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 さすがに世の中、それほど甘くはなかった。

 まともに職歴もなく、そもそもこの国の人間と違い黒髪黒目である俺のことを雇ってくれる善良な人間などいなかった。


 もちろん中には雇うと言ってくる人もいたが、彼らはみな俺のことを舐めきっていた。

 かなりシブい……というかギリギリ生活ができるだけの金だけを渡して飼い殺しにしようという考えが透けていたのだ。

 そんなところで働けば、完全に人生が詰んでしまう。


 そういった悪い雇用主を弾くためには、そこがギルドと呼ばれる職能別技能組合に入っているかが重要な要素の一つとされるらしい。

 ギルドに入っているからには、ギルドの取り決めを守らなければならない。


 そしてギルドメンバーになることができれば、ギルドの発行するステータスプレートが身分証としても使えるという話らしい。

 まともな身分もないから、なんとかしてギルドに入っておきたいところだった。


 で、学歴が使えず職歴がゼロである俺が入れるギルドが一つだけあった。


 それが冒険者ギルド――魔物の討伐から商隊の護衛まで実に雑多なことをこなす、魔物が出るこの世界特有の荒くれ者達の集うギルドだ。


 この世界には魔物がいる。

 そしてそれらを統べている魔王という存在がいる。

 危険と隣り合わせな剣と魔法の異世界だからこそ容認されているギルドなんだろう。


 その辺の盗賊に襲われたりするだけで簡単に人生が終わってしまう、この命の軽い世界で生きていくには、強さが必要だ。

 ある程度自衛ができるようになるためにも、戦えるようになっておいた方がいいのは間違いない。


 というか、そもそも俺には他の選択肢がないっていうのもあるし。


 とりあえず冒険者になって、ドブ拾いをしてでも金を稼がなくちゃいけない。

 一日銅貨22枚、果たして稼げる日はいつになるやら。


 金貨5枚という保険があるのが本当にありがたい。

 あまり気負わずに、でも歩みは止めずに頑張っていこう。




「冒険者登録ですね、それでは登録料、銀貨1枚になります」


 どうやらギルドは、まず銀貨1枚を支払えるかというのを一つのふるいにしているらしい。

 俺が求人情報を見て回っていた感じ、そもそも銀貨1枚を貯めるのもそれほど楽じゃない。

 身分証を発行するからには、ギルドだってある程度責任を持たなければならない。

 そのために銀貨1枚くらい出せやって話なんだろうな。


 スッと銀貨を出してから、色々と規則についての情報を聞く。


 まあ基本的には悪いことするなよとか、ギルドに迷惑をかけたらギルド会員の資格を剥奪するとか、当たり前のことだ。


 冒険者にはランクがあり、F・E・D・C・B・A・Sの順に上がっていく。


 最初はFランク冒険者から始めて、Cランクまで上がればベテラン、Aランク冒険者まで行くことができれば下手な貴族階級と同じくらいの発言力や権威を持つことができるようになるらしい。


 力こそ全てって感じで、なかなかに実力主義だ。

 魔物被害とかがひどいこの世界では、それだけ力のある人間が必要とされてるってことなんだろう。


「そしてこちらが、ステータスプレートになります。これに血を垂らして下さい」


 そう言って受付嬢さんが灰色の金属板と、小さな針を渡してくる。


 ちょっとびっくりしながらも、言われるがままに針をちょんっと人差し指に刺す。

 ぷっくりと浮いた赤い玉を、手を振ってステータスプレートに落とした。


 すると先ほどまで何も書かれていなかったはずの板に文字列が刻まれていく。

 それはつい先日見たあの球の中に浮かんでいる物と似た内容だった。


 隠そうと動くと、受付嬢さんに笑われる。

 どうやら名前とレベル、犯罪歴以外は他人に見られない仕様になっているようだ。


 ……すごいな、異世界。



ハジメ・カンザキ


レベル1


MP 45/45

攻撃 10

魔攻 10

防御 10

敏捷 10

魔防 10


才能

なし


スキル 

『努力』(才能のない者だけが得ることのできるスキル。あらゆるスキルの後天的獲得が可能になる)

『不眠不休』(睡眠をせずとも活動が可能になる。ただし肉体的及び精神的な疲れは残るため留意されたし)


賞罰

なし



 けれどよく見れば、書かれているのはあの鑑定球と違う。

 何より違うのは、俺が知りたいと思っていた『努力』のスキル内容が読み取ることができるようになっている点だ。


 なるほど、才能がない人間にだけ与えられるスキルか。

 非才な俺が持つのに、これほど適したスキルもないだろう。


 後天的にあらゆるスキルが使えるようになる……これって結構、すごいスキルなんじゃないか?


 もちろん才能がない分、色々と頑張らなくっちゃいけないんだろうけどさ。


 ――ていうか、詳しい説明を受けてないから俺は才能とスキルがなんなのか、正確にわかっていない。


 聞いてみると、受付嬢さんが実に簡潔に答えてくれた。


 才能とは、文字通りにその人間が持っている才能を職業のような形で可視化させたもの。

 呼び出された勇者達が言われていた、賢者や破壊王といったやつが才能になるわけだ。


 こいつはゲームで言うところの天職みたいなもので、これを持っているだけで各種能力値や物事の習熟度の上がり方なんかに補正がかかるらしい。


 そしてスキルとは、その人間が持っているものの総称。


 獲得することで使用が可能になるアクティブスキル。

 何もせずとも自動的に発動しているパッシブスキル。

 大別するとこの二つに分けられるらしい。


 この世界においては、魔法もスキルの一つという扱いみたいだ。

 ただし『ファイアボール』や『ファイアアロー』のようにその一つ一つがスキルになるのではなく、一律して『初級火魔法』のような形でくくられるらしい。

 ちなみに魔法は、全てアクティブスキルである。


 そう言えば、あの勇者の四人の中には『上級火魔法』のスキルを持っている子がいたことを思い出す。たしか賢者の才能を持っていたはず。

 俺も彼女みたいな才能があれば……いや、才能がないからこそ『努力』のスキルが手に入ったんだ。

 腐らずにやっていこう。

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