第30話
グールを殴って革手袋付与した衝撃の効果を発動させて、壁まで吹き飛ばす。
「これで少しは時間が稼げるだろう。今のうちに怪我した奴を通路まで退避させろ」
このダンジョンは、通路に逃げれば魔物は追いかけて来ないので、勝てないと判断したなら盾持ちが攻撃を凌ぎながら通路まで退避すれば良いのにって思ってたけど。
4人パーティーのうちの1人が、腹部からかなり出血して地面に座り込んでいた。
グールの攻撃を受けながら、怪我人を連れて退避するのは難しかったか。
取り合えず。一人でも何とかなるだろうし俺がグールの相手をしている間に通路まで退避して貰おう。
「恩にきる!」
怪我人を担いで通路まで下がって行った。
「オイオイ。お前の相手は俺だろうが!」
グールは壁を蹴って自ら弾丸になって、逃げる冒険者に突っ込もうとしたので、横から殴って衝撃でもう一度壁まで吹き飛ばす。
うーん。刻印術を付与した小石を使っていいなら、あっさり倒せるんだけど。
アレーネさんはともかく、他にも見てる奴らがいるからな。
聞いたこともない謎のスキルを持っているとか思われると、面倒臭い。
謎のスキルに興味を持った権力者にちょっかいをかけられたくない。
そう言う時はティリス教会に頼ればどうにでもなるかもしれないけど。
あまり借りを作りすぎるのはね……
ティリス教会からお願いされた時に断りにくくなっちゃうから、出来るだけティリス教会に借りはつくりたくない。
なんで俺にティリス教会があのメダルをくれたのか謎すぎるし。
となると、このまま衝撃以外の刻印術は使わずに身体強化だけで倒した方が良いだろう。
でも、まぁ。衝撃のおかげで軽く殴っただけで壁に激突してHPも削れてってるし。
このまま軽く殴り続けてれば、グールのHPを削りきって倒す事も出来るだろう。
その前に怪我人の退避が終わって、まだ戦える人が帰ってきてくれると有難いんだけど。
「ファイアーボール」
グールが壁に激突した瞬間追い討ちをかけるように火球が飛んでいきグールにあたって小爆発が起きる。
杖を持ってた冒険者か。
魔法使いで遠距離攻撃ができるから、早い段階で援護に戻って来てくれたか。
戻ってきたと言うより通路ギリギリの場所から攻撃してくれてるって感じだけど。
まぁ、グールにダメージを食らわせてくれるならどうだっていい。
「シルフ。勝吾さんの援護を」
アレーネさんが契約している精霊も風の刃で攻撃してダメージを稼ぐ。
後衛がダメージを稼いでくれるんだから俺はこのまま、さっきから壁を蹴って弾丸のように突っ込んでくる事しかしてこないグールを吹き飛ばして後衛に近づかせないようにしてれば良いだけだ。
グールの知能が低くて助かった。
グールがもっと賢かったら、こう簡単にはいかなかっただろう。
もはや戦闘じゃなくて作業だったな。
光の粒子になって消えるグールを見ながらそう思った。
完全に対応されてるのに同じ事しかして来ないんだもん。
ドロップしたカードを拾ってみんなが居る通路まで戻る。
「血が止まらないのか。治療系のアイテムとか持ってないの?」
「駆け出しに毛が生えた程度の俺たちにポーションなんて買えねぇよ」
それもそうか。ポーション思ってたより高かったもんな。
効果の低いものなら7,000ゴルド程度で売ってたけど。
そのポーションじゃ、この傷は治らないだろう。
グールが装備してた鉄製の鉤爪で腹部を貫かれたようだ。
「しょうがないな」
ルーン文字を書いてルーン魔法を発動させ傷を塞ぐ。
「回復魔法まで使えるのか!」
「まぁ、そんなに効果は高くないけどね。傷を薄く塞いだだけで、無理に動かすとすぐに傷口が開くから注意しろよ」
これが沙希だったら傷跡すら残さず完全に治してたんだろうけど。俺にはそんなこと出来ない。
「いや、充分だ。あのままだったらアッシュは絶対に助からなかった。ありがとう」
しっかりお礼を言えるってのは重要だよな。
「どういたしまして。で 、君たち自分達だけでダンジョンから出れる?」
個人的には先進みたいけど、一度助けたし。
助けたんなら切りのいい所まで面倒見てやらないとって気もするんだよね。
「ランクDの魔物がそう何度もポップするとは思えないですし。もし、ポップしたとしても今度はヘタにもしかしたら勝てるかもとか思わずにすぐに通路に引き返すので。自分達だけでダンジョンから脱出できます」
「分かった。なら俺たちは先に進むことにするよ。それとグールのドロップどうすればいい?」
この人たちだって戦った訳だからな。グールのドロップを手にする権利はあるだろう。
「いや、助けて貰って仲間の傷を治して貰って。自分達もグールと戦ったんだからドロップを分けろなんて言えないですよ。全部持っていって下さい」
それは助かる。ドロップしたカードが全部魔銀だったから正直渡したくなかったんだよね。
「じゃあ有難く貰っておくよ。俺たちは先に進むから気をつけて帰れよ」
冒険者パーティーとわかれて更に先に進む。
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