【ー記憶ー】12

 何もなければいいのだけど。 と思いながら望はテレビの方へと視線を移す。


 テレビの方に視線を移してもなかなかお風呂から上がって来ない雄介が気になってるからなのか、テレビに集中する事も出来ないでいる望。


 そこでフッとある事を思い出したようだ。


 確か、ある夜に運ばれて来た患者さんの奥さんの話によると、


『お風呂場で足を滑らせて頭を床へと打ち付けたらしく意識が戻らない!』


 と言う事だ。


 その事を思い出すと、望は直ぐに立ち上がって急いで雄介がいるであろうお風呂場へと向かうのだが、それでもやっぱり付き合い始めたばかりで裸のままでいるお風呂に向かうのは躊躇する所だ。 だが先ほどの事を思い出してしまったのだから雄介の事が気になって仕方がないのかもしれない。


 とりあえず風呂場へと向かう事にした望はリビングを出て廊下へと出るのだが、お風呂場からは水音は一切聞こえて来なかった。 シャワーだけなら廊下に出た時点で水音が聴こえて来てもおかしくはないのだが。 何故かその廊下に足を向けても一切シャワーの音は聞こえて来ない。


 やはりさっきの話が頭の中を過ってる望。 完全に不安と心配事が望の脳裏に出て来てきているのであろう。


 望がそんな心配している中、やっとの事でお風呂場へと着き扉を開けると、そこにはぐったりとした雄介の姿が視界へと入って来た。 やはり望が思っていた事が的中してしまったということなのであろうか。


 望は声を荒らげてまで、雄介に声を掛ける。


「おい! 雄介!」


 部屋内にも響き渡りそうな声で雄介を起こそうとするのだが、まったくもって雄介が起きて来る気配はなかった。


 そんな雄介にパニックを起こしても仕方がないと思った望は深呼吸をすると、医者の性分なのか雄介の手首を取って脈を計り始めるのだ。

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