シン視点  1 ナツと出会って 愛に落ちて

朝、目が覚めるとナツの寝顔を見ていた。


愛おしい。


目の前にいるこの女性が、僕のお嫁さんになったらどんなに幸せだろう。


もちろん遊びでこんなことしたのではない。


真剣に大切にしたいと思った。


一生大事にしたい。


ナツが目を覚ました。


はにかんだ顔が可愛い。


そしてまた僕らは一つになった。


シーツには初めての夜の印が残っていた。


それは、僕と彼女の初めての卒業の証だった。


僕らが歩くとき、彼女は僕の腕に自分の腕を絡めてくる。


それが、たまらなく嬉しかった。


もし絡めてこなければ催促していた。


彼女はニヤリと笑い腕を絡めてくれた。


ある時、市立の動物園に行った。


そこにはウンチを投げてくるゴリラがいて奴はなかなか策士だった。


 僕がよそ見をしているふりをしてゴリラを見ているとやはりウンチをつかんで投げてくるではないか。


あっぶな!と思いながらうまくかわせた。恐ろしいゴリラだった。


 マントヒヒの群れを見ていると、オスがメスの秘められた部分をペロンと開くのが見えた。


僕はすぐにナツの顔を見た。


彼女も見ていたらしく、顔が真っ赤になっていた。


「見てた?」


「うん」


「俺もしていい?」と聞くと、「馬鹿…」と、恥ずかしそうに言われた。


いいってことだったのかな?


でも明るい所での行為は彼女が恥ずかしがってできなかった。

 

ある時、田舎の先輩が僕の同級生と結婚することになり僕たち二人も招待された。


 僕らのキューピットの一人だ。その女友達は小学生の時からの同級生で中学に

入ると部活が一緒だったせいで時々くだらない話をする関係だった。


 高校生になると同級生はそこで出会った先輩に一目ぼれしたみたいでわりと仲良くしている風だった。


 その先輩との関係を僕は気にしたこともなかったし、わざわざ聞いたこともなかったがまさか就職してからも続いているとは思っていなかった。


だから結婚するって聞いた時はすごく驚いたけどうれしかった。


 その先輩には僕もいろいろとお世話になったので、いい人と一緒になれるんだなと思っていた。


 結婚式に二人で出席できるとは思っていなかったのでナツも招待されているというのを聞いて うれしかったことを覚えている。 


ナツと結婚式への出席の相談をした。


休みを一日多く取って前々日に田舎に向かおう。


途中でいろんな所に立ち寄ってデートしようって話した。


ナツには僕の所まで来てもらってそこから車で一緒に向かった。


 田舎に向かう国道で会社の先輩から無理やり譲ってもらったネズミ捕り用のレーダー探知機が反応し始めた。


僕もその反応を見たのは初めてだった。


彼女が何かあるのかな?としきりに前方を気にしていた。


僕は一度スピード違反で赤切符を切られたことがあるのでゆっくりと走った。


音の間隔が短くなってきたその時、いた!レーダーを置いている。


彼女はすごく興奮して「すごいすごい」を連発していた。


なんだか僕が褒められたみたいで照れ臭かった。


彼女は僕の手を握って喜んでいた。


あの頃は小さな出来事でも大げさに感情表現していたなと思う。


それがまた良かった。

 

途中ご飯を食べようとさびれた食堂に入った。


注文してから時間がたったけど全然出てこない。


二十分待っておかしいと思い「どうなってる?」ってお店の人に聞いたら


もう出来ますって言われた。


嘘だろそれは。


でも仕方がない。


ナツに名古屋まで来てもらったの海沿いの道を走りたかったからだ。


それは僕が田舎に帰る時に通る道で景色がとてもきれいだから。


それをナツにも見せてあげたかった。


そして景色のいいところや施設を見つけると立ち寄って遊んだ。


二人だとどこにいても楽しかった。


今日は僕が予約したお高い旅館に泊まる日だった。


本当は二泊したかったのだけれど、値段を聞いてやめにした。


そこにしたのは他にホテルが空いていなかったのもある。


そして結婚式の前日は先輩がホテルを取ってくれていたので一泊だけにしたのだ。


 旅館にチェックインするとき、駐車場でナツは中森明菜の『難破船』を聴いてほしいと言った。


「もし別れることがあっても、私はあなたから離れない」という歌詞。


彼女なりに、僕との「恋が愛に変わったこと」を伝えたかったのだろうか。


でもその時、僕は素直に自分のうれしい気持ちを伝えることが出来なかった。


言葉にすることでまるで作り物のようになってしまう気がしたから。


言えばよかった。


ありがとうって。


ただ一言でよかったのに。


 別れるときはこんな歌詞のような状態じゃなかったけど、この時はそう思ってたんだろうか。


離れたくないって。


でも人の気持ちは変わる。


翌日、水族館に行った。


 そこでナツはフグを熱心に見ていたのでどうしたのって聞いたらそのフグの物まねをしはじめた。


ほっぺを少し膨らませて手を横にパタパタパタって。


それがなんともかわいらしかったことを思い出した。

 

数か月そのかわいいネタを堪能していた。


二人でパタパタしながら唇をとがらせてチュッてしたこともあった。


夕方、結婚する先輩の家に挨拶に伺った。


 「おうシン。来てくれてありがとうな。彼女さんもありがとうな。 まあゆっくりしていってくれ」と言われて家に上げてもらった。


 そこには先輩の親戚の方が何人か居てたんだけど、なんとか堂の社長さんという方がナツに声をかけた。「どこに住んでいるのかね」と。


ナツが答えると、「じゃあ近いから遊びにおいで」と誘われていた。


多分僕が知らないだけでよくあることなのだろうと思った。


そのあと先輩が用意してくれたホテルに向かいチェックインした。


「大丈夫?疲れていない?」 


「うん大丈夫」


二人でおにぎりを食べていると彼女の友達が訪ねてきた。


彼女側のキューピットだ。


初めましてとあいさつした。 


ナツとめぐり合わせてくれたことにお礼を言った。 


そしてナツとその友達の話をにこにこしながら聞いていた。


おにぎりを持って帰ってもらった。


友達は恥ずかしそうにしていたけれど遠慮なく! 笑


彼女はそのまま僕の部屋に泊まった。

 

結婚式当日彼女は自分の部屋に戻り、おめかしして現れた。


カボチャのような形のドレスを着ていた。


とてもきれいだった。


僕の礼服姿を初めて見た彼女はかっこいいってほめてくれた。


うれしかった。


式が終わり帰る時間が少し遅くなった。しかも渋滞。


 その頃はまだ高速が通っていなかったので彼女の寮に着くまで十時間くらいかかることもざらにあった。


なのでとりあえず泊まることにした。


夕ご飯を食べてからまた車を走らせて最初に見つけたラブホテルに入った。


二人でシャワーを浴びてお風呂に入ってゆっくりと疲れを落とした。


お風呂から上がって僕は初めて彼女をお姫様抱っこしてみた。


彼女が僕の首に手を回し顔を近づけてきた。


そしてチュッってキスしてくれた。


「好き」って言ってくれた。


彼女は普段、あまり「好き」という言葉を言ってくれなかった。


だが、この時は、はっきりと何度も何度も「好き」と僕に言ってくれた。


僕が彼女に入った時、ナツはさらに「好き、好き」と、ずっと、言ってくれた。


こんなに好きだと言ってくれたのは、後にも先にもこの時くらいだ。


本当にお互いに思い合っていると実感できた、至上の時間だった。


僕は、本当にナツを愛してしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る