第35話

「それじゃあ、すぐに戻ってくる」


沙希はそう言って、俺にキスをしてから、窓を開けて出ていった。


窓と言ってもガラスがはめ込まれているものでは無く。

木製の雨戸のようなもので蓋をされているだけのものである。

夏は隙間から風が入ってきそうだし。冬はすきま風が寒いだろうし。


兎に角、俺も早く着替えて村の入口まで沙希を迎えに行かないと。


「と言う訳で、さっきまでここにいたのは間違いなく俺の婚約者なので襲撃者とかでは無いです」


その前にドアを開けて、武装して様子を伺っていた料理担当のオッチャンに事情を説明する。


「突然、高度な魔法が使われた感じがしたから。襲撃でも起きたのかと思ってヒヤッとしたぞ」


やっぱりこのおっちゃん只者じゃ無さそうだ。



おっちゃんは、直ぐに朝食の仕込みに戻ると帰って行った。


「アレーネさんも起きてください一緒に沙希を迎えに行きましょう」


さっきからずっと寝たフリしてるのは知ってるし。

このまま放置していくのもアレだろう。


「勝吾さんって小さい人が好みなんですか?」


「いや別に小さい人が好きというか。沙希が好きってだけだよ?」


ボンキュッボンなお姉さんみたいな人も普通に好みではあるよ?


(そう言えば、マスターが寝てる間に沙希様は先にアレーネさんのことを起こして、お互い勝吾のお嫁さんとして仲良くしよう的な話をしていましたね)


なんかもう色々とすっ飛ばしてないですか?


(沙希様は時間の無駄だと。アレーネ様をハーレムに入れないなら、勘違いさせないようにもっと距離を取れ、嫌なら責任を取りなさい。とも言ってましたね)


まぁ、確かに沙希の言う通りなんだよな。


(アレーネさんにしても、マスターとそういう関係になってもいいと思っているから。この距離感を拒否してないんですから。沙希様の言う、時間の無駄って言うのは間違ってないと思いますよ)


「俺が寝ている間に話が進んでたみたいですけど。俺的には悪い話じゃないですし、末永くよろしくおねがしますね。アレーネさん」


「はっはい!よろしくお願いします!」


アレーネさんの出かける準備が終わるのを待って沙希を迎えに行くために村の入口に向かった。



「それにしても、拓真までいるとは思ってなかった」


クラスメイトの女子を1人保護しているとは聞いてたけど。

拓真までいるとは……


ちなみに拓真は例の学校に食用乾燥コオロギを持ってきた。昆虫食大好き残念イケメンだ。


「勝吾の友人だし。見つけた以上放置するのもどうかと思ったから。……置いていた方が良かった?なら、元の場所に返してくるけど」


驚いただけで、ダメとは言ってないからね?

と言うか。沙希の中で、拓真の扱いって野良犬とか野良猫的な感じなの?

元いた場所に返してくる?とか言ってるし。


「別にそんなことする必要ないからね?」


「そう?」


「それにしても、拓真も元気そうで良かったよ」


数少ない友人だし。


「沙希さんに拾われたおかげで、何とかね」


それで、残りがクラスメイトの女子1人と巨乳な猫獣人か……


獣人は初めて見たな。

と言っても。人間にケモ耳と尻尾が生えてるだけの。獣要素があまり高くないタイプの獣人だな。


「猫獣人の名前はミケーネ。冒険者としてそこそこ強いらしいけど。魔物にやられた怪我のせいで、左足が壊死。死にかかっていたところを拓真が連れて来たから。治療して上げたら懐いて付いてきた」


外見イケメンが行動までイケメンなことしたら、惚れないわけないだろう。

実際、ミケーネさんは拓真にベッタリだし。


「よろしくにゃ」


語尾ににゃってはいるタイプの人なのね……


「で、最後が咲月。転移した場所が一緒だったから、そのまま保護した」


「何度か話したことはあると思うけど、改めてよろしく」


話した事あったっけ?まぁ、いいか。

一気に大所帯になっちゃったし。このまま門の近くで話していると邪魔になっちゃう。


とりあえず。昨日立てた予定通り、ティリス教の教会に向かって歩き出した。


「そう言えば、ケーブスパイダーって言う蜘蛛型の魔物の足がドロップしたから拓真に上げるよ」


まぁ、ちょっと味が薄めのカニって感じで、普通に美味しいから自分で食べてもいいけど。

ダンジョンに潜ってれば、また手に入るだろうし、拓真に上げよう。


「おぉ、蜘蛛の足!」


流石拓真。蜘蛛の足を貰ってあんなにはしゃげるとは……


ダンジョンでドロップするよって言ったら

すごいやる気になってた。


なんと言うか変わらないな。それそれで、安心できるけど。


「これは勝吾様。我々の教会まで御足労頂き誠にありがとうございます」


ティリス教の教会にたどり着いて、シスターさんっぽい人に、レベルを上げたいんですけど、どうすれば良いですか?って聞いてみたら焦った様子で中に引っ込んで行って。

俺にメダルをくれたフレンさんを連れてきてくれた。

あの時はフードを深く被っていたから顔が確認できなかったけど。

全てにおいて中性的と言うか性別どっちなんだろうっていう容姿をしている。


「レベルアップの儀を御要望との事ですので、私がご案内させていただきます」



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読んで頂きありがとうございます。


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