前のエピソード――【ー記憶ー】4

　後もう少しで久しぶりに恋人に会える。

　きっと望の胸の高鳴りは最高潮なのかもしれない。

　今はそれだけ望の方も雄介の事が好きだという事だ。　相手の事を好きにならなければ胸が高鳴るという事はないのだから。

　そして望が消防署の近くまで来ると雄介の姿が目に入ってくる。

　久々の再会。

　寧ろ病院では会っていたのだけどプライベートで会うのは初めての事だ。

　望は雄介がいる場所で車を止めて運転席側のスイッチを押し雄介に向かって笑顔を見せる。　そう望の車は白色の外車なのだから歩道側の窓に顔を出す事が出来た。　そんな望に雄介の方も笑顔で、

「久しぶりやんな！」

　そう声を掛けてくる雄介。

　久々に聞く恋人の声に懐かしく感じてしまうのだから、望と雄介はそんなに会っていなかったという事だ。

　雄介が退院して約一ヶ月。

　普通に雄介と望はそれくらい会ってなかったという事になる。　だからなのか雄介の声が懐かしく感じてしまうのは仕方ないのかもしれない。

　少し忘れ掛けていた胸のトキメキが戻ってきていたのか、望は雄介の事を時が止まったかのように見つめてしまっていた。

　だが二人の間に沈黙が流れてしまい望はそんな状況に思い出したのかのように、

「あ！　そうそう！　話はさ、車の中でいいだろう？　早く乗れよ！」

　そう言うと、雄介は望の車へと乗り込む。

　流石に初めて乗り込む車にこう自分から乗り込むのは失礼だと思っていたのか、どうやら雄介は望の言葉を待っていたようだ。　だから二人の間に沈黙が流れてしまっていたようだ。

　雄介が車へと乗り込むと、今まで望は雄介の顔しか見ていなかったからなのか、今日の雄介の服装に気付く。

　今日の雄介の服装というのはスーツ。　今まで病院服とか消防服とかでしか見た事がなかったのだからスーツ姿というのは新鮮なのかもしれない。

　そんな雄介に見とれていると、

「な、望？　……望！？」

「……え？　あ、ああ……何だ？」

「どないしたん？　さっきからボッーとしとるみたいやけど？」

「あ！　いや……なんでもない？　なんでもねぇから！」

　雄介に声を掛けられて、やっと我に返ったのか望は前へと向き直すとハンドルへと手を掛ける。　だが次の瞬間、唇に温かいものを感じたようだ。

「……ん」

　何だか、そのキスでさえも久しぶりに感じる。　そして懐かしく感じるのは気のせいであろうか。

「……ん……ぁ、雄介……？」

　唇を離れたと同時に無意識に甘い声を出してしまっていた望。

　雄介の方はそんな望に満足したのか、それともここはまだ道路だという事に気付いたのか、

「ほな、行こうか？」

　そう普通に切り返えすのだ。

　そこにため息を吐きそうになったのだが、そこでため息を吐いてしまうと面白くないと思われるのが嫌だったのか正面へと顔を向直す望。

　もう少し、この状況を楽しみたい。　久しぶりの恋人の再会に甘い気分に浸りたいと思ったのだが現実世界ではそういかないようだ。　　雄介の方も今何もなかったかのように正面へと体を向き直すとシートベルトを締める。

　そんな雄介に切なそうな表情をする望。

　だって本当に久しぶりの雄介との再会にもっともっとこう恋人らしい事をしたいと思っているのに今のこの状況で出来る訳がない。　鼓動だって、また早く波打っているのに。　恋人といるといつまでもこの鼓動は遅くはならないのかもしれない。　もう、その鼓動があまりにも早すぎて息が止まってしまいそうな感じにさえもなっている。

　未だにハンドルを握ったまま車を動かさないでいる望に、

「……の……ぞむ……？　ほな、何処行く？」