第2話 空は白く光り輝く

1997年12月。娘が生まれた。名前は維波(いなみ)。俺は22歳になっていた。

9月に結婚したが、妊娠が分かって結婚しようと決まるまで、沙耶は不思議なくらい全てを受け入れてくれた。

実は付き合い始めた頃に言っていた話だが、もし結婚となれば、俺は島に帰り、家業の石屋を手伝わなくちゃいけなくなり、親と同居となること。

そして俺の家族には、両親に、俺の20歳の弟と10歳の妹、祖父母までいること。6人の大家族だ。その中に、いきなり沙耶とあきが入り、打ち解けられるのかが不安だった。のちのちほころびは出始めるが、その時は、沙耶はなんの不穏げもなく、「うん、行くよ」と、照れくさそうに微笑みながら言ってくれたんだ。


沙耶とあきが我が家にやってきた。弟も妹もとても喜び、あきを可愛がってくれ、取り合いをしていたくらいだ。2人とも沙耶ともすぐに打ち解けてくれた。

かと言って、全てが順調ではなかった。祖父母、両親に、俺と弟は石屋の仕事をし、10人分の洗濯、10人分の昼晩の食事の準備を、全て沙耶がしなくちゃいけなくなった。それに親父の妹の子供。つまり俺の年の離れた従兄弟の子守りを沙耶がすることになった。それはアキと同じ歳という理由でだ。


産まれたてのイナミをおぶり、2歳のアキとソウタの子守りをする。毎日がぐったりで、疲れ果てていたけど、それでも俺と沙耶は時間があればくっついて座り、その日の愚痴とか、他愛ない話をしてまったりタイムを楽しんでいだ。

それが2人の欠かせない時間だったからだ。


そして初めて一緒に過ごすクリスマス。俺たちの狭い部屋を、派手やかにクリスマスの飾り付けをし、弟妹も入り込んできて、何故かいとこのソウタも加わり、子どもだらけのクリスマスパーティをして過ごした。

そして1年で1番忙しいを年末年始を迎えた。


年が変わり、1998年1月。

島の正月は長い。元旦のゆったり感を満喫した後は、お腹がすけば誰かが台所に立ち、誰かが手伝い、また家族が集まる。そんな穏やかな正月が過ぎ、世間が仕事始めをし始める頃、島では成人式が行われる。


1月10日。この日の主役は、弟のアキトだ。

背も高くてイケメンで、優しくて頼りにもしてる俺の大好きな弟だ。

家の庭先に家族が集まる。白羽織と緑袴に身を包み、髪もきっちりと決め込んだアキトの横に、我も我もと並び、記念撮影をする。みなが笑顔だった。

冬の朝日の逆行もあってか、空はやけに白く光り輝いて見えた。爽快だ。

その日、成人代表のアキトの声が、島の小さな講堂に凛々しく響いた。


翌日、「今日は鍋しよう‼️」と沙耶が張り切って言った。

昨日はアキトは、友達と成人式の後そのまま飲みに行ったから、家族でお祝いが出来なかったからだと、沙耶は言った。

「こんなに食べれんの?」と言うくらいの野菜の量に、豚肉、鶏肉、ハム、ソーセージ、豆腐、ラーメン……。ごった鍋か?と俺が聞くと、沙耶は「博多鍋」と言った。とんこつスープベースのブッコミ鍋だ。

ふたつ準備した鍋に家族10人が群がる。お酒も弾む。あきがお気に入りの歌を歌う。親戚のおじさんまで混じりこんでの無礼講だ。

あんなに沢山あった具材は全て消え、再び買い足しに行き、第2ラウンド突入!


普段は食事が終われば直ぐに席を立つ親父とお袋も、この日ばかりはこの楽しい時間を満喫していた。

どれくらい時間が経っだろう、トイレに立った沙耶。ぐずり出すあき。それを抱き上げあやすアキト。

酔ってタバコをふかす俺の後ろで、そのような光景が流れていた。

「兄ちゃん、オレ、ちょっとドライブ行きたいけん、あき見とってよ~」

「よかとや?酔っとらんの?」

アキトはほんのりと赤い顔をしたまま、「ぷらっとするだけやけん」と言い、俺にあきを託し、玄関先へ向かった。ご機嫌よさげな鼻歌をその場に残して。


台所では、お袋と妹が食事の後片付けをしていた。その横で、おじさんと親父はまだ酒を飲みながら話に花咲かせていた。


明日からも続くであろう家族の幸せなひとときだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ぼくらが見上げるその先に…… kimio @Kimio-matu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ