第8話 傲慢


「凛、いや、娘にはね、友達を私と会えないようにしてほしいと頼まれていたんだよ」

「そんな、、、どうして、、、」

「娘はね、実は病気が治ってないんだ。と言うより、『治らない』んだよ」


 病気が治ってない?


「娘は妻が亡くなった難病にかかっていてね、余命は今日からあと3ヶ月くらいなんだ」

「そんな、、、」

「だからね、『思い出はもう十分できたから大丈夫。友達が悲しまないように急な転校として扱って高校を辞めたい』と言われてね」


 そんなことが、、、聞いたことも無かった。いや、僕が凛の立場だったとしても言ってほしかったな。これは傲慢だろうか。


「娘があの病気にかかっているとわかった時、私は娘の願いをできるだけ叶えてあげようと思ったんだ。もしかしたら妻と姿を重ねているだけかもしれないがね。さて、着いた。ここ、東棟2501号室が凛の病室だ。一応私の病院だからね、一番いい部屋を用意してあげることができたよ。さぁ、行っておいで」

「本当にありがとうございます」

「うむ、部屋の外にいるから何かあれば呼びなさい」

「はい」


 凛のお父さんはすごく親切な人だった。


    コンコン


「は〜い。どうぞ〜」


 すごく懐かしい声を聞いてホッとした。勇気を持ってその重い扉を開ける。


「凛、久しぶり」

「へ、、、な、なんで、、、嘘、、、」


 凛はやはりすごく驚いていた。扉の前にいる夕さんと目を一度合わせ、扉を閉める。


「なんで、、、ここがわかったの、、、」

「このざまで病院に来たら凛のお父さんがいてね、頼み込んだんだ」

「あはは、、、病院に来るとは計算外だったなぁ」


 そう言って凛は弱々しくはにかむ。


「聞いたよ、病気のこと」

「そっか、やっぱり話しちゃったか、お父さん」

「うん。すごく凛の事を想っていて、、、優しそうな人だね」

「いいでしょ」

「すごく」


 久しぶりに会ったからか気まずい。


「映画を見に行った時さ、告白してくれたでしょ?」

「うん」

「あの時すごく嬉しかったんだ。私も好きだったから両思いだー!って」

「うん」

「でもね、私はこんなだから迷惑かけちゃうって。悲しませちゃうって。そう思ったんだ」


 そうだったのか。いや、そうだよな。僕も同じ立場ならそうする。



でも、僕は———



「凛。僕はそれでも君がいい。たとえそれが1日だったとしても」


 そう言うと、凛は涙を流し続けた。夕日の光に染められたその姿は、抱え込んだものを全て吐き出した様にも見えた。





 その日から僕は毎日のように凛の病室に通っては、何気ない話で凛と笑い合った。






















    そして、、、、




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