ナツ視点  2 シンの気持ち

 


シンが転職するって言い出した。


どうしてか聞くと彼のお父さんからの話で、知り合いの会社が人を募集しているとのこと。


 その会社は大阪にあってオーナーは彼の田舎出身の人。


いつか田舎に工場を作るとの話でよかったらそこで働かないかと誘われた。


 私は反対した。


 せっかく大きな会社に勤めているのに、小さな会社に転職するのはあまりよくない気がしていた。 


 でもシンは私との距離が近くなるしいつでも会えるようになると言っていたから私との事も考えていたようだ。


 でも私がいなくても大阪に来たのだろうか? わからない。



 彼が面接を受けるとき私も近くで待つことにした。 


せっかく大阪に来るから終わったらデートしようって。


 面接後の彼に話を聞くと収入もすごいみたいで良いと思うとの事だった。


彼はその会社で働くことになった。


 確かに距離は近くなったけど駅から遠い所だったので時間がかかった。


そして休みがかなり減っている。本当に大丈夫なのか。




 シンは大切にしていた車を売って大阪に来たのでデートの移動は電車となった。


車に乗らないシンは今までのシンと少し違って見えた。


 シンが名古屋にいるときは車に乗っていろんなところに出かけた。


私は助手席からシンを見るのが好きで助手席で眠るのも好きだった。


一緒にいろんなところに出掛けるのが好きだった。


 それは別に遊園地でなくてもさびれた場所でもどこでもよかった。


 ある日高野山へ行った帰りに車で山道を走っていると私は居眠りをしていたのだけれど彼のたばこが私の膝にあたり、ストッキングが一瞬でやぶれた。


 彼はすごく済まなさそうにごめんって言った。


火傷していないか気にしていた。


やけどは大丈夫だった。


 でもこのままじゃ車から降りられないと思案した結果、途中のドライブインに立ち寄り彼の後ろにぴったりと張り付いてトイレまで行った。


ストッキングをはき替えた私を見て彼はホッとしていた。


 「大事な、おみ足を危険な目に合わせてごめんね」と太ももを撫でながら謝るので


「大丈夫やけど、でもこの撫で方はイヤらしい!」


二人で笑った。


 

 私は勤めている病院の同僚らと飲みに行ったり遊んだりする回数が増えていった。


 打ち解けて気軽に話ができるようになると、その中の男性と距離が近くなってしまうこともあった。


 なぜか彼は私のその変化に敏感に気が付いて「何かあった?」ってよく聞いてきた。


 私自身は浮気とか心変わりしているつもりは全くなくただの男友達のような感覚だったけど、言われたことやあった出来事を正直に話すると彼が少し不機嫌になる。


隣に座った人に肩を触られたり、頭を撫でられたり。


 男性との距離が近い感じに聞こえるのかな。


やきもちを妬いていたのだろう。




 ある出来事があった。


彼に言われるまでなんとも思っていなかったけれど。


 職場のある男性から胸を触られた時私はお返しと言ってその男性の胸をツーンとつついた。


 何度かつつき合ったことを話すと「お前アホか」って言われた。


「そんなん男からしたらお前軽い女やと思われるで。 そもそも胸触る時ってどんな時? 俺がよその女の胸触ってたらどう思う? お前それ聞いてニコニコしてられるん? うれしいと思うの? 少なくとも俺はナツのことを誰にも触られたくない!」


そう言われたとき私はハッとした。


 「ごめんなさい」と謝った。


私は自分の体をシン以外に触られるということを何も思っていなかった。


 私は本当に何とも思っていなかった。


普通に考えてあり得ないことだ。


指摘された今なら確かにおかしかったと思う。 


 その頃ちょうど志村けんさんがエアコンのコマーシャルをやっていて両手の人差し指を自分の目の前で立ててそれを平行状態を保って横に移動するという振りをツインツインと言いながやっていた。


 それを見ていた彼がまねをし始めてなんだろうと思ってたらその人差し指が私の両胸を突っついた。


「キャー」って言ってしまった。


「もうイヤー」って「なにするねん」と彼を怒った。


 彼が何かの物まねをするときは変なこと考えてるって警戒するべきだった。


でも彼にそうやって怒れるのは慣れているからだと思う。


親しみがあるからだ。


 ただの同僚にそんなことをされた時こそ怒らなければならなかった。


私の感覚は少し?おかしいと思う。


 シンが言った。


「間違いなく付き合ってくれって言われる。 もしくは飲みに行こうって言われるやろ。行ったらどうなると思う?」


「・・・」


「多分逃げられへんと思う」


「ええっ!?」


「悪いけど私は軽い女ですっていう行動をしてしまってるから」


「・・・」


「だから誘われても絶対に行ったらアカンし二度と二人だけになったらあかん。でないと俺と別れることになる」


「そんなこと」


「ナツのしたことは遊びやったかもしれんけど男からしたらそんな女にしか見えへんと思う」


シンの言葉が重かった。 


 でもその後、シンの予想通り付き合ってほしいと言われた。


しかも彼がいてもいいから付き合ってくれって言われてしまった。


 胸を服の上からでも触らせて怒りもせず、笑いながら突き合ったことで壁が無くなってしまったのだろう。


 でも彼が居てもいいからってどういうこと? 


当然お断りしたが、何度か言い寄られた。


 そういうときの男は目がギラギラしてて怖いなと思った。


私が招いたわざわい。シンの言う通りだった。


 もちろん二人きりになることは避けていたし、食事や飲みに誘われてもすべてお断りしていた。


 シンにその話をすると、それ見たことかと悲しい目をしていた。


 シンの志村けんの真似はその一回きりで終わってしまった。


私がイヤだと言ったこと守ってくれる。


でも私は・・・。



 休み前に彼の部屋に泊まりに来た。


隣りの部屋に人がいるので気を使っていた。


 シンのものを触っていた。固くなっていた。


お口で愛した。 彼もお口で愛したいと言った。


 お互いの大事な所を愛し合った。


我慢できなくなってしまった。


 二人でそうっとバスルームに入った。


彼に片足を持ち上げるように言われた。


 彼がその場所に顔を近づけていく。


そして愛された。 声を出すことが出来ない。


 もう立っていられないくらいになってしまっている。


彼が立上り私を後ろ向きにした。


 彼と一つになった。しばらくその体勢で楽しんだ。


 シンも私も行くことは出来なかったが一つになれたことで幸せな気持ちになっていた。

 

 そして二人で眠りについた。 


あの胸を触られた一件。


 私はシンを傷付けたのだろうか。


シンはすごく嫉妬していた。


 私は彼のものだったから。


彼も当然私を自分のものだと思っていたから。


彼に一度指摘されたことがある。


 私は男性に緩いらしい。


「ナツはその先があるように思わせてる。それは意識してないと思うけど」


「どんなところが?」


「相手に合わせようとする。つまり相手を知ろうとしてしまうんやろな」


「そうなんかな」


「そうやな。だから俺と付き合ってるんやと思う」


「そんなの、シンは別よ」


「入り口は一緒や。俺と他の人の差が無いと思う」


「・・・」


「今は俺と付き合ってる。でももし俺と付き合ってなくてその時出会った何人かとよーいドンってなったらわからんと思う」


実際、告白されたりナンパされたり言い寄られたりする。


 それは私が毅然としていないからだろう。


男好きのする顔とよく言われるのも警戒心の低さが現れているのだろうか。


 実際シンと付き合うようになってから男性に対する怖さみたいなものが消えていた。


 彼が私にあえて言うくらいなので、それはきっと彼との交際に黒い影を落とすことになるような緩さなんだろうなと思っていた。


でも自分では何が緩いのかよくわかっていなかった。


 もう一つ言われたことがある。 


 ナツは自分で意識しているのかどうかわからないけれど、きれいな人なんだって言われた。


 シンに言われてすごくうれしかったのだけれどそのあと、きれいということはいろんな人から声がかかると思う。 誘いがあると思う。


 不思議と彼氏がいる、彼女がいる人ほど声がかかるものだ。


結婚していても同じ。 


 恋をしている人はやはりきれいに見えるからな。


ナツは付き合っている人がいなくても声がかかるやろな。


 これは経験でもあるし見てきたからそう思ってる。


だからじゃないけれど今のナツは僕が見ても輝いている。


 僕は貧しい家で育ったから基本お金がなくても大丈夫だしそんなに重要ではない。


ナツだけいてくれればいいと思っている。


 人を好きになることに条件がないという事やで。


それはある意味ナツも同じなんやろうと思う。


そして今の僕を好きなのは純粋に僕自身を好きでいてくれていると思っている。 


 ありがとう。


まだそんな話はしたことがないけれどナツは違うと思っている。


 その違うというのは、今の僕には何もないということ。


 それはお金があるわけでもなく、家に財産があるわけでもなく

学歴があるわけでもなく、頭がいいわけでもない。


 仕事もまだまだどうなるかわからない状態でたまたまナツを紹介してもらって、

お互いに好きになって付き合っている。 


 これが現実に結婚とか意識しだすとナツと一生一緒にいる男としてナツが僕を選ぶとは限らないということ。


 最初に言った条件的なものもまだまだ未熟だから。


だから他の人に僕にないものを求めるのはこれから先あるということ。


 僕よりもお金を持っている人。体格のいい人。学歴の高い人。


若い人そうでない人などいろんな人が何人も君に声をかけると思う。


 僕はナツに声をかける人に対して、声をかけるなとか誘うなと言うことはできない。 


 そしてたくさん声がかかると君自身が少しおかしくなっていくかもしれない。


その時僕をどう思うのか。


 今は僕のことが好きだと思う。


だけど遊んでいくうちに僕のことを忘れることが出てくると思う。 


 忘れるとその場にいる誰かのことを気にし始めるかもしれない。


その時にブレーキを掛けられるのかどうか。


 かけてくれることを願うけど。


 かけられなければ僕に言ってほしい。


それは君が望んでそうするのだから僕に止めることはできない。


 悲しいことだけどそれが今の僕らの恋愛なんだって。


ナツと僕は何も約束していない。


 僕は約束できるけどナツはまだ僕のお嫁さんになるって言えないだろう。


約束できないだろう。


 私は多分だけどそんなことにはならないと思うと彼に言った。


あなたが好きだから。いつも想っているから。


 でもここで約束するって言えなかった。 なぜかはわからない。


 彼にとって私のことに関しては自分以外の男性はすべて敵だったんじゃないだろうかと思ったことがある。


 私はそんなに気にしていなかったことでも彼に話しするとすごく機嫌が悪くなったりすることがあった。


 細かいことでも小言じゃないけれど、それはあかんことやでとか色々言われることがあった。


 だから私は彼にどんな話をすれば叱られないのかを考えることが億劫になってしまい聞かれたこと以外はあまり話さないようになっていた。


 彼には内緒だけれど。


私も彼に関わる女は全て敵だとまでは思わないがそれに近い気持ちはあった。


 だから私も同じように思えばいいだけだった。


私のシンを触るなんて言語道断だ!


 だから声をかけられるだけならまだしも他の人に触れたり触られるのは嫌だと思う。


 しかも服の上からでも胸なんて最悪だ。


彼がもし私と同じ遊びをしたなら彼もその女もしばくと思う。


 


 彼と付き合う前の出来事で、上司から頼まれてその人が待っているホテルに書類を届けに行った。


 その書類を届けて私の役割は終わりだったが何故かその人は少し時間ある?

って聞いてきたのでありますよと答えたらフロントに行って部屋が空いてないか聞いていた。


 私はえっ!? て思ったけど幸い部屋の空きがなかったらしくじゃあまたねと別れた。


たとえ空いていたとしてもその部屋にはいかないけど。多分。


 でも話があるからちょっと部屋まで来てって言われてたらのこのこ行ってたかもしれない。


その話を彼にした時もなんと無防備なとあきれられた。


 私は男性恐怖症があった割にはかなり警戒心が無かったみたいだ。


今はわかるから自分で判断できると思う。付いて行ったらダメだって。


 話することで良いことと悪いこと、やってはいけないことを彼に教えてもらった。


もっといろんな話をしないといけない。






 彼は誠実だった。私も彼に対しては誠実でありたいと思っている。


 男は浮気するものと言っていた私だけど危ないのは私なのかもしれない。


そんなことは無いと思うけれど。


 でも本当にシンに浮気されたら無茶苦茶苦しいと思う。


男は浮気するものと言いながらもされるのは嫌だなやっぱり。


 浮気って言葉で表すと割と簡単な感じだけどかなりダメージを受けるというのは先輩から聞いたことがある。


 でも彼に関しては私は安心していた。


彼は私を悲しませないよう色々自制していたと思う。


 私はどうなんだろう。あまり考えたことは無いし大丈夫だと思っている。


いざとなれば逃げればいい!




 彼とはいろんなところに行った。神戸市内の散策や姫路。大阪の街。


 シンと久しぶりに名古屋に行くことになった。


一泊旅行だ。


名古屋ではシンの友人に車を借りて色んなところに行った。


 私も途中で運転させてもらったけどもう大変だった。


彼が色々話しかけてきたけど私は運転に集中してそれどころでは無かった。


 ペーパードライバーだったから。


彼と運転を変わった時はほっとしたことを覚えている。


 その晩彼と飲みに行った。帰り道程よく酔い良い気分で彼と腕を組んで歩いた。


途中彼がつじ占いのおばさんの前で立ち止まった。


 僕と私はどうなりますかって。


今が一番大事な時とかいうばかりで核心の答えは話してもらえず全くの無駄だった。


 私は二度と占いはしないと思った。 私は早く帰ろうと彼を催促し打ち切った。


ホテルに帰ると二人で薄暗がりのお風呂に入った。


 真夜中にふと目が覚めて、窓の外が気になったのでカーテンを少し開けてみた。


部屋の中は真っ暗でかろうじて見えるくらいだった。


 目の前のビルの窓にはまだ明かりが灯っていた。


こんな遅くまで働いているんだと思った。


 私はホテルの浴衣を着ていたのだけれど、私の後ろに彼が近づいて来るのが分かった。


「どうしたん?」そして背中から抱きしめられた。


「ううん、ちょっと目が覚めたの」


「そうか」


キスをした。


 シンに抱きしめられてうれしい。


背中がゾクゾクしている。


 薄明りの下で私とシンは愛のダンスを踊った。


彼と一緒にいるのが本当に楽しみになっていた。


 わずかな時間でもシンと一つになっていたい。


 翌朝、名残惜しいけれど私と彼は電車に乗って地元に帰った。


短かったけど幸せな時間だった。


また行きたい。


私はそう思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る