第2話 戦う理由

「お前の罪を数えよう……」


そう言って筋肉おばけの眼鏡陰キャが近づいてくる。


正直顔は全く強そうに見えないが、俺はあの一撃を思い出してゾッとした。


(えっ?嘘。なんであいつまだ近づいてくるの?見た目超弱そうだけどあの目と筋肉!絶対ヤバイよ!一人か二人やっちゃってる目じゃん?ヤバイよ、ヤバイよ)


思考が纏まらない。


「ちょ、ちょっと待てーー!!」


俺は必死にそう叫んだ。


すると予想に反してクソ筋肉陰キャはピタリと足を止めた。


「なんだ?」


予想外の反応にとりあえず胸を撫で下ろす。


(あぁ、良かった。この男とりあえず会話はできそうだ。それなら……)


「君はおそらく日本からこの世界に転生したんだろ?だったら俺も同じだ!なんか勘違いしてるかもしれんが俺達は敵同士ではない!仲間なんだ!!」


「……いや、俺はお前の敵だ」


いや、何でだよ!本当に何なんだよ!あんなキノコに恨み買った覚えはねぇよ!

俺は頭をガリガリと掻きむしった。


すると何かを察したのか、くそ陰キャ鈴木おさむは自分から何かを語りだした。


「いいだろう。なら教えてやろう。お前が犯した罪を……俺は小さい頃から剣と魔法のファンタジーが大好きだった。小学生の時はあの分厚いミヒャエル・エンデの果てしない物語を何度も読んだし、中学の時は少ないお小遣いを貯めて指輪物語を全巻買った。

そんな俺がネットなるものに、ファンタジー小説が山程載っているとクラスメイトから聞いた時、その胸の高鳴りと言ったらどんな物であったろうか。

俺はワクワクしながらそのサイトを開いた。

しかし俺の目に飛び込んできたのはファンタジー小説とは認めたくない。

少なくとも俺にとってそれは小説とすら呼べないモノであった。

テンプレ通りの主人公達、必ず付与されるチート能力、何故かモテる陰キャ、キンキンという効果音だけの戦闘、そして何より腹が立ったのは鈍感で愚鈍な主人公達の性格だ。

読まないで批判はできないと、きっちり100の作品を俺は読みきった。

最初は怒りであった俺のテンプレ勇者に対する気持ちはいつの間にか殺意になっていた。

ちょうど100作品を読み切り、その糞小説っぷりに力が入りスマホを握りつぶしてしまったその瞬間、急に目の前が真っ白になった。

しかし真っ白になったのはほんの一瞬。次の瞬間俺は……異世界に転移していた。

そして出くわしたあの場面。

「……火球」、「チェックメイト」お前のカッコつけたセリフに虫唾が走ったが、俺はグッと堪えた。

だが、あのセリフ。俺が心の底から憎んでいるあのセリフ。

「あれ、オレまたなんかやっちゃいました?」

お前がこれを言おうとしたその瞬間、俺の身体は勝手に動き出していた。

そして……今に至る……と……言うわけだ……」


「えっ、嘘でしょ?ちょっと待って?そんな理由で俺殴られたの?それだけ?ホントにそれだけ?」


「うん。それだけだ」


俺は気の抜けるようなそのセリフを聞いて怒りが込み上げてくるのを感じた。


「今の話だと、お前女神からチート能力貰ってないよな?」


「女神……知らんな。もしくれるとしてもそんなもん断るし」


チートスキルの一つ鑑定によれば、鈴木は嘘を言っていない。


だとすれば殴られてダメージを貰ったのに疑問が残るが魔法で対処さえすれば自分の方が圧倒的有利。


魔法を使えば鈴木に勝ち目は万に一つない。


「身体強化」


そう言って俺は魔法でステータスを何倍にも上げた。


「よくもやってくれたなくそ陰キャ!」


チート能力が無いと分かれば恐くもなにもない。

俺はハーレム計画の最初の一人と密かに決めていた巨乳姫の前で殴られ恥をかかされた事に、実は怒り心頭であった。


「ほぉ、やる気になったみたいだな」


鈴木はコキリと首を鳴らす。


「殺してやる!鈴木!」


「やってみろ」


二人の糞くだらない理由で始まった戦いの火蓋は、今切って落とされたのだった。

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