【ー友情ー】3
その時その患者さんが目を覚ましたと同時に声を掛けたのは、昨日望と一緒にその患者さんの事を見ていた梅沢和也だ。 たまたまICU室にいたのか、それとも昨日の今日でその患者さんの様子を見ていたのかは分からないのだが、その患者さんに声を掛ける。
「目覚められました?」
「あ、ああ……まぁ……」
そうゆっくりと返事をする患者さん。
すると間髪も入れずに、
「ここは……?」
呼吸器の合間から聞こえて来る声というのは籠もって聞こえてきてしまいハッキリとは聞こえて来ないのだが、和也はその言葉を聞き取ると、
「ここは病院ですよ。 まぁ、ここは病院の中でもICU室という所ですけどね。 桜井さんは昨日の現場火災で怪我をされて、この病院に運ばれて来たんですよ。 覚えていらっしゃいますか?」
「あ、まぁ……なんとなくなら……」
看護師である和也はその患者さんが意識を取り戻したという事もあってか、その患者さんへと近付くと付けてあった呼吸器を外す。
「あー……確かに、そうやったわぁ……俺、あの現場で、二階から一階に落っこちたんやっけな……? ほんで、怪我しとったから、この病院へと運ばれたって事やんな?」
そう怪我した事を思い出したのか独り言を漏らすのだ。 きっと意識がハッキリとしてきたと同時に昨日の記憶も蘇って来たという事だろう。
和也はその患者さんに付いていた呼吸器を外すと先程とは違い籠もったような声ではなくハッキリとした声を聞こえてきくる。
そう一人納得しているその患者さん。 だが和也の方は業務の方をこなさなければならない。
一つ軽く咳払いをすると、
「あの……思い出して下さるという事は記憶の方には問題がない事になるので、宜しいのですが、お一つだけお聞きしても宜しいでしょうか? ご自分のお名前って分かりますか?」
「あ、あぁ! 俺の名前か? 俺は桜井雄介って名前やけど」
「そうでしたか、ありがとうございます」
そう言うと和也はパソコン画面に向かい、その患者さんの名前を確認したようだ。
そして和也は担当医でもある望に連絡を入れると、暫くして望はICU室へと入って来る。
そうここは重症者患者さんが多いICU室なのだから例え医者であっても髪の毛一つも落とせない場所だ。 だから髪の毛を覆う帽子にマスク着用は必須なのだから瞳しか見えていない状況でもある。
望はその桜井さんの所へと来ると業務的な言葉を掛けるのだ。
「体の方は痛くないですか?」
「あ、ああ……はい……まぁ……」
その声を掛けている間に望はその患者さんの様子を聴診器で診ている間、桜井はジッと望の事を見上げてしまっていた。
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