【ー記憶ー】7
未だにハンドルだけを握って俯いている状態でいる望。
そんな望に、雄介は心配そうに見つめるのだ。
「望? 大丈夫かぁ?」
「……へ? あ、ああ……」
暫くして、やっと望は落ち着いてきたのか顔を上げるとやっとのことで雄介の事を見る事が出来たようだ。
「なんだ? 何か言ってたのか?」
「今まで話聞いてなかったんか? まぁ、それはええとして……あのな、何処行くん? って聞いておったんやけど?」
「え? あ、そうだったな。 そうだな、レストランでいいだろ?」
「俺の方は食えるんやったら、何処でもええよ」
そう雄介は一声返すと、望の方はやっとの事で落ち着く事が出来たのかアクセル踏み車を走らせる。
暫くして車を走らせると、今までは住宅街の中で静かな所にいたのだが、少し車を走らせると賑やかな街へと出た。
ここは東京。 昼間も活気溢れている街なのだが、夜の方も負けない位に賑やかな街でもある。 そう眠らない街とも言われているだけあって夜だって街は至るところでネオンの光りに溢れお店は活気で溢れているようだ。
昼間も昼間で人々が行き交っている街なのだが、夜になったってその人混みは変わらない感じだ。
明日は土曜日だからであろうか。 人々は明日が休みという人が多いのであろう。 だから今日は普通の平日に比べたらゆっくりと出来るという事もあってか車の方も渋滞に引っかかってしまっていた。
そんな渋滞に引っかかってる中、道を挟んだ向こう側では店員さんが声を張り上げて客達を呼び込もうと営業をしている。 そんな姿も望からしてみたら普通の光景だった。
渋滞に引っかかりなかなか動かない車にため息が漏れる。
「見事に渋滞に引っかかっちゃったみたいだな。 この状態だと暫く動かなそうなんだけど?」
「せやな……。 望は何処に行くつもりやったん?」
「え? 高層ビルの最上階にあるレストランだけど……嫌だったか?」
雄介はその望の言葉に眉間に皺を寄せ、
「あー、さっき言うとけば良かったな。 俺はその、その辺にある牛丼屋の方が気楽で良かったんやけどな? そう高級そうな所は……なんていうんか、疲れるって言うんかな?」
「あ、そうだったのか……」
その雄介の意見に気持ち冷たく返してしまう望。
まぁ、渋滞に引っかかってイライラしていたっていう事もあったからであろう。
しかしまだ二人は恋人になって初めてプライベートで会ったのだから、喧嘩なんかしたくはないと思ったのか望はそれでも気持ち的には押さえて言ったつもりだ。
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