どう考えても、魔法より筋肉の方が強い

唐土唐助

第1話 チート勇者にあのセリフは言わせない……

「う、嘘でしょ。レッドドラゴンだなんて……勝てっこないわ……」


「ひ、姫様!どうぞ姫様だけでもお逃げください!」


そのセリフ通り、体長15メートルはあろうかという巨大なドラゴンが、姫と呼ばれた美しい女性の前に立ちはだかっている。


そしてそれを守るように剣を構え仁王立ちする屈強な鎧姿の男。


正にファンタジー小説の一幕といった具合の一光景だな。


この兵士長風の男はおそらく腕も経つのだろうが、ドラゴン相手では約不足かな?このままでは間違いなく死ぬな。


「馬鹿をおっしゃい。私は誇り高きラインズ王国の姫です。私も戦います」


と、この姫様も死ぬ事が確定しましたっと♪


しかし、幸いと言うか何というか、二人の他に、ここには俺がいるんだなー♪

良かったね、お二人さん。


仮に俺をライトノベル風に例えるなら……


身長は170くらい。長く伸びた前髪以外はこれといって特徴のないその男。

しかし重要なのはそこではない。彼は黒い謎の衣服に身を包んでいた。そう、それは日本の学生服。

彼の名は林原露澪(ハヤシバロミオ)。現代日本から異世界に転生して来た勇者であった。


なんてね。


「黒くて怪しい男よ。そなたは逃げるが良い。ここは私達で食い止めて見せます」


「姫様!町民を自ら守ろうとするその美しいお心!私は姫様に仕えられた事、誇りに思います!」


「あら、縁起でもないわね。エリック騎士団長、私達も生きて帰るのよ」


ちょっと自分に酔いすぎだよねー。

まぁでも姫様可愛いしいいけど。


さ、そろそろやりますか。


緊迫した二人の空気とは打って変わって、俺は目の前の赤いドラゴンを見て気だるそうに溜息をついてみせてやる。


(はぁー。またこんなちっさいドラゴンかよ。これじゃあまたレベルは上がらないな)


やれやれと言ったふうに首を振ると、ドラゴンは口から炎を揺らめかせ、俺の方をじろりと睨む。


次の瞬間、ドラゴンの口から俺達目掛けて炎が吐きかけられた。


「駄目!」


姫がどうにか俺を守ろうと俺の身体を突き飛ばそうとするが、それよりも速く炎は迫る。姫様いい子やん!

まぁ大丈夫大丈夫。


「シルフ」


俺がそう一言だけ静かに言うと、周りに透明な風の盾が現れた。


風の盾はドラゴンの炎を押し返し、届きもしない。


ドラゴンの炎による攻撃は10秒近くも続いたが、とうとう火傷の一つも与えられなかった。


残念ながらドラゴンの言葉を感じ取る事は出来ないが、この時のドラゴンは「あれ?なんで丸焦げにならないの?」っといったキョトンとした間抜けな面に見えた。


「さて、じゃあ次はこっちの番だ。いくぞ……火球」


俺がそう呟くと、空中に無数の炎の玉が出来ていく。1個、2個、3個……10、50、100、200……。


さぁ、その数ざっと500。大地の覇者であり、空の覇者でもあるドラゴンもこれには身の危険を感じずにはいられなかったようだ。


すぐさま逃げようと翼を広げるがもう遅い。


「チェックメイト」


俺がそう言うと、炎は物凄いスピードでドラゴンに一斉に襲いかかった。


レッドドラゴンは「ウォーーン」と言う断末魔を上げて、3秒、たった3秒の後、まっ黒焦げの焼きトカゲになり、ドシンと地面に倒れてしまった。


俺はカッコつけてもう一度溜息をつく。


「はぁ、また今日の飯もドラゴンかよ」


この光景を見ていた姫と呼ばれていた女は、


「う、嘘でしょ?あのレッドドラゴンを一瞬で……」


さらに騎士団長の男も驚きを隠せない。


「わ、私の見間違いでなければ、呪文の詠唱を省略しておりました!あんなこと、大賢者様でも……」


いいぞいいぞ!予定通り!

あとはあのセリフを言うだけ!


頭をポリポリと掻きながら、お決まりの決めゼリフ。


「あー……もしかしてオレ、またなんか……」


その時だった。


「さぁーせるかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


けたたましい地鳴りの様な叫び声と供に、目にも留まらぬ正拳突きが俺の眼前に現れる。


思考が追いつかぬままに、その左頬に強烈な右ストレートが炸裂した。


「うげぇひどぅえぇ」


と言うカエルの鳴き声の様な呻き声を出してしまい、俺は10数メートル先まで吹き飛ばされた。


姫も騎士も一瞬の事でポカンと口を開いたまま、俺を殴った男を見た。


俺と同じ黒ずくめの服を着ているボサボサ頭、瓶底眼鏡の一見して冴えない男。

しかし眼鏡の奥の瞳は、ギラギラと野獣の様に輝いている。


「それ以上……言わせねぇよ……」


男は低い声でそう言い、ポキリポキリと拳を鳴らした。


俺は一瞬ボーっとなってしまったが、口の中の血の味に気が付き、意識を取り戻した。


(痛い、痛い!顔が燃えるように痛い!こんな痛み感じた事今までにない!何で?俺女神から超チートスキル貰ったよね?ステータス上限超えてるんだぞ!?俺にダメージ与えられる奴なんて……)


俺は自分を殴り飛ばした奴を見て「あぁ」と納得がいった。


こいつも現代人だ。チート能力を貰ったんだ!

それなら説明がつく。でも何で俺はいきなり殴られたんだ?


「鈴木おさむ……」

「へっ?」


「覚えておけ。お前に天誅を下す名だ」


そう言ったかと思うと、鈴木の筋肉がみるみる膨張していき、着ていた学生服の上着が吹き飛んだ。


「!?」

「!?」

「!?」

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