【ー記憶ー】14

「そりゃ、分かるけどさ、俺はさっきシャワーって言った筈だぜ」

「スマン……。 先に望に言うておけば良かったんやけど、俺な、風呂だけは浸からないと入った気ぃせんへんのや。 そうそう、風呂に浸からんと疲れが取れたって気もせぇへんしな。 ま、そういう事やから、風呂には浸かるのが俺流の入り方なんやで」


 そう言いながら雄介は浴槽から上がって来る。


 そして雄介は今望と会話していてある事を思い出してしまったようだ。 今までお風呂場で寝ていたから半分忘れていた事だったのだが、頭が冴えてくるにつれ思い出してしまったようだ。


 そう望にお風呂に入る前に自分はお風呂に入った時にシャワーではなく浸からないと入った気がしないという事を伝えられなかった理由をだ。


 さっき、お風呂に入る前に雄介は望の事を後ろから抱きしめたのだが、それを断られてしまった。 だから、その事でヘコんでしまった雄介は望には何も伝えずにお風呂場へと向かってしまったのだから望にその事を伝えるのを忘れていたということだ。


 雄介の方は先程の事を思い出してしまったのか、その事について悩んでいると、望の方はもう何も考えていないのか、それとも雄介にそんな事を言った事を忘れてしまっているのか明るい声で、


「じゃあ、早く着替えて来いよな」


 そう笑顔で言う望。 そして望はそれだけを雄介に伝えると、脱衣所から出ようとした瞬間、


「ホンマは俺の事、心配してないんと違うか?」


 雄介はそう小さな声で言ったつもりだったのだが、どうやら望の耳にはっきりと聴こえてしまっていたようで、望の方は脱衣所のドアを響かせるような音を立て閉め脱衣所を後にしてしまう。


 そんな事があったからだろうか雄介が着替えて出て来て食事をした際には二人の間に会話すらなくなってしまっていた。

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