。また本読んでるのか」


そう言ってニヤニヤと近づいてくるのはこのクラスで鈴木と同じくらい疎まれている厄介者、森本龍神(モリモトリュウジン)である。


鈴木は単純にウザくて煙たがられているが、森本はウザい上に不良気取りで、ちょっと自分がかっこいいと思っている節があり、鈴木よりも近づきたくない存在となっている。


幸いな事に、リュウジンは鈴木をイジったりイジメたりするのが大好きであり、弱い者いじめする俺カッケーとまで思っている。


クラスの皆は、鈴木には多少悪いとは思いながらも、「ウザいやつ同士絡んでくれて助かったー」と感じている。


「鈴木、その本貸せよ」


「すまない、リュウジン。これはまだ読んでいる途中なんだ。読み終わったら喜んで貸すが、今は待ってほしい」


鈴木の喋り方は何故か聞いている皆を苛つかせる。


「ああ?何だおめぇ?いつも思うけど喋り方うぜぇんだよ!」


クラスの皆は、お前もウゼェよと思いつつ、鈴木の喋りがウザいのは全面的に賛成だ。


「すまない。そんなつもりはなかった。今後気をつけるよ」


「そういうとこだよ!もうキレた!立てよ!」


そう言ってファイティングポーズを取る龍神。


静観していたクラスメイトも、流石にこれはヤバイと思い始める。


鈴木!どうにか森本の怒りを鎮めろ!


間違っても逆撫ではするなよ?


鈴木は椅子から立ち上がりこう言った。


「殴って気が済むなら殴ればいい」


鈴木ー!!!そういうとこだよお前!


実を言えば森本は初めから鈴木が何を言おうが殴るつもりであった。


それというのも森本の好きな女子である、クラスの人気者、須藤楓(ストウカエデ)ちゃんに鈴木を殴って強いところを見せ、アピールしようと思っていたからである。


陰キャを殴るのがカッコイイアピールになると思っている所が本当に痛い。


(見ていてねカエデちゃん。へっへっへ)


「喰らえスズキー!!!」


そう言って殴りかかる森本。


「ガキッ!」


モロに顔面にパンチをくらう鈴木。


「へへっ」


教室がざわめいた。


しかし不思議な事に、鈴木はよろめきもしない。たじろぎもしない。表情一つ変えない。

これには森本も焦った。


「ふ、ふっ!もう一発喰らえ!」


またも顔面にクリーンヒット!しかしやはり鈴木は微動だにしない。


意地になって何発もパンチを打ち込む森本。

だが結果は変わらない。


「うっ!」


そう呻き声を上げたのは鈴木ではなく森本の方であった。


「きょ、今日はこの位にしといてやるぜ」


「そうか。本当に済まなかったな」


鈴木は涼しい顔をしている。


森本はと言えば、脂汗を流し、顔を引きつらせながら、ホームルーム前なのに教室を飛び出していってしまった。


森本が出ていくと、クラスメート全員の緊張は一気にとけた。


「良かったー。森本のパンチが激弱で」


「鈴木も煽るなっての」


「ホントだよねー。鈴木も森本も最悪」


と何故か鈴木の評判も地の底であった。


しかしクラスでただ一人だけ違う評価をしている者がいた。


クラスでも目立たない眼鏡女子の笹垣春菜(ササガキハルナ)だ。

彼女が眼鏡を外し長い前髪を切れば割と美人であることを、クラスの誰一人として知らない。


ササガキハルナは一人思っていた。


(ヤッベー!鈴木くんヤッベー!森本のパンチ全部額で受けてたよ!あの数のパンチあの至近距離で全部合わせるって何者よ!)


実は春菜は大の格闘技ファン。先程のファイトを見て身体中が熱くなっていた。


(森本の拳、絶対骨折れてたよ!そんで鈴木くんの身体!!なんで皆気づかないの?格闘家なら誰もが憧れる理想の筋肉だよ!)


そう考えて春菜はヨダレを垂らしそうになる。


鈴木は何事も無かったかの様にまた本を読み出している。

春奈は鈴木に話しかけたい気持ちをグッと堪え、今日も陰キャを貫くのであった。

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