【ー記憶ー】114

「はぁ!? なんでなん? 俺は別に体どこも悪くないんやけど」

「そうなのかもしれねぇけど、今までの研修で体ボロボロなんだろ?」

「あ、ああ、まぁな」

「点滴したら、体回復するしさ」


 和也はそう言うと雄介の為に点滴の用意を始める。


「あー、和也、それさぁ……貸してくれねぇ?」


 何かこう雄介に近付く口実でも見つけたのか、それとも和也が、こういう行動を起こしたら望がそう言うであろうとでも思ったのか、望は和也から点滴を受け取り、


「クス……雄介良かったな。 望自らやってくれるんだってよ」

「バカな事言ってねぇで、お前はあっちに行ってろよ!」

「へいへい、俺は二人のお邪魔になんないように出て行きますよーだ」


 そう言うと和也は診察室を出て行く。


「雄介、腕出せ」


 まだ雄介とは上手く会話が出来そうにもないのか、そう望はそうぶっきらぼうに言うのだ。


「あ、あー、ああ、せやったな」


 そんな恋人の行動にというのか、久しぶりの望にとでも言うのであろうか雄介の方も顔を赤くさせていたのだから。


「何だか脈の方も早い感じがするんだけどさ」


 そんな事を言う望。 ある意味照れ隠しの為か、業務的な事を口にしているようにも思える。


 きっと望の場合には無意識に医者として言ってしまっていた言葉なのかもしれない。


 その望の言葉に雄介は、望の腰辺りを抱きしめ、


「まだまだ、俺が望に恋してるって証拠やって……」


 望はその雄介の言葉に、こう複雑そうなというのか、完全に雄介からは視線を反らして頰を指先で掻くのだが、雄介はそんな望にはお構い無しに望の体を自分の方へと引き寄せ自分の膝の上へと座らせるのだ。


「ぁ……ちょ、お前」


 いきなり雄介に抱き締められて望は真っ赤な顔をして雄介から逃れようとするのだが、雄介の方はもう離さないとばかりに手に力を込める。


「久しぶりやんなぁ、この温もり」

「あ、ああ……まぁ……た、確かにな……」


 そう言われて望の方も顔を更に赤くする。


「望やって脈早いやんか」

「……俺だって……俺だって……」

「ん? 何?」


 雄介は望の顔を笑顔で見上げる。


「お前の事……待ってたんだからな。 いきなり、記憶が戻って、その……気付いたらお前の姿がなくて、それで、和也に聞いたら雄介は今は春坂市にはいないって言われたんだからな。 俺も、お前がいない間……俺だってなぁ」


 この後を上手く言葉を繋げられないでいる望。


 その後は雄介が望の言葉を繋いで、


「寂しかったんやろ?」

「うん、あ、ああ……まぁ……」

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