3
「ちょうど今、王国魔法協会会員さんによる初級魔法講座が開かれてますよ」
受付嬢さんがそういって向けた手のひら、その先には木の板に炭で文字が書き付けられている。
なになに、初級魔法講座入門編……今気付いたけど、普通に文字も読めるようになってるな。
読めてよかった、依頼が読めなければ、かなり面倒なことになってただろう。
毎回文字を読んでくれるよう、誰かに頼むわけにもいかないしさ。
魔法っていうと魔法使い達の秘奥みたいな感じかと思ってたけど、普通に教えてくれるんだな。
「参加費は一回銀貨1枚で、追加で教えを請う場合は更に必要になります。私達は場所を提供しているだけですので、詳しい話は協会の方から話を聞いた方がいいかもしれません」
ぐぅ、ここでもお金を使うのか……。
でも背に腹は代えられない、参加させてもらうことにしよう。
俺は参加することを決め、銀貨と交換で授業を受けられる木板を受け取った。
そして時間になったので、ギルドの中にある講堂のような場所へと向かう。
「みなさま初めまして。私(わたくし)は王国魔法協会のメンバーであるヴェネッティと申します。よろしくお願い致しますわ」
魔法の先生は、金髪でクルクルと髪の毛をカールさせている、典型的な悪役令嬢みたいな見た目をした女性だった。
着ているのも縫製のしっかりしたドレスで、とても荒事には向いていなさそうだ。
「私達王立魔法協会は、魔法技術の一般層への普及を目的として活動している団体です。かつては青い血を流す貴族だけが使える秘奥とされていた魔法技術も、徐々に市井に浸透してきております。魔法はその身に流れる血とは関係なく、才ある者に花開く技術なのです!」
年齢はまだ二十代前半だろう。
金髪碧眼のいかにもお嬢様の風体の女性が、革鎧や布の服なんかを着ている冒険者達の中にいると、違和感がすごい。
身のこなしもきびきびとした感じじゃないし、なんだか普通の大人の女性って感じだ。
「我々王立魔法協会は、各地へ巡行して魔法技術を伝播させるために日々活動しておりますの。あなた方冒険者は、日々戦うことを生業とする危険なお仕事をされております。魔法が使えるようになれば、戦いから日常生活に至るまで、様々な部分で利益を享受できることを、この私がお約束いたしますわ」
俺からすると魔法というのは戦うためのものって認識が強いんだけど、どうやら王立魔法協会の人達は違うみたいだ。
彼女達は才能ある者全員が魔法が使える世の中、というのを目指して活動している団体らしい。
ヴェネッティさんもどちらかと言えば事務方の人間っぽい。
魔法を使える種類は多いんだけど、それを使って実際に戦ったりはあんまりしていないんだとか。
「魔法が使える人間は、私達がフィールドワークで得た統計によると約二百人に一人です。今日受けるようになられた二十余人の方の中に魔法の適性がある人が一人もいなかったとしても、私を逆恨みしないでくださいまし。なお、今回の授業によって得ることのできたデータは王立魔法協会が利用することがありますが、それを理解の上でご参加ください。今であれば、まだキャンセルも受け付けますわ」
当たり前だが、キャンセルする人はいなかった。
俺も当然その一人だ。
別に個人のデータなんか採られても、痛くもかゆくもないしな。
「ええ、それではまず魔法というものがなんなのからお教えいたします。あなた方が必要としているのは座学ではなく実習でしょうから、最低限の説明だけしたらすぐに実践に入りましょう」
ヴェネッティさんの説明はなかなかにわかりやすかった。
この世界の教育水準とかを考えてるからなのか、例え話や昔の童話なんかを引き合いに出してくれるために、特に眠たくなるようなこともなく話に聞き入ることができた。
この世界には、魔素というものがある。
そして魔素が人に入りその中に定着したおかげで、人は魔法を使えるようになった。
同様に動物に魔素が定着することで、それらは魔物という人類の敵になった。
魔法の素養があるかどうかを知るのは簡単らしい。
要はこの世界にある、魔素を感じ取ることができるかどうか。
それが一番大切だとヴェネッティさんは言う。
「人の内側にある魔力、これを知覚しようというのが魔法科高校のやり方です。ですがそれは貴族同士の婚姻を続けることで体内に既にある程度の魔力が宿っている、貴族に連なる者だからこそできるやり方。庶民が魔法を使えるようになるには、魔素の知覚から始めた方が、その開花の可能性は圧倒的に上がります」
魔素をしっかりと感知できる。
それが元からある程度の魔力量を持つわけではない庶民が魔法を使うようになるための第一歩ということらしい。
みんなで魔素を知覚してみようと、早速実践してみることになった。
魔素、魔素……うーんわからん。
今そこに、目には見えないけれどある。
そういうものだって考えるんなら、空気や酸素みたいなものってことなのかな?
俺も含めた受講生達は、みな思い思いのやり方で魔素を感じ取ろうと頑張り出す。
けれど俺も含めて、知覚できるようになった人間は一人もいなかった。
大体一時間ほどが経過したところで、ヴェネッティさんがパンパンと手を叩く。
「今回できなくとも、諦める必要はありません。長く努力を続けるうちに覚醒することもありますので。私が冒険者のあなた方へおすすめしたいのは、魔素の濃い場所で深呼吸を繰り返して魔素を直接体内に取り込む方法ですわ。ダンジョンの奥地や魔物の出る森林の奥。濃密な魔素のある場所にいることで、魔素を感じ取れるようになった協会員もたくさんいますので」
ヴェネッティさんはこれで終わりですと告げ、資料をまとめだした。
みんなしらけたような顔をしている。
あっという間に魔法が使えるようになると思っていた奴らなんかは、不満ありありな様子だ。
「この魔素の知覚ができるようになるのにかかる時間は、平均すると一年ほど。なのでみなさん腐らずに、一朝一夕でできるようになるなどとは思わず、コツコツ頑張ってみて下さい」
この魔素を知覚するというやり方でできるかはわからない。
今すぐ金を稼がないと餓死するというわけでもないから、とりあえず何日かは粘ってみるのもいいかもしれない。
けれど俺は実は一つ、気になっていることがあった。
なのでこの場を去ろうとしているヴェネッティさんに聞いてみることにする。
「あらハジメさん、何か質問でしょうか?」
「はい、ヴェネッティさん……先生。魔法学院生のMPって、いったいどれくらいなんでしょうか?」
「そうですね……魔法学院生はある程度レベリングを行っていますので一概には言えませんが……30~100くらいだと思いますわ」
よし、やっぱりだ。
俺は勇者の中では見劣りするステータスだった。
けれど呼び出される時の女神の祝福だかなんだかの力で、この世界の一般的な基準よりかは強くなってるんだ。
もしかしたら俺の場合、体内にある魔力を知覚するやり方の方が、向いてるんじゃないか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます