女を落とすための恋愛方程式

遠藤 円

第1話そしてまた振られる

女の子が泣いている。

 「さようなら」

 そう言って、涙を流しながらその場を去って行った。左の頬が時間と共に痛みを増してきた。

「次こそは上手くやろう」

 桜散る季節、そう心に決めた。


 ピリリリピリリリ。

 目覚まし時計の音が部屋中に鳴り響く、目覚ましをそっと止めて、瞼をまた閉じる。陽射しの眩しさで、目を覚ますと時刻は昼を差していた。

「ご飯食べてから、学校行くか」

 教室の扉を開けて、席に着くと隣の席の男が話かけてきた。

「今回も盛大にやられたな」

 この男はクラスメイトの谷口、去年も同じクラスだったので親しい友人である。

「今回は上手く行くと思ったんだけどな」

「何が原因で振られた?」

「振られたって決め付けるなよ」

「じゃあ、今回はまだ振られてないの?」

「……いや振られた」

 呆れた顔を向けてきた。

「でも、今回は結構長く続いたほうだろ」

「三ヶ月も続いたからな」

「普通だったら全然長く無いけど、次は一年位付き合えよ」

 「長く付き合う方法教えてくれよ」

 谷口は中学から付き合っている彼女が居る。

「愛だよ愛」

「――愛か」

「まぁ頑張れよ」

「ああ」

 谷口は昼食を買いに教室から出て行った。

「おはよう、遅くまでゲームでもしてたの?」

 後ろから声をかけられた。クラスカーストのトップに居る大崎と言う女生徒だった。

「そんな所」

「左頬赤くなってない?」

「マジか、昨日兄貴に殴られて」

「保健室でも行ってきたら」

「そうする」

 俺は保健室に向かった。

「失礼します」

 物音が無く保健室の先生も居なかった、正確には誰も居なかったので、ベッドを借りて寝る事にした。寝る前に考えをまとめる。

 次に落とす女の子を。

 学校という環境で同じクラスの女の子に告白しても良い時期が、一年間を通して二度だけある。夏休み前と冬休み前の2回、この時期以外のタイミングでの告白はとてもリスクがある。今が四月でクラス替えがあったばかりでの告白は、見た目だけで告白してきたと思われる可能性そして、三ヶ月後の倦怠期のタイミング。倦怠期のタイミングが七月になると、振られる可能性がとても高くなる。理由は告白される可能性が高くなるからだ、夏休み前に彼女が欲しい男たちはその時期に告白する事が多い。

 夏休み前と冬休み前よりも難しくなるが、条件が揃えばさらに成功確率が上げられる時期は、休みに入ってから数日経った時だ。

 七月を目処にするとしてクラスの誰を狙うか……考えてる最中に物音がした。

「誰かいるの?」

 先生が戻ってきた様だ。

「はい、保冷剤をもらいに来ました」

「保冷剤ね、女の子にでも叩かれたの?」

「昨日彼女に振られるとき叩かれました」

 「青春ね――私も若い頃は同じ様な事があったわ」

 保冷剤を貰って保健室を出て行った。

 教室に戻る最中二人組の女子生徒に声を掛けられた。

「おはよう、ようやく来たな」

 一人は去年も同じクラスだった齋藤という女生徒。

「おはよう」

 もう一人は清水という今年初めて同じクラスになった子だ。

「おはよう、二人とも仲良かったんだね?」

「うん、実は同じ中学なんだよね」

「なるほど」

「じゃあまた後で」

 二人とも購買の方に向かっていた。

 教室に戻ると程なくして、午後の授業が始まった。

 ホームルームが終わると同時に谷口がこちらに向かってきた。

「この後は?」

 谷口とはいつも一緒に帰っているので、帰る前に何か予定があるか聞かれる。

「帰ろう」

 帰る最中気になった事を聞いてみた。

「清水ってどんな子?」

「大崎のグループにいる子でしょ、確か斉藤と仲良かった筈」

「大崎とも仲良いんだ」

「仲良かったと思うよ、清水となんかあった?」

「今日初めて話したから、どんな子なのかと思って」

「学校の女子を気にするなんて珍しいな」

 谷口とは地元が同じだった事もあり、高校での俺以外も知っている唯一の友達なので、高校で彼女を作る気が無いと思っている。

「――たまには、学校も良いかなと思っただけだよ」

 本当にただのきまぐれだ。


 家に帰ると今日も家族は居なかった、居ないとは思って居たが……着替えてると携帯にメッセージが入った、返信をして着替え終わったら家を出た。

 「お疲れ様です」

 「疲れたよ、何食べたい?」

 「美香さん」

「それは知ってる、それ以外で何食べたい?」

「ハンバーグかオムライス」

 「卵が沢山余ってたから、オムライスにするね」

「美香さんが作る、ご飯美味しいから楽しみです」

 「はい、はい、スーパー寄ってから帰るよ」

 適当に聞き流されながら、帰宅した。


 美香さんの家に着くと、早速美香さんが料理し始めた。

「それで今回はどうしたの?」

「何も無いですよ」

「嘘って分かり易すぎ、どうせまた彼女に振られたんでしょ」

「確かに振られましたけど……それだけですよ」

「強がんなくても良いのに」

 笑いながら言われた。

「振られたってなんで分かったんですか?」

「いつも振られた後に来るから」

「そうでしたっけ?」

「うん」

 もしかしたら、無意識に慰めて貰いに来てるのかもしれない。

 「オムライス出来たよ、運ぶの手伝って」

 「はい」

 料理を運んで、二人で食べ始めた。

「美味しい?」

「人生で食べた中で一番美味しいです」

「大袈裟すぎ、今日は泊まっていくの?」

「迷惑じゃなければ泊めさせて下さい」

「うん、良いよ」

 携帯に着信音が鳴り響く。名前だけ確認して携帯の電源を落とした。

「電話出なくていいの?」

「はい、知らない番号でした」

 明日早起きしないと、と思い明日が少し憂鬱に感じた。


 目が覚めると直ぐに出掛ける準備をした。

「早いね?」

「少し用事があって……ご飯ありがとうございました、凄く美味しかったです」

「私はもう少し寝てるね、また何かあったら連絡して」

「はい、また連絡します」

 そう言って重い玄関の扉を開く、朝日が強く眠気を誘う。

 携帯の電源を入れると沢山の通知が来ていた、一人の女性にメッセージを入れて、その女性の家に向かう。

 家に着き、呼び出し音を鳴らす。

 扉が開くと一人の女性が出迎えて来た。

「おはよう、連絡返してよ」

「咲さん電話し過ぎ」

「だってーまたあの女の所に居たでしょ」

「居ましたよ」

「こっちに泊まり来てくれれば良いのに」

 面倒だったので言い訳をした。

「咲さん昨日仕事忙しかったでしょ」

「まぁそうだけど」

 咲さんは少し不満そうな顔をしていた。

「眠いから、寝てても良い?」

「良いけど、遅刻したら怒るからね」

 そう思うなら、呼び出さないでほしいと思う。

 「分かってますよ」

「冷蔵庫に朝ご飯入ってるから、後戸締りよろしくね」

「有難うございます」

 咲さんは、そう言って仕事に向かった。

 俺は、また眠りに着いた。

 

 今日の一限は新学期という事もあり、委員会決めの時間に当てられていた。順当に決まって行ったが図書委員会だけ中々決まらなかった。

 そういえば、咲さんが図書委員会の顧問だったな。

「誰も居ないなら、俺やります」

 図書委員会は俺と、清水さんに決まった。

 その後は、何事も無く学校は終わり。

 今日はライブハウスでのバイトがあるので、都内のライブハウスに向かった。

「オーナー、おはようございます」

「おはよう」

「今日もお客さん沢山居ますね」

「奏音の所目当てのお客さんだろ」

 ライブハウス前を掃除していると、次々と演者の方々入って行く。

「おはよう」

「おはようございます、奏音さん、今日はお願いします」

「こっちこそよろしく、今日の夜空けといてね」

「はい、家に先行ってます」

 バイトが終わると、その足で奏音さんの家に向かった。

 奏音さんの家に着くと、まず掃除から始まる、その他色々な家事を済まして奏音さんを待つ、それがいつものルーティーンだ。

 携帯にメッセージが入った。

 今日帰れなくなったからご飯は要らない。

 相変わらずの自由度だ。

 女性に縋って生きる、これが俺の日常……。


 

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