§2
翌日の昼過ぎ。オレは鈴ヶ森刑場に
刑場のそばに立つその店は小綺麗で洒落てるんだが、気味の悪い場違いさを醸し出しているせいでほとんど客が寄りつかねえ。
「だからオレは朝イチで生き霊の本体に会ってきたのよ。ソイツは和紙問屋の三男坊なんだが、家業も手伝わず穀潰しみてえな生活しててな」
茶店の女主人、モミがキセルをぷかぷかさせながら座敷でだらけている。見た目は二十歳後半の、すこぶる色っぽい女。だがその正体はオレの財布を毎週のように食い漁るクソ妖狐だ。
「そんな穀潰しにも、かねてより好き合っていた海苔問屋の娘がいたんだと。その娘が唐物屋の御曹司に寝取られたから復讐してえって話よ」
「うん。知っとるえ」
「知ってる? なんでだよ」
負けた分の賭け金を返すアテが出来た事を報告するつもりだったんだが、モミの予想外の言葉に豆鉄砲喰らった気分になる。
「だってその三男坊にノベさんのことを吹き込んだの、ウチやもん」
「ああ?」
モミはニヤニヤッといやらしく笑って話を続けた。
「ウチ、ノベさんが耳揃えてカネを返せるほど甲斐性があるとは思ってへんのよ」
オレはカチンと来た。だがモミは知らんふりをして続ける。
「だからウチは考えてん。腕っ節が強いノベさん
どうりで、と、オレはさっきまで自分が半ば得意げに話をしていたのが恥ずかしくなった。
「あれ? ノベさん拗ねてはる?」
「うるせえよ」
「そんな怒らんでえな。ノベさんは報酬を貰う。ウチは借金返して貰う。依頼人は幸せ。三方良し《ウィン・ウィン》やん」
「ふざけんな。オレの稼ぎを横取りして、タダで働かせようってコトじゃねえか」
「だれがタダって言ったんえ? 報酬はとっとき。ついでに借金も帳消し《チャラ》でええよ」
「はあ? マジで言ってんのか」
「カネ返せなくて気まずそうにしてたノベさんは十分おもろかったしなあ」
「オメー、オレが困ってるのを楽しむためにハメてたのか!?」
「うふ。長生きしとると娯楽が少ないんよ。ノベさんはホント、良いオモチャやわあ」
「ほんっと性格ワリいな」
「まあまあ! それに今からウチらは
なんだかモミに飼われている感じがしてシャクだが、まあいい。儲け話自体は間違いがねえし悪くはねえ。どのみち、依頼こなさなきゃ借金も消えねえしな。
そう自分に言い聞かせつつ座敷から立つ。
「お、もう出かけはる? どこへ?」
「
モミに手付金の入った財布を見せてやる。
「三男坊に直接会いにいったら、こうやって手付金と餞別代わりの懐紙までくれたんだ」
「ま、気前のええこと。それで寝取り相手と、
「おうよ。御殿山は今、花見盛り《デートスポット》だかんな。ちょっくら見てくるわ」
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