シン視点 2 彼女の嘘
父から手紙が来た。
大阪にある会社だが田舎出身の人が社長をしている。
いつか田舎に工場を建てる計画なのでその会社に勤めたら帰って来られるだろうと。
人を募集しているらしいから行ってみないかという内容だった。
僕は会社なんてどこも同じくらいにしか考えていなかった。
また大阪に行くことで彼女と会う時間も増えると簡単に考えていた。
取りあえず連絡を取り面接に行った。
父から名前を聞いた事のある人も面接の場に来て俺の年収は九百万円だと言った。
頑張ったらそれだけもらえると言った。
腕で成り立っている世界だから頑張ればいくらでも給料は上がるとの事だった。
知り合いとか身内とかの言葉には割と簡単に信用していたと思う。
僕は転職の準備を始めた。
退職願を書き車のローンのまとめ方を先輩に教わった。
そう、ローンがまだ残っていたのに転職を決めてしまった。
せめて借金がなくなってからでも遅くなかったし何故かお金を借りること自体を安易に考えていた。
大阪の会社の寮に荷物を運び大阪にやってきた。
その会社の社長に実は清算しきれなかった借金があって二十万円ほど貸してもらえないかという相談をしたら、話が違うと言われた。
その通りなのだが借金が残るなんて全く考えてもいなかったのは僕の方だったから。
そのあたりの話は初めてしたのだけれど話が違うというのはまた全然違うと思った。
結局貸してもらえた。
自分でアホだったなぁと思う。
今ならわかる。
職人とはいえサラリーマン。
それが頑張って給料上げると言えば残業するしかない。
月平均で五十時間。
過労死レベルでは全然ないが。
前の会社とは雲泥の差だ。
残業が頑張っているという一つの評価基準だったが残業とは名ばかりのただ居るだけの社長の身内も残業代が付いていた。
ただいるだけなのに。おかしいと思っていた。
見ているだけでも仕事だという。
何か月見続けているんだ?
その仕事をやる者がこの会社では優遇される。
九百万円の人もそんな数年でもらえるわけないやんと言っていた。
その通りだ。
名古屋の会社を辞めたのは完全に失敗だった。
結果論だが考えが足りなさ過ぎた。
父の勧めということもあり完全に信用していた。
最後は自分が決めたのだ。
会社には会社ごとの特色がある。
僕が初めて勤めた会社は今から考えても素晴らしい会社だった。
一つは人間関係がよかった。
一つは同期という仲間がいた。
一つは仕事内容もそんなにきついものではなかった。
でも一番大きいのは人間関係だろう。
どこの会社でも人間関係が悪くなるとそこでずっと働こうとは思わない。
仕事以外のくだらないことを考えなければならないし、これほど生産性の悪い精神的に悪い環境はないからだ。
しかも社長の身内が多く、また先に入ったものから責任のある仕事を任せられる。
そこには実力が一番だと聞いて入社したものの実際は違っていたという
悲しい現実がある。
実力のあるものは時には疎ましがられるし、また本人も自分が否定されているようなそんな気にもなってしまうのだ。
小さな会社の恐ろしい所だと思う。
まさに聞いていた話とは違っていた。
その会社で働くようになってからも盆暮れ正月には田舎に帰っていた。
なんだかんだ田舎が嫌で都会で働きだしたものの結局は田舎が好きだったのだろうか。
実家で彼女の写真を落としてしまったことがある。
それを見た父が
「べっぴんさんやな。でもこの娘は浮気するぞ」って言っていたのを思い出す。
父も、祖母も人の性質を言い当てることがよくあった。
人当たりがよく誰が見てもいい人としか言われなかった人のことを父は身内にだけ、「あいつは信用したらあかんやつや」と言っていた。
何年かのちにその人がお金を持ち逃げしたという話を聞いた。
またあるとき親戚の女の子が結婚するというので旦那さんになる人を連れてきたことがあった。
祖母はその人とにこやかに話をしていたが帰った後で、「あいつはどこかおかしい感じがする」と言っていた。
聞いたときは「ふうん」というしかなかったが、何年か後でDVで離婚したと聞いたときは「へぇー」っと思ったことを思い出した。
子供を海に置き去りにしたり暴力などあったが何年も我慢していたと言っていた。
だから父が彼女の写真を見て浮気するぞといった事。
僕はそんなあほなとは思っていなかった。
言われたことで少し悲しかったのを覚えている。
彼女も今まで僕が思っていたのとは違って飲みに行ったり誰かと遊びに行ったり結構出かけているみたいだった。
余り出かけていないと思っていたのは単純にそう思っていた、感じていただけだった。
いつ電話しても出てくれていたし月一度デートもしていた。
コンサートに行ったとか焼き肉を食べに行ったとか。飲みに行ったとか。
何気ない会話の中でそれは何の話って聞いて初めて話してくれるような。
最初からは話してくれなかった。
名古屋にいた頃感じていた彼女の印象とは違って見えた。
誰と行ったのかは重要だったが僕が聞くことは無かった。
寛大な自分を演じていた。
でも情報として聞いておくべきだったと思う。
しかしまあそういうものだろう。
若い女性なのだから遊びに行くのは当たり前の話だ。
僕と月に一度会うのが精いっぱいの感じが会おうと思えばいつでも会える状態になった。
もちろんスケジュールが合えばの話だ。
何かしら彼女に対するイメージが変わって来て僕の知らない彼女が気になるようになっていた。
ただ少しずつ違和感を感じていた。
物事の考え方に筋が通っていないと感じることがあった。
彼女が僕に対して言う言葉や話の内容が明らかに相談した誰かの考え方に影響を受けていると感じていた。
彼女自身いろんな人と話をし、経験していく中でどのように僕とのことを考えたのかよくわからない。
しかしそのことによって二人で一緒に居るためにどうしていけばいいのかではなく、彼女自身のことが中心になっている、そんな気がしていた。
こんな彼氏だとだめだよ、彼氏になる人はこんな人がいいよ。
結婚するならこんな人でないと。
いろんな人の意見を聞きはするものの彼女は受け止め切れていなかったのだろう。
彼女は読んだ本や話をした相手の考えに割と感化されやすかった。
僕を理解するためにタバコを吸い始めたこと。
川下りの時に言った私が引き寄せているのかもと言ったこと。
明らかに誰かの考えに影響を受けていると感じていた。
そしてその時々で都合のよい解釈をしてしまう。
私は私という芯の部分が定まっていなかったと思う。
僕の存在が彼女の異性に対する抑止力になっていなかった。
ある時期から僕は彼女にとっての一番では無くなっていたから。
それがはっきりし始めたのはもっと後の事だったが。
ナツは出会った人に僕よりも優れている点があるとそれを僕と比べるようになった。
明確に指摘されることもあるしそうではなく少し嫌な顔をすることもあった。
悪い傾向だ。積み重なるともう別れるしかなくなってしまう。
そんな時彼女が軽く始めた話に僕はすごく腹が立ったことを思い出した。
多分これが遠い前兆。
彼女の男性観というのか、考え方の根本に存在した貞操観念とも言うのか。
それが低かったのだと思う。
彼女は基本的になれていない男性にはあまり近づかないし話しかけないと思っていた。
それは出会った時に彼女が僕に示した挙動からそう思っていた。
ナツは男性が怖いのだと思っていた。
でもそんなのは元々なかったのだろうか。
それとも僕と付き合うことで克服したのだろう。
それでよかったのだけれど。
いつも見かける人や話しかけてくれる人などに対してはだんだん慣れてくると相手の求めに割と簡単に応じてしまう。
それがいいことなのか悪いことなのかが別で、自分に出来ることなら応じてしまう。
でもその先に何があるのかまでは考えない。
だから危ないこともあったと思う。
その場の雰囲気を壊すことが怖い。それは僕も同じだが内容によるだろう。
ただやはり体の関係となるとパートナーの存在がある時はそれなりの拒否をするがそれも拒否された側からすると全然甘いと思う。
もしかしたらもう少し押せば大丈夫くらいに思われていたかもしれない。
そういうことから付け込まれてしまうことを彼女はわかっていなかった。
もし何も聞かれずにホテルに連れ込まれたら終わりだと思う。
我々の感覚から外れている男も存在するこの世の中で生きているのだから。
僕が叱って初めてダメな事なのだと気が付く。
そしてこれからもずっと気を付けていかないとダメな事だった。
でも話してくれなくなったことで彼女自身どうやってブレーキをかけていたのかはわからない。
それは悲しい事だけれど信じられないという気持ちを生んだ。
その話を聞いたとき僕は激しく怒った。と、同時に本当に先が思いやられる心配の種をまかれたような気持ちになった。
前回のグループ交際的なものは同僚に誘われてということもあり、何とかわかってもらえたと思う。
でも今回のはまた違うパターンで話を理解した時愕然とした。
職場の男性から白衣の上から乳首を触られたと言った。
私もお返しにつつき返したのって。
それを何度か繰り返して遊んでいたという。
しかも楽しそうに話している。
それを聞いたとき正直こいつあほかと思った。
ナツが話し終わるまで黙って聞いていた。
怒りに震えながら。
僕はもうこれは絶対に叱らんとダメ話だと思った。
ナツはどうやら決定的に貞操観念というものが欠落しているのだと思った。
これは誰かに教えてもらうようなことなのか。
それともこのバブル期に流行ったイケてる女の典型なのか。
誘われれば誰とでも寝てしまうようなそんな片りんをのぞかせている気がする。
それは浮気などなんとも思っていないということだ。
自分の身体を彼以外の誰かに触られることに何の疑問も感じないどころか
遊びとしてとらえてしまうその感覚が全く分からなかった。
だからもう本当にガツンと怒った。
「あほかお前は! どこの世界に彼氏以外に乳首触ってもらって喜ぶ女がおるんや!
付き合ってもいない女の乳首を服の上からでも触ってくる男も頭おかしいやろ。
しかも職場で。冗談で笑いながら触られるのはええのか!?」
彼女は僕が怒るとは思っていなかったみたいでシュンとなった。
こんな事言わないとわからないのか。
本当にがっかりした。
いつ誰に犯されても不思議ではないような行動をしている。
「そういういやらしいことをされても怒らずに受け入れているなんて犯してくれ、襲ってくれって言っているようなものやん」
でもこの一件を叱って以来、彼女はあまりあったことを話してくれなくなった気がする。
後日その乳首男は付き合ってほしいと言ってきたらしい。
乳首を触ってうれしがっている女なんやから簡単やろ。
やる気満々。その男はかなり期待していただろう。
しかも彼氏がいてもいいからって。
そんなことを言われる彼女ってなんだか軽く見られているようですごくいやな気持になった。
軽く見られているじゃなくて完全に軽い女と思われているだろう。
自分の愛している女性がそんな軽い女だなんて最悪でしかない。
それ見たことか。自分がそういうことを招いたって自覚してほしい。
なんとも言えない気持ちになった。
一生一緒に居たいと思った女がこんな女だったなんて、運が悪いとしか言いようがない。
私には彼氏がいるからダメですと彼女はちゃんと断ったって言っていたけれど。
もう少し突っ込めば乳首男は彼氏がいてもいいからと言っている。
それが彼がいるからダメです、で断れたのかどうか。
心配は尽きない。
僕はその時から彼女の他の男性への対応に不信感を抱いたのだと思う。
とはいうもののそういう疑う感情は非常にしんどいものだ。
心配ならいいのだけれど似たようなものか。
出来るだけ無関心であることで自分の気持ちの平穏は保たれていたと思う。
でも気になるのが惚れた弱みというものなのだろう。
実際にそういうことがあってももう彼女は話さないだろうとは思ったが、それ以降は聞いたことがない。
無かったのだと思いたい。
誰しも裏切られたくないし嫌いになりたくない。
嫌いにはなれないだろうけどこんなくだらないことでムカムカするのもなんだかおかしい気がする。 彼女がそうさせているのか。
精神的にしんどいことは嫌だ。それは僕の勝手な気持ちだとわかっている。
僕らの間で駆け引きなど無用だ。僕はナツのことを愛しているのだから。
それをわかっていてほしいと思っていた。
彼女自身が意図しない状況に巻き込まれたらいやだなと思っていた。
でも充分にその可能性はあるということが今回の話で分かった。
自分の愛した女がそんな軽い女だったらイヤだろう。
普段の彼女からは想像できないくらいの出来事だ。
そのあたりの感覚が欠落していたのだろうか。わからない。
これから起こる出来事の可能性をすべて伝えてあれはダメ、これもだめと伝えることは不可能だ。
そのような兆候があったらきちんと話をしないと知らぬ間に心を奪われてしまうこともある。
彼女と四六時中傍にいるわけではないので僕がいない時には彼女が僕の存在を意識したうえできちんと対処できることを祈るしかない。
また彼女自身が意図した状況で僕がいやだなと思うこともあるのだろうけど。
そうなったらもう取り返しがつかないと思っている。
そんな日が来ないことを祈るしかない。
そしてそんなことで別れるなんて嫌だと思っている。
正直考え過ぎかと思ったこともあった。
彼女も時々田舎に帰省する。
そんな時電車の中で声を掛けられることもあるそうだ。
それはもうはっきり言って仕方がないと思う。
ナツの他の男への対応力に任せるしかない。
話しかけづらい雰囲気を出せというのは無理な話なのだろうと思う。
僕がきれいと感じるのだからほかの男にもきれいに見えるはずだし、声をかけたくもなるだろうと思う。
そんな話は一度聞いただけでその後は知らないがでも聞いてしまうとなんだか腹が立つ。
俺の女に声を掛けるな!と思う。
声掛け禁止とか何か貼り付けておきたい気持ちだ。
彼女といろんな話をする中で男性に対して無防備なところがあったので心配だった。
僕が叱ったことで多少はマシになっていたと思いたかった。
それは誰にも獲られたくないという気持ちが表れて、その気持ちのせいで彼女に不愉快なことを言ってしまっていたかもしれないと思う。
どこかに誰かと出かけたいと言っても行くなと言っていたかもしれない。
聞かれたことにしか答えなくなっているような気がした。
少し距離が出来てしまったと思う。
話を聞くことと叱ることのバランスがすごく難しいと感じていた。
しかし他のカップルでもこんなものなのか?
見えていないこと知らないことは気にならなかったが、出かけたとか出かけているって知ってしまったら気になっていた。
若い素敵な女性なのだから誘い誘われて飲みにだって行くだろう。
買い物にだって行くだろう。
もっと僕がおおらかであればよかったのに。
そしてもっと話をするべきだった。
お互いを分かっているようでわかっていない。
僕は彼女とだけ遊べればよかった。
たぶん僕はおおらかな役割は演じられていたと思う。
彼女は同僚とかいろんな人と遊びに行くことで遊ぶことの楽しさに目覚めていったと思う。
僕はそうではなかっただけで。
遊びに行けばいろんな人と出会う。会えば話をする。
話をすれば興味を持つ相手もできるだろう。
話しをしていればだんだん度胸もついてくる。
初めて話す人とでもそれなりに話ができる。
それは彼女の仕事でも同じように年数と経験を重ねることでだんだん度胸がついていったと思う。
誰とどういう話をするのかは知らない。
でもいつか話していて楽しいと思える男性と出会う日が来るのだろう。
あの乳首男のようにナツにセクハラをしてナツが怒らなければエスカレートしていく事もあるだろう。
そしてそれを僕に言わなかったら。
それが終わりの始まりになるのだ。
ある日の電話でナツが百万円のダイヤの指輪を買ったっていう話を僕にした。
えっ? 僕が買って上げないといけないのになんなのだろう。
僕が買うときはそれ以上のものが必要?
とにかくびっくりしたことは覚えている。しかし唐突な話だ。
そしてその後は特にその話題も出なかった。
でもその後にニュースや週刊誌などでココ山岡の話が出ていた。
もしかしてナツは引っ掛かったのだろうか。
ナツが街をぶらぶら歩いていると店から店員が出てきてアンケートに答えてくださいと呼びこまれたらしい。
そしてそこがココ山岡だった。
完全なキャッチセールスだ。
僕も駅に行くと内容はわからないがほぼ声を掛けられていた。
そんな大きな買い物を即決で決めるってびっくりしたことを覚えている。
現金で払ったのか分割払いだったのか。
後日見せてもらったが箱にココ山岡と印字されていた。
失礼だけれど不自然なにおいがプンプンしていた。
自分だけで決めたと言った。
断れなかったのかとも思ったがそんなことは言わなかった。
気に入って買ったと言った。
普通はそんな風には言わないだろう。気に入って買うのだから。
僕には無理やり買わされたとは言えなかったのか。恥ずかしかったのか。
彼女と付き合ってきてびっくりした部分だ。
でもこれはかなり言いくるめられたような気がする。
金銭感覚がしっかりしていてもキャッチセールスには負けてしまうのだ。
騙されているのじゃないかとも思っていた。
確か買い戻しをする特約が付いていたと思う。
五年後に必要なければ同じ値段で買い取ります。
彼女が購入したポイントはそこにあったと思う。
折れたポイントというべきか。
彼女の性格が災いして断り切れなかったとみる方が自然だ。
ココ山岡の被害者は大半が男性と聞いた。そこになんでナツが入っているんだ?
相談してくれれば何とかできたかも知れないのに。
クーリングオフ制度も知らなかったのか?
誰かと歩いていたのか? 知らないし判らない。
以前の電話のセールスの話もある。
見知らぬ人から電話がかかって来ていい話ですよ会いませんかと言われて、
会いに行こうとする女性だったので心配の種は尽きない。
ダイヤの価値も独自のもので市場価格と照らし合わせると非常に価値の低いものであったらしい。
彼女は投資したのだろうか。投資にもならないな。
販売員の強引さに負けてしまったのか。
でもナツが百万円のダイヤモンドを買ったことであれっ? 百万円じゃ足りないのじゃないかと思い始めた。
おそらく貯めたとしても全然足りなかったのだろう。
じゃあナツはどういうつもりで言ったのだろう。わからなかった。
若かった僕はまるで時間が無限にあるような気になっていた。
毎月コツコツためることが苦手だった。
自分では貯金ができない。今から思えばアホな自分だった。
彼女に話したら彼女の提案だったのか僕が頼んだのか忘れたが彼女に僕の通帳を預かってもらいお金を貯めるということになった。
そのころ彼女は喫茶店でアルバイトを始めた。
学費を稼ぐために、職場の同僚に紹介してもらったという話だ。
僕と付き合い始めた頃には学費はある程度たまっていたはずで、だから僕の住む街で受験したと思っていた。
だから今更という気がした。
でもそうなのかと彼女のいう事をそのまま受け止めた。
いちいち疑ったりしないだろう。
ただ腑に落ちない点もある。
彼女の立場は公務員だ。
副業がばれたらそもそも仕事を失う危険がある。
そんなこと言う同僚がいるのか?
僕に言っていないことがあるような気がした。
正直、お客相手の商売はいつ何時声を掛けられても不思議ではない。
飲み屋ではないが充分声を掛けられる状況になる。
僕よりもいい人は星の数ほどいる。
僕はあまり良い返事をしなかった。
反対した。
むしろなぜそんなにお金が必要なのかとも思っていた。
何か言えないことがあったのだろう。
彼女が僕の住んでいる寮の部屋に来た時、たまたま忘れていた封筒に入った三万円を彼女が見つけた。
僕は完全に忘れていた。
「ちょうだい!これちょうだい」
「ええで。上げるわ」
その日彼女が帰るとき、やっぱり返すって言われた。
「いいよいいよ。一度上げるって言ったのだから」って。でも結局返された。
何だったのだろう。本当にわからなかった。
そんなこと言う人じゃなかったのに。
お金に困っていたのだろうか。
それにしても相談がないものだ。
僕は結構浮かれていたと思う。
会えば楽しいそれだけだった。
もっと彼女の話を聞いて身辺の状況を把握するべきだったと思う。
聞けたのに聞いていなかった。
話の流れで彼女は問題に思っていないことでも僕が聞くと問題だと思うことが多々あった。
その問題とは僕ら二人の関係の存続にかかわるようなこともあったし僕自身が軽く見られているなと思うこともあったし、 そんなこんなで結構面倒くさい気分にさせられていた。
もう一つは聞かないと答えない。聞かれていないことは話さない。
これは簡単に言うと隠し事をしているということだ。
一時的に距離を置いたほうがいいと思った。
これは彼女自身が僕の存在を少し軽く見ているのではないかと感じたから。
でもこの軽く見られているというのはこの後はっきりとした形を見せることになった。
僕自身は彼女のことが大切だし必要としていたけれど彼女が僕を必要なのかどうか、好きなのかどうか確かめてもはぐらかされることがあった。
僕なりに考えた結果距離をとることにした。
お付き合いを凍結するということだ。
彼女はきちんと考えてくれるのだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます