ぼくらが見上げるその先に……

kimio

第1話 空が蒼すぎたんだ

1997年の9月、オレたちは結婚した。

俺、蒼田未来人(そうだみきと)21歳と、2個歳上の奥さんの彩弥(さや)、そして彩弥のもうすぐ2歳の息子の章(あき)。俺たちは家族になったんだ。それからまだ、この画面の中にはいないけど、沙耶のお腹の中にももう1人の家族がいる。


沙耶との出会いは2年前で、俺が19歳で沙耶が22歳の時だった。そこはパチンコ店。沙耶と元旦が務めているパチンコ店に、俺も働き始めたというわけ。

初めて見た沙耶はお腹が大きく、臨月だった。不思議な感情だった。大きなお腹を抱えながらも、綺麗で可愛いく凛とした印象。そこに加え、イケナイ事なんだろうけど、妊婦さんなのにとても色気を感じてしまった。どこかしら儚げで、そこはかとなさも惹かれた。


時間が止まるってわかるかな?気になる異性が通り過ぎる時、お互いの目があうのは稀にあることだろう。

でも、スローモーション動画のように彼女が長い髪をたなびかせて俺の横を通り過ぎようとした瞬間、時間が一瞬止まって彼女の瞳孔がカッと開くのを感じた。それは俺も同じことだった。自分の瞳孔がグアッ!と無理やりこじ開けられるのを感じがして、視界が一瞬にして明るくなる感覚だ。

その時もう既に、動き始めていたんだろう。

俺たちの恋と運命は。


俺の中の衝撃的な出会いから、まもなく彼女は産休に入り、その1月後には男の子の赤ちゃんを抱いて戻ってきた。隣に元旦の姿は無い。


俺が感じていた儚げで、そこはかとない印象はそれだったのかもしれない。

実は彼女が産休の間、パチンコ店の同僚から、元旦の話が嫌でも入ってきた。彼女に対して頻繁に手を挙げていた(DV)こと。強そうな男性店員や上司にはヘコヘコして媚びへつらい、目下のヤツや弱そうなヤツには高圧的なこと。他にも、何人もの女性と浮気をしていたこと。極めつけは女性の同僚に手を出し、妊娠させていたこと。あとになって沙耶から聞いた話だが、その女性への堕胎費用は、沙耶が出産のために貯金していたもので、自分の子供に対する出産退院費用は全て元旦に使い込まれ、泣きながら親に頭を下げ、やっとの思いで退院できたんだとか。その男。終わってる。20世紀最大のゲスやろうだ。


それだから、君が退院して戻ってきた時は、最高に嬉しくて、戻ってきてくれてありがとうって思ったんだ。そして勝手かもしれないけど、俺は勝手に覚悟を決めた。

ただ、俺にもその時は付き合ってる彼女がいて、かなりこじれている状況だった。その彼女のせいでというのもおこがましいが、俺は店を辞めることになってしまった。


再びそこに帰ってこれたのは、あきがよちよち歩きを始めた頃だった。

その頃の沙耶はパチンコ店の事務兼景品交換所の担当をしていて、事務所であきの面倒を観ながら仕事をしていた。なんて懐の大きな会社なんだと思う!出戻りの俺も快く雇い入れてくれたしね。今じゃ考えられないだろう。

出会った頃の秘め恋から、お互いの気持ちが急接近するのに時間はかからなかった。ただ、沙耶の方から告白されたのには面食らったけどね。

元旦のことも全部理解した上で沙耶が好きだった。そしてあきのことも。なにより、ほかの店員を押しのけて、あきが俺に1番懐いてくれてたことが嬉しかった。


そして9月。俺たち4人は家族になった。

見上げる空はとても蒼すぎて、俺たちの未来はどこまでも澄み渡っていて、どんな絵でも書けそうな青いキャンパスそのものだった。


これが普通じゃない俺たちが出会った経緯であり、これまでの日々がプロローグで、スタートであるならば、これから起こること全ては、序章に過ぎないんだ。

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