第2話ドア・イン・ザ・フェイスと映画館

目覚めても、奏音さんの姿は見当たらなかった。

 せっかく都内の方にまで来ているので、そのまま帰るのも勿体なく思ったので、本屋へ向かう事にした。

 ここの本屋はカフェも隣接している事もあり、買った本をすぐに読める。

 新作の本棚を見ていると、ここで見かけるのは珍しい人を見つけた。

 「清水さん」

「はい!」

 後ろから声を掛けられたからか、とても驚いていた。

「こんな所で会うなんて偶然あるんだね」

「そうですね、それに……」

 彼女が何を言いずらそうにしているかは、すぐに分かった。

「俺が本屋に居て驚いた?」

 彼女は小さく頷いた。

「清水さんから見て、俺ってどうゆうイメージなの?」

「親しみやすいイメージと、良く寝てますよね?」

「確かに良く寝てる」

 遅くまで起きてるせいで、学校の授業は起きていられなく、寝てしまう事が多い。

「清水さんはいつも可愛いけど、今日はより一層可愛いね」

 学校ではアイメイクをしていなかったが、今日はアイメイクもしてあり、さらにグロスリップが大人の雰囲気に仕上げている。

「そ、そんな事ないですよ」

 彼女は耳まで真っ赤にしていてとても可愛いかった。

「清水さんこのあと時間空いてる?」

「はい、予定は何もないです」

「良かったら、映画でも見に行かない?」

「映画ですか?」

 悩んでいるように見えたので、もう一押しすれば行けそうだと思った。

「うん、実は友達と見に行く予定だったんだけど……ドタキャンされたんだよね、だから良かったら一緒に見ない?」

 友達と映画を見る約束もドタキャンもされてないが、押しに弱くて優しそうな子は、理由を作って誘うと断り難くなる。

 そして事前に予定を聞いておくと良い、人は自分の行動に正当性を持たせたくなるので、一度言った言葉をすぐには変えたりしない。

「そうゆう事なら」

 もしも断られてもお茶に誘うだけだったが、その必要は無かったようだ。

 ここで断られたら、ドア・イン・ザ・フェイステクニックで大きな要求が断られる事で小さな要求が通りやすくなる。

 大きな要求が映画で小さい要求がお茶、しかし俺の目的は清水さんと話す事にあるので、どちらでも目的は達成する。

「ありがとう、それじゃあ映画館行こうか?」

「はい」

 本屋を出て近くの映画館に向かった。

「なんの映画を見る予定なんですか?」

「うーん、着いてからのお楽しみって事で」

 実際は何の映画が今上映されてるかも知らない。

「清水さんは気になってる映画とかあるの?」

「最近人気の恋愛映画が気になってます」

 以外だった恋愛映画とかには興味が無さそうに見えたが、女子高生らしいなと思った。

「あの映画面白そうだよね、俺も気になってた」

 話してる間に映画館に付いた。

 「チケット買ってくるから待ってて」

 チケットの販売機を見ると、先ほど話していた恋愛映画が二時から上映されてた。

 時間帯も丁度良かったので、この映画にする事にした。

「お待たせ、はいチケット」

「この映画――いいんですか?」

「うん、俺が見たい映画は女の子と見るような映画じゃないし、二人で楽しめた方が良くない?」

「はい、ありがとうございます」

 正直見る映画は何でも良かったから、ここまで喜ばれると良心が痛む。

「上映までまだ時間あるし、ご飯でも食べに行こうか?」

「そうですね」

「何か食べたい物ある?」

「特には……何でも良いです」

 どうしよう、女子高生が好きそうな食べ物の方が好感度上がるけど、美味しくないんだよな。

 それに俺今ラーメンとか牛丼食べたいけど流石にそれはないな、パスタにしとくか。

「パスタとかどう?」

「良いですねパスタ」

 昼食を食べてる間は清水さんがこれから見る、映画の話をずっとしていたので、振る話題を考えなくても話が続いたので良かった。

 この映画にしといて本当によかった。

 映画の上映時間が迫っていたので映画館へと向かった。

「清水さんって映画館でポップコーンっ食べる派?」

「食べない方かもしれません」

「俺は食べる派だから買っても良い?」

「はい、大丈夫です」

 この反応を見る限り、映画を見てる時の拘りは無さそうだ。

 映画好きの子だと偶に拘りがある子が居るんだよな。

 灯りが暗くなり映画の上映が始まった。

 俺は恋愛映画の何が面白いのか、よく分からない。

 どの作品も同じような話で、役者が違うだけ。

 それに役者に詳しくない俺からすると、みんな同じように見える。

 なので俺からすると、同じような話を同じような人が演じるのでどの作品も同じに見えてしまう。

 なのに女の人は楽しそうに観ているから、すごいと思う。

 隣の清水さんも楽しそうに観ていた。

 周りが明るくなり映画の上映が終わった。

 隣の清水さんを見ると泣いていた。

「大丈夫?」

 持っていたハンカチを渡した。

「すごい感動的で」

 映画よりも清水さんの方が面白いと思った。

「感動的で面白かったね?」

「はい、面白かったです!」

 清水さんは帰宅中もずっと映画の話をしていた。

「清水さん良かったら連絡先交換しない?」

「そういえば、まだお互いの連絡先交換してなかったですね」

 お互いの携帯にお互いの連絡先が登録された。

「また映画見ようね」

「良いんですか?」

「うん」

「私、綾香と萌しかクラスで仲良い子居なくて、しかも二人とも恋愛映画嫌いなんですよ。だから映画観に行ける友達が出来て嬉しいです」

 確かに、斎藤綾香と大崎萌どっちも恋愛映画を観そうでは無い。

 斎藤は感動する物見るの苦手と言ってた気がする。

 大崎は達観してる感じがするから俺と同じ事を思ってそうだ。

「今日で清水さんと仲良くなれて良かったよ」

「私もです」

「気をつけて帰ってね」

「はい、また学校で」

 清水さんと別れた後家に帰るのとは反対方向の電車に乗った。

 土曜の夜は向かう所があるのでそこへ向かった。

 最寄駅に着いたので、一通連絡を入れた。

 すぐに連絡が返ってきたので、目的地に向かった。

 咲さんの家についた。

 土曜の夜には咲さんの家へ行く約束になっている。

 一度面倒で行かなかった時は、すごい量の着信と家に突撃されてからは絶対に行く事にした。

「遅い、何してたの?」

「咲さんまだ八時だよ」

 納得いかない顔をしているが、面倒なので気づかなかった事にした。

 「勉強とご飯どっち先にする?」

「勉強からでお願いします」

 授業を寝ている俺は、いつも咲さんから教えてもらっている。

 「それじゃあ教科書とノート開いて」

 俺は黙々と勉強を始めた。

「咲さん俺、図書委員会に入ったよ」

「本とか好きだったの?」

「本も好きだけど、咲さんが居るから」

 咲さんは嬉しそうな顔をしていたが、本当は違う理由だ。

 俺の人生の最後は誰かに刺されて終わる――そんな気がしている。

 

 

 

 

 

 

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女を落とすための恋愛方程式 遠藤 円 @koneko0417

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