【後編】最初で最後の客人、それは元カノ
ブーブー。
くっそ……うるさい。
枕元から目覚時計が鳴っていることはわかりきっている。
だからバシバシと叩くようにして手探りで目覚まし時計の位置を当てる。
何度かからぶって、なんとか音を消すことができた。
スマホをベッドの片隅に放り投げて、毛布に包まる。
それにしてもやけに……寒い朝だ。
ああそうか。
レイの姿がいつの間にかなくなっているからだろう。
少し捲れていた掛け布団には、ぽっかりと空いた隙間ができている。
なぜか昨夜よりもひんやりとする空気が身体へとまとわりつく。
そんな肌寒さから少しでも逃れたくて、オレはモゾモゾと動き出す。
「……コーヒーでも入れるか」
毛布に包まり立ち上がると、テーブルの上には書置きがあった。
少しクセのある丸字で書かれている。
『わがままばかり言ってごめんなさい。最後にヤマトに会えて嬉しかった』
「まったく……卑怯だろ……?」
いつもは自分勝手なくせに……こんな時だけしおらしく振る舞う。
……もう一度、話を聞いてみよう。
もしかしたら……本当の本当に浮気なんてしていないのかもしれないしな。
そんなポジティブな思考が脳裏を支配し始めていた。
オレはスマホを手にしていた。
きっと今年初めてこの部屋を訪れる客人は元カノとなるだろう。
そう確信して——呼び出しボタンを押した。
去年、最後の客人は元カノだった。
それもとびっきり美人でそれでいてジコチューな厄介な女の子。
それでもこんなにも……愛おしい。
はあ……我ながらなんと単純な男なのだろうか。
永遠にも感じる呼び出し音が続く中で、そんなことをふと思った。
「あ、もしもし」
『おかけになった電話番号は電源が入っていないか電波が届かないところにあるためかかりません——』
∞
『昨夜21時21分頃、東京都××区の国道で、20代の女性が乗用車にはねられて死亡しました。事故があったのは、東京都××区の国道〇〇で、昨夜21時21分頃、近くに住む大学生木崎レイさん21歳が、××区に住む80歳の女性が運転する乗用車にはねられました。木崎レイさんは、モデルとしても活躍しており——』
(完)
【短編】大晦日の夜に元カノが「……帰りたくないっ!」と突然押しかけてきたのだが…… 渡月鏡花 @togetsu_kyouka
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