【ー友情ー】4

「とりあえず、今日一日何も無ければ、明日には一般病棟に移れますからね」


 そうその患者さんに優しく言う望。


 そんな風に言ってくる望に未だに意識がハッキリとしてないというのか、ぼんやりとした瞳で望の事を見つめている桜井。


 ただ単に意識がハッキリしていなかったから、そういう風に望の事を思ってしまっていたのか、桜井は、


「俺の担当医さんは女医さんなんやなぁ。 俺、初めてこんな可愛い人を見たような気がするわぁ……」


 その言葉に若干なのか、それとも相当頭にきたのか、そこは分からないのだが望はその言葉で直ぐに機嫌が悪くなってしまったようだ。


 確かに望は昔から女性っぽい体付きに身長もそこそこだったからなのか女性っぽいとたまに言われていた。 いやそれでも身長の方はわりと高い方なのかもしれない。 だって日本人男性平均身長よりは全然上なのだから。 要は女性でもモデルさんが望位の身長なのだから、望の後ろ姿というのはモデルさんみたいだからだろう。 しかし望からしてみたら本当にそれだけは絶対に言われたくなかった言葉だったのかもしれない。 暫くその事について触れられた事がなく忘れていたかけていた事だったのだが、桜井にその事について触れられてしまい不機嫌そうな顔をしていた。


  そう本当に望にからしたら一番言われたくない言葉で、それを本当に全くも関係のない他人に言われてしまったのだから望の心の中は穏やかではないってことだろう。


 望はさっさとこの病室を後にしたかったのか、そこにいた和也に怒った口調で言うのだった。


「とりあえず、足は痛いと思いますので注射の用意していただけますか!?」


 桜井に注射を打つと速攻ICU室を後にする望。


 その病室から自分達がいる部屋へと戻る途中、今の桜井の言葉が頭の中を過ぎっているのか険しい表情のまま病院の廊下を歩くのだ。


 今の望の心の中はマグマが煮えたるような思いなのかもしれない。 それ位、望にとって自分が女性に見られるっていう事が嫌な事なんであろう。


 そして和也と望の部屋に戻ると持っていた桜井さんのカルテ等を思いっきり机へと叩きつける。


 これが桜井と望の出会いだった。


 出会いは最悪。


 だが、この後に起こる事で二人の距離は少しずつ縮まっていくのだ。




 それから暫くして何も無かった桜井は無事に一般病棟の方へと移される。


 ストレッチャーで桜井の事を一般病棟へと運んで行く和也。


「申し訳ないのですが、只今、この病院は病室の方が個室しか空いてなくて、個室の方で大丈夫ですかね?」


 そんな話をしながら和也は一般病棟の病室へと入ると、桜井の体を抱き上げてベッドへと移すのだ。 和也からしてみたらもう何年もこの仕事をしているのだから男性一人位持ち上げるのは簡単な事のようだ。


「まぁ、今回は仕事中の怪我ですし、きっと、上の方からお金も出ると思うので大丈夫だと思いますよ」

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