シン視点 1 ナツと出会って 2


 僕が勤めている会社は三交代勤務の者と二交代勤務の者、そして日勤者がいる。


 僕が配属された課には同じ寮に住む一つ上の先輩がいて、僕はこの先輩に色々なことを教わった。


 三交代勤務の部署だ。


 その先輩ヒガシさんとは休みも同じなのでご飯に連れて行ってもらったり何かとお世話になった。 


 あるときヒガシさんに「シン、お前最近女できたやろ。もうやったか」と聞かれて、「イヤ、そんなんまだまだですよ」と答えたら、


 「20歳までに童貞卒業せなあかんぞ」って言われたことで少し焦った。


もうすぐ20歳の誕生日だったから。


 「シンの彼女ってきれいか?」 


「きれいやと思います」


「シン多分あそこは臭くないと思う」


「ヒガシさんなんですかそれ?」


 「シン、女とやるときはアソコを舐めるんや。たまに臭いのがおるんや。それはなきれいでない女の子に多いんや」


「そうなんですか。でも好きやから舐めるんですよね。ちょっとくらい臭くてもええんと違いますか?」 


「シンがええのやったら別に構わんと思うよ」笑 


 しかし女の子がいないところでは今から思うとかなりえげつない事を話していたなと思う。

 

 ナツからずいぶん後から聞いた話だがナツの寮でも、なかなかえげつない話をする人がいたらしい。内容はとても言えないとの事だったが。


 男子寮に住むとどんなことでも話題になるし、彼女がいるというだけで何故か荒くれ者の先輩も優しくなったりした。 


 その当時、三十年以上前でも四十歳を超えた独身の先輩がたくさんいた。


決して収入が低いわけでもないのだが出会いがなかったみたいだ。


 ナツと会い共に過ごす時間が増えてくると僕に触れることが多くなってきた。


三度目のデートは動物園にした。


 ナツはとてもはしゃいでいた。


だんだん僕に慣れてきたのか色々な感情を表現してくれるようになっている。


 ライオンがこちらに向かってくると僕の腕をつかんだり。


ショーを見ているときには僕の腕を軽く握っていたり。


 動物をやさしそうな目で見つめているナツの事を見ている僕は何かキュンとした感情を抱くようになっている。


ナツと離れたくないと思っている自分に気が付いていた。


 今まで出会った女性と比べるわけではないのだけれど、明らかに時間の流れが速くなっている。


あっという間に時間が過ぎていく。


どうだろう。


 まだはっきりとした好きという気持ちではないような気がするけれどこの女性はすごく魅力的で言い方は悪いけれどしてみたいと思った。


 ナツとしてみたい。


 好きになってからするのか、してから好きになるのかそれはよくわからないがすべてひっくるめてしたいという気持ちが出てきていた。


まだそんな経験は無かったのだけれど。


 一緒にいたいとかキスをしたいとか全部ひっくるめた気持ちだった。


デートの間ずっと考えていた。告白したら受けてもらえるのだろうか。


 今だったら断られたとしてもまだ傷は浅いと思う。 


でも断られるのが怖いと感じている。


でも楽しくなかったら来ないだろう。


 駅のホームに行くまでに言おうと決心した。


楽しい一日が終わりナツを駅に送るために車を走らせた。


 駅に着くまでの間、色々話をしたが僕が「つまらなかったら言ってね」と

言ったときナツが、「つまらなかったら来てないよ」って言った。


 ドキッとした。思わずナツの顔を見ていた。


僕はそのときもしかしてと思った。


 もしかしてナツも同じように思ってくれているのだろうか。


 もうそのあとは告白の言葉を考えたりタイミングを考えたりで

何か上の空になっていた。


 駅に着き駐車場に車を停めた。 もうあまり時間がない。


でもこんなところではだめだ。


 結局駅のホームまで来てしまった。


何をしゃべったのかすらもう覚えていないくらいだ。


 周りに人がいると言いづらいし、でも電車に乗る前に言わないと。


焦る気持ちでいっぱいになった。


 そして間もなく電車が来ますのアナウンスが聞こえた時もう、意を決して言った。


「あの。ナツさんのこと好きになりました。付き合ってください」


 何とか言うことが出来た。


するとナツが一瞬、間を置いた後、「私も好きです」って言ってくれた。


 私も好きだよって。


 僕は本当にうれしかった。


そのあとナツは、彼女は嬉しそうに「もちろんお願いします」って言ってくれた。


 手を握り合った。最高の日だ。


帰ってから電話でも話をしたが、手紙も届いた。


 あの日告白を待ってたこと。いつ言ってくれるのか駅のホームまで来たとき

は言ってくれないのかなと思っていたこと。


 そして告白してくれてとてもうれしかったこと。


私と同じ気持ち。 好きという気持ちがお互いに確認出来てよかったこと。


 ふつつかものですがよろしくお願いしますと書かれていた。


僕ももちろん返事を書いた。多分これが初めてのラブレターだ。


 次のデートでホームに降り立った彼女とすぐに手をつないだ。


緊張感ありまくりの恥ずかしがりながらの勇気を出しながらの手つなぎだった。


 二人とも笑顔だった。 会いたいという気持ちがあふれていた。


 前回の告白の後、ナツの事を色々と考えていた。 妄想だ。


とても言葉にすることは出来ない。


 現実に戻ろう。


ナツが僕の手をしっかりと握ってくれたのはうれしかった。


 僕の手の大きさは彼女とあまり変わらなかったのでとてもしっくりと握るこ

とが出来た。


少しずつ僕らはお互いの心の距離を縮めていった。自然に。すごく自然に。


 付き合うことになって何度か泊まりに来ても僕はまだ失恋の恐怖があった。


好きになり過ぎないようにしていたつもりだった。でもナツは魅力的過ぎた。


 だんだんと喜怒哀楽を見せるようになっていった。


付き合い始めなので怒はなかったけれど。 


 僕はそんなに表現がうまくはないけれど、なにか信頼関係が築けてきたのかなと感じていた。


ナツが喜ぶと僕もうれしかったし楽しそうなときは僕もすごく楽しくなった。 


 この女性は僕の太陽になる人だって思った。


 以前は前髪も後ろ髪と同じ長さでサダコみたいな感じだったのが、

前髪作った方が可愛いと思うと言ったら次会うときには前髪を作っていた。


 そのせいですごくすごくチャーミングになった。


印象が全然変わった。すごくきれいになってしまった。


 お化粧の仕方も勉強したのかな。


とても自然で優しい感じのメイクになっていった。


 僕の言うとおりにしてくれてうれしかった。が、これは他の男も見てしまうなと思った。


彼女はスタイルもよかった。


 性格も女性らしくてそこからどんどん好きになって行った。


彼女は色々教えてねと言った。僕は調子に乗っていいよと言った。


 本当は僕も教えられるほど経験豊かでないのに。なぜ僕にも教えてな。


一緒に成長しようと言わなかったのか。


 そしてまた経験のない僕はまだキスをすることすら考えていなかった。


一緒に過ごすことで、傍にいるだけで満足している。


 でも少しずつ前に進まなければならない。それは必然だ。


それは彼女がきっかけを作ってくれたことで先に進むことが出来たのだ。


僕は彼女にリードされていた。それでよかったと思う。


 ある時僕の住む街で看護学校の試験を受けるとの事で旅館の手配を頼まれた。


ガイドブックを購入し試験会場近くの旅館を予約した。


 この旅館は料金は割とリーズナブルでもしかしたら職人さんとかが利用することが多かったかもしれない。


 電話をかけて、女の子一人ですけど大丈夫ですかって聞いたら大丈夫ですとの事だったので予約した。


 女の子一人の予約をあの頃は断るところもあったみたいだ。


僕は仕事だったので夕方、繁華街近くの公園で待ってもらうことにした。 


 僕はこの時までなぜ彼女がこんなところまで受験をしに来るのかわかっていなかった。


 僕は本当に鈍い男だ。それは今でも。 


 小学生の頃近所に女の子が引っ越してきた。


目が大きくてかわいらしい女の子だった。


 その女の子は僕よりも五つほど年下だ。


 その女の子とは時々近所の子供らと一緒に遊ぶくらいでなんの感情もなかったが、数年後僕が中学生になるくらいの時に近所の路地でばったりと会った。 


「おう。どっか行くんか?」って声をかけた。 


 色々話をしたと思うがその子が急に「シンちゃん、私の事好き?」って聞いてきたんだ。


ドキッとした。 そのあと「私はシンちゃんが好き」って言われて。


 僕のことが好きだなんて全く分からなかった。


僕が鈍感だったのだろう。


 そのあとは何もなかった。 


中学生になり遊ぶ時間帯も変わり、その娘と会うことは無くなっていた。


 高校を出て県外に就職したから出会うまですっかり忘れていた。


大人になってその女の子と偶然会った時はうれしかった。 


 「もしかしてシンちゃん!?」って。 面影は確かにあった。


かわいい素敵な女の子になっていた。17歳。 高校生だ。


 背も僕よりも高くなっていた。 「大きくなったなぁ」って。笑っていた。


立ち話だったけれど少しの時間いろいろしゃべった。仕事とか住んでいる所とか。


 お母さん元気かとか。


そしてじゃあって言うときに「シンちゃん? 私が小さいころシンちゃんに言ったこと覚えてる?」 って聞かれた。


僕はその子のことをトモって呼んでいた。 


 「トモに何か言われたっけ?」ってとぼけた。


遠い昔の記憶だけれどあんなこと忘れられるわけない。 


 好きって言われたの初めてだったから。


トモは僕の事をずっと想っていたって。


シンちゃんの事好きだったって言われた。


 僕はごめんって言った。 


今すごく好きな人と付き合っていて他のことは考えられないんだって言った。


 トモは少し寂しそうに、「そうなんや。 あー残念や!」って言っていた。


 人の好意に触れてそしてそれを断ることはなかなか切ない事だと思った。 


幼かったころのトモが僕を好きになって今までどんな気持ちで過ごしてきたのか。


 今この時僕を見つけてどんな気持ちでトモは話をしたんだろう。 


今付き合っている人が居なければ連絡先を聞いていただろう。


 僕はその時にトモの気持ちを受け止めてあげられなかった。


高校生だったし。


 数年後、僕の弟がトモの同級生だったのだけれど同窓会の時にお兄さん元気?どこにいる?って聞かれたぞって。


その時僕は一人だったがダメな時だった。


 気持ちが死んでいた。何も感じられなかった。


ずっと心に引っかかっているけれど。 本当に淡い清らかな思い出だ。


 三十年以上前。今から思えばその頃は携帯電話もないのにちゃんと待ち合わせ場所で会えていた。


今はスマホだ。それでもどこにいるのかわからなくなることがある。


 大きな公園内のある場所を指定して待っていてもらったので車を駐車場に停めて彼女を探した。


いた! 彼女は不安そうな顔をして辺りを見回してた。


 近づいていく僕の姿を認めるとにっこりと笑って小さく手を振りながら近づ

いてきた。


僕は彼女と会えたことでホッとした。彼女も同じみたいだ。


 僕は彼女の荷物を持ち手をつないで駐車場に向かった。


「待った?」「ううん、そんなに」


「遅くなってごめんね。ナンパとかされへんかった?」「うん」


「そっか。なんかでも不安そうな感じやったね」「うん」


「もう大丈夫やからね」「うん」


「なんかドキドキするな。勉強できた?」「うんまあまあ」


「そっか。 明日頑張らんとあかんから早い目に旅館にいかんとあかんね」


他愛もない会話。他愛ないけど素敵な時間だった。


 僕はナツの旅行鞄を車に置いたあと、二人で地下街を歩いた。


 何か食べたいものあるかな?って聞いたらなんでもいいって言われたので、

ファミレスに入った。


 僕はピラフを頼み彼女はドリアを頼んだ。 普通においしいと言える味だった。


少しドライブして夜の七時くらいに旅館の前に着いた。


「今日はお疲れさま。手を握りながら明日試験頑張ってね」と言ったら僕をじっと見つめてくる。


僕もナツをじっと見つめた。


 いくら鈍い僕でもわかった。僕は息を止めた。ドキドキがすごくなる。


心臓が飛び出しそうだ。


彼女にも聞こえてるんじゃないかというくらい鼓動が激しくなった。


 そしてゆっくり顔を近づけるとナツは目を閉じた。


唇が触れ合う直前に僕も目を閉じた。


 やわらかくて優しい唇。彼女のいい匂い。


初めてナツとキスをした。


 そしてこれが僕のファーストキスでもある。


素晴らしい記憶。


 彼女はまた明日ねと旅館の入り口に立って僕を見送ってくれた。


試験頑張ってな。


 僕はキスの余韻にひたっていた。すごくうれしかった。


完全に恋に落ちた。僕がかけていたブレーキなんてあっという間に壊れてた。


 彼女も同じだったと思う。


その日寮に帰るとヒガシさんが玄関で立ち話をしていた。


 「シン。おかえり」「ただいま」


「あれっ。お前なんかうれしそうな顔してるな。なんか良いことあったやろ?」


 「なんもないっすよ」


「そうかぁ!?いつもよりかなりニヤけた顔してるけどなぁ」


 「そうですかね。気のせいですよ。気のせい」


部屋に帰り目を閉じてキスの余韻を楽しんだ。 


 翌日は日勤で朝から夕方まで仕事だった。


 仕事中もニヤニヤしていたみたいで「今日の紀南は気持ち悪いな」と笑いながら声をかけられた。


 仕事を終えてシャワーを浴び彼女を迎えに行った。


僕が迎えに行くと彼女が旅館から出てきたところだった。


 いいタイミングだ。 


目が合うとお互いに恥ずかしがった。


 少しの時間見つめあった。そして声をかけた。


「お疲れさま」 その間に彼女の荷物を車に積み込んだ。


 「車に乗って」「うん」


「お疲れ様やったね。 どうやった?」 


 「もう一つかな」「そうか。 受かったらどうするとか決めてるん?」 


「まだ全然」「そうか」受かったらどうするんだろうと思っていた。


 彼女がこの街で受験したのは僕と一緒に居たかったからだと気が付いたのは

彼女が帰った後だった。


 彼女がそれを決めたのはまだキスをする前だった。


ナツはまだそんな段階から僕と一緒に過ごすことを思い描いたのだろうか。


 今となってはわからないが、僕よりははるかに先のことを考えていたのだろうか。


 駅に向かい駐車場に車を停め降りようとした時、彼女を見るとじっと僕を見つめていた。


 また運転席に座りなおして二度目のキスをした。


彼女は自分の寮に帰った後、僕に手紙を送ってくれた。


 とても恥ずかしそうに電話で話していた。


「あのね、いいものを送ったよ」って。


「喜んでくれると思う」って。


 中身のことは一言も言わず、とにかく「着いたら誰にも見られないように開けてね」って言われた。


僕はすごくうれしかった。


 何が届くんだろう? 


その日からナツは電話を切る前にチュッってしてくれるようになった。


 後日届いた封筒を開けてみると小さな紙にキスマークが付けられていた。


ナツの形の良い唇の形そのままのきれいなキスマークだった。


 そのキスマークに当然キスしまくった。


最高だ。

 

 キスマークが届いた話をした。


すごくうれしくてキスをしまくったことも話した。


 ナツは「イヤー」と言いながらもうれしそうな声でほどほどにねと言った。


そして「シンちゃんに会いたい」と言った。 切なくなった。


 話の中でタバコの話になった。


いつから吸ってるのとか。おいしいのとか。


 別に吸う必要も何もないんだけれど僕はすごく若く見られていたので大人に見てほしかったというのが大きいかもしれない。


そして彼女が「私も吸ってみた」って言い出した。


 なんで?どうして?彼女は僕と同じことをしてみようと思ったらしい。


僕は慌てて止めた。それはだめだ。


 君はいつか子供も産むんだし余計なお金もかかるからやめた方がいいと。


そして体に悪いからって言ったんだ。


 でもどの口が言ってるんだという話しだったんだけど彼女はすっぱりやめてくれた。


 寮の後輩にこんなことがあってびっくりしたという話しをしたら、彼女がたばこを吸いたいのならそれを止める権利なんて先輩にはないって言われて笑った。

 

 それは俺が嫌なの。権利とかじゃないの。


でも彼女はそこまで感化されてしまうのか。


 要注意であると思った。


 初めて彼女の住む街へ遊びに行った時、駅で待ち合わせをした。


 そこはいつも警察が駐車違反を隠れて取り締まっているところだったが知らなかった。


 しかし駅前の車を停めやすい所はほぼお巡りさんが獲物を狙って待っている。


 見えるように立っていればだれも停めないだろうがそれでは商売あがったりだからだ。


 僕は案の定捕まってしまった。


高い駐車料金だった。


 それ以降、車から離れるときは必ず駐車場に停めることにした。


小雨の降る日だった。彼女を迎えにホームに行って帰ってきたらアウトだった。


 仕方がない。


その後ドライブに出かけた。


 運転中に僕のちんちんの方向がいまいち定まっていないのでちょっとゴメンと言いながら信号待ちの時に修正した。


 ナツはそれを見ていた。「どうしたの?」 


「ごめん。ちんちんの方向がおかしいから直してんねん」と言ったら口に手を当てて恥ずかしそうに笑っていた。


 その日は須磨の水族館に行った。


水族館を見終わった後、近くに砂浜があり二人で歩いた。


 雨は上がって砂浜は濡れており歩きやすかった。


「俺、夕焼けがすごく好きでね。 年を取ったら家の中がオレンジ色に染まるようなそんな場所に住みたいなと思ってるんや」 


「そうなんや。私も一緒に住んでもいいのかな?」


「もちろん。ナツが一緒に居てくれたらこんなに幸せなことは無いと思うよ」


「そうなんや。もしかしたら私の事すごく好きなの?」


「そうやでってそんなこと言うか!」


「うそうそ、気持ちは伝わってるよ」


「今すぐに一緒に住んだりはしない?」「同棲は嫌だなって思っている」


「じゃあ結婚する?」「まだ早いよ」


「そうか。一緒に居てすごく楽しいけれどそこまではまだ思ってないんやね」


「うん」


「あと何回チューしたらそんな風に思ってくれるのだろう?」「一万回くらいかな」


「一万回やったらここでもできるかもよ」「えーっ」


「俺はずっと一緒に居たいなと思うよ」「うん」


「ナツはあんまり思ってないみたいやね」


「へへへ。そう聞こえるの?」「そうやな。 さみしいけど」


「シンちゃん。そんなことないよ。私もずっと一緒に居たいと思っている。

だって離れたくないもの」


「そうか。俺もおんなじやで。 同じ気持ちやで」


「うん」「いつか一緒になりたいな」「うん」

 

 今は無くなってしまったけれど港の近くに大きな遊園地があった。


そこに二人で遊びに行った。


 彼女は「ジェットコースターに乗ったとき怖くない方法があるんよ」そう言った。


「どんな方法なん?」


「頂上まで行ったら急降下するやん。その前に息を止めるんよ。そしたら怖くないのよ」


「そうなんや。俺も試してみるわ」


でも僕は彼女の言うことを聞くのはやめようと思った。


 いざ乗り込んでクライマックスの所で彼女が息を止めた瞬間、「ナツ!こっち見て!」 変顔をしてブーッて噴出させた。


 「キャー」って叫んでいた。


僕はその声を聞いてうれしかった。


ジェットコースター降りてから、「もう!」って怒っていた。


キャーって声を聞きたかったんだ。 


その怒ったところもかわいいと感じていた。


 本当にかわいい女性だった。


 その夜、彼女と飲みに出かけた。彼女は結構飲んだ。


酔いつぶれてしまって、僕が肩を貸してホテルまで連れて帰った。


 ベッドに寝かせたときは彼女は完全に眠っていた。


そこで僕は良からぬことを考えた。


 ズボンの中に手を入れてじわりじわりとあそこに近づけていった。


触ったことなかったから。触ってみたかった。


 すると彼女が目を覚ましたではないか。ごめんついついと謝った。


何も言われなかったから許してもらえたと思う。


 そのあとまた眠りそうになったので、ナツ、服を脱がすよ。


何もしないからね。そういいながら脱がせた。


 下着姿になった彼女は美しかった。


いつか全部脱がしてみたい。


 そう思った。


夜中に目が覚めたナツは自分の姿に驚いたみたいだ。


 シャワーから帰ってきたときに「気分はどう?」って聞いたら

ビックリしたって言っていた。 どうして下着姿になっているのかわからないと。


「ごめんやけど手は出しておりませんよ。全部脱がしてしまおうかと思ったけど目が覚めたときに落ちる雷が怖かったから洋服だけにしたんやで。しわくちゃになったら嫌でしょう」 


「うん。ありがとう。でも恥ずかしい。酔っぱらってしまって。嫌いになったりしない?」


 「うん。俺と一緒に居るときは酔っぱらっても寝込んでも大丈夫。でも他の男と一緒に居てこんな状態になるのは許されへんと思う」


 「うん。それはわかっています」


「しかし惜しいな。全部脱がしたらよかったな。 残念やな」


 「もうっ! いやらしい」「へへへ。いやらしいねんで」


ベッドにもぐりこんできたナツを抱きしめてキスをした。


 「かわいいなナツ」そういいながら眠った。


 何度か僕の住む街に来て泊まる事にもそんなに抵抗がなくなってきた頃。


デートの後、駅に向かう途中でまた帰りたくないと言われた。


 前回お泊りの翌朝、駅に送っていく途中でグループ交際みたいなことをして

いると話されたことで僕は、この娘は大丈夫なのかと思っていた。


 でも一応それはダメなことだと釘を刺したし、ナツも相手が好きだとかそんなことは無いと言っていたので今度から気を付けるように言って話を終わらせた。


 駅の駐車場に車を停めてホームまで歩いたが一言も話さなかった。


何を言っていいのかわからなかった。 


 でもこのまま無言でさよならは尾を引いてしまう。


ナツはさみしそうな泣きそうな顔をしていた。


 そんな顔するなよ。俺も辛いねんからな。


電車が入りますというアナウンスが流れたので僕は周りを見渡した。


 幸い人も少ないしこっちを見ている人もいない。


ナツに聞いた。 「俺の事好き?」って。 「うん」って言った。


 「俺の事好きって言えるの?」って聞いた。


じゃあ言って。聞かせてほしいと言った。


 ナツは、「シンちゃんが好き」ってちゃんと言ってくれた。


その時ナツの目から涙がこぼれ落ちた。


 そのタイミングで電車がホームに入って来た。ナツにキスをした。


ナツは目を閉じることなく僕のキスを受け入れた。


 涙がこぼれて驚いた顔をした直後にうれしいようなほほえみをくれた。


ナツに抱きつかれた。悪いことをしたな。


 もっと早くに許してればよかった。


次は無いぞって。 


 仲直り出来てよかった。


 そして今回また帰りたくないと言った。


 ナツはただ一緒にいたいだけなのか、どんどん先に進めてもいいのかその辺

りがよくわからなかった。


 僕はナツの事が好きだったし、大切にしたい気持ちもある。


まだ時間はそんなに経っていないけれどお嫁さんにしたいと思い始めていた。 


 気持ちがのめり込む前段階だった。


でもナツの事をいつも見ていられるわけではない。


 僕の知らないところで前回のようなことがあると辛いなと思っていた。


だから今回帰りたくないと言われたことで自分のものにしようと思った。


 僕はそんな経験がなかったのであくまでも余裕やでという風に装って


「今日はナツをもらうね」と言った。


僕が言ったことでナツは一瞬ドキッとしたみたいだけれど頷いてくれた。


 ヒガシさんに色々聞いていたがいざ自分がその状況になった時すごく緊張するものだなと思った。


彼女とデートしてキスをしてお泊りするようになると勃起するようになっていた。


 ホテルに一緒にいる間ずっとだ。その状態でナツを抱きしめたりしていた。


トイレが大変だったことを思い出す。 元気だった。


 ナツも何かが当たると思っていたかもしれない。


それまでにナツの胸はもらっていた。やわらかくてとても気持ちのいいものだ。


 初めてブラジャーを外す時、正直どうやって外すんだろうと考えていた。


 取りあえず背中に手を回しておそらく引っ掛けてあるのだろうと想像してシュミレーション通りにやってみたら意外とすぐに外れた。


ホッ。よかった。


 そのブラジャーを外した時にナツの胸があらわになったがそこはそんなに羞恥心は無かったようだ。


 しばらくナツの胸を触ったりもんだりしながら感触を確かめていた。


胸のアンダーから稜線をたどるときれいに乳首がぴんと立ちあがっている。


 その下の乳輪の大きさも色合いも素晴らしいと感じていた。


他の女性の乳首は知らない。


 ナツのそれが美しいと思っていた。


僕しか知らないチャームポイントだ。


 ナツのことが好きだからだろう。


ナツがバスルームから出てきた時、僕はナツを抱きしめた。


 ナツを好きになってからこの瞬間を思い描いていた。


そして今僕の腕の中にいるナツがとても愛おしい。


 僕のものになろうとしているナツがとてもかわいく思える。


ナツをベッドに寝かせた後、バスタオルを取った。


 何も身に着けていなかった。 


部屋の照明はかなり暗かったがその輪郭はわかる。


 わずかな光が肌に反射して美しく光っている。とても美しい。


ナツの体が薄暗がりではっきりとは見えていないけれどとても美しい。


 ナツの事が好きだから余計にそう思うのかもしれない。


 お互いに何も身に着けていない状態で抱き合うことがとても気持ちのいいものだと初めて知った。


 キスをした後少しずつ下に降りて行った。色んなところに唇をはわせた。


初めて彼女の秘密の場所を触ってみた。 


 そこにたどり着くまでに草原地帯を通り抜けた。


やわらかい毛におおわれているその部分を本当は見てみたかった。


 僕の指先がナツの肌を撫でながら降りていく。


少し抵抗されたが。


 そこにたどり着いたとき彼女はいつもの彼女らしくない高いかわいい声を発した。

 

触るのは僕が初めてだ。


 優しくなでるように触っていると少しずつナツの吐息が大きくなっていった。


 その事で僕も興奮している。もちろん勃起したままだ。


時折発するナツの声がすごくなまめかしくて色っぽい。


 ナツに僕のものを触ってもらった。


恐る恐る触れる感じが気持ちいい。


 今まで胸から下は触ったことがなかった。


でもこれは僕にとってもナツにとってもお互いのものになるための儀式だ。


 おなか辺りでも吸ったり舐めたりしながらおへそを過ぎたあたりで


ナツの動きが逃げるような感じになっているのがわかる。


 そこを目指しているのがわかっているのだろうか。


言っていないけれど僕も初めてなんだ。


 草原のあたりに達するとナツは手で大事な部分を隠した。


僕は隠れていないところをついばんだり吸ったりその周辺を遊びまわった。


 そしてナツの手を唇と舌を使って除ける作業に入った。


少しづつ手が離れていく。 僕は時々息を吸い込んでその香りを楽しんだ。


 いい匂いがする。 そして舌を這わせた。


中央の谷間はまず避けて周辺から優しく攻めていく。


 彼女の蜜があふれているのがわかる。


僕の頬が濡れるからだ。 感じてくれているみたいだ。


 胸だけの時もこんな風に濡れていたのだろうか。


だとしたらもったいなかった。味わえばよかった。


 彼女の吐息や声が僕を痺れさせている。楽しい。うれしい。


幸せな気持ちだ。温かい気持ちになっている。


 僕はナツを愛している。 ナツが愛しい。


僕は谷間に舌を滑らせた。


 ナツは今まで聞いたことがない声を出した。


僕はその声に心も体も震えた。


 すごく蜜があふれている。女のそれを初めて味わった。


好きな女の蜜はおいしいと思った。 


そして幸せな気持ちだ。うれしい気持ちもある。


いつまでも吸い続けていたい。そんな気持ちになる。


ナツはなまめかしい声を出し続けている。


僕は夢中になっていた。でもナツの反応も見ていた。


そして僕は彼女の唇を目指して上昇を始めた。


行きよりは少し早いペースで戻っていく。


そして唇に到達した時僕は「ナツに入るよ」って言った。

 

ナツは頷いた。


僕はナツにキスをしながら入った。


 初めてだったけどうまく入ることができてよかった。


でもナツは苦しそうだった。

 

 ナツは僕にしがみついている。 


幸せな気持ちだ。


 僕はナツの為に生まれて来たんだって思った。


ナツのためなら死んでもいいとさえ思った。


 ナツが愛おしい。ずっと一緒にいてほしい。


どれくらい時間がたったのだろう。


 ナツの蜜はまだ途切れていないが苦しそうだ。


そろそろやめようと思った。


 そして僕はイケなかったがナツから抜き取った。


そしてキスをしてナツを抱きしめた。 大好きだ。


 愛していると言った。 ナツは頷いてくれた。


僕らはやっと一つになれた。


 ナツは僕のものだ。僕の女だ。


僕はナツのものになった。ナツだけのものだ。


 そして抱き合って眠った。 


朝、目が覚めるとナツの寝顔を見ていた。


 愛おしい。


目の前にいるこの女性が僕のお嫁さんになったらどんなに幸せだろう。


 もちろん遊びでこんなことしたのではない。


真剣に大切にしたいと思った。一生大事にしたい。


 ナツが目を覚ました。はにかんだ顔が可愛い。


そしてまた僕らは一つになった。


 シーツには初めての印が残っていた。 

 

 僕らが二人並んで歩くとき彼女は僕の腕に自分の腕を絡めてくる。


それがとてもうれしかった。


 もし絡めてこなければ催促していた。


彼女はニヤリと笑い腕を絡めてくれた。


 ある時、市立の動物園に行った。


そこにはウンチを投げてくるゴリラがいて奴はなかなか策士だった。


 僕がよそ見をしているふりをしてゴリラを見ているとやはりウンチをつかんで投げてくるではないか。


あっぶな!と思いながらうまくかわせた。恐ろしいゴリラだった。


 またマントヒヒの群れを見ているとオスヒヒがメスヒヒのアソコを後ろからペロンと開くところが見えた。


 僕はすぐに彼女の顔を見た。すると彼女も同じところを見ていたらしく大きな目がさらに大きくなり顔が真っ赤になっていた。


 「見てた?」「うん」「俺もしていい?」って聞いたら「馬鹿」って恥ずかしそうに言われた。


いいってことだったのかな?


 明るい所での行為は彼女が恥ずかしがってできなかった。

 

 ある時、田舎の先輩が僕の同級生と結婚することになり僕たち二人も招待された。


 僕らのキューピットの一人だ。その女友達は小学生の時からの同級生で中学に

入ると部活が一緒だったせいで時々くだらない話をする関係だった。


 高校生になると同級生はそこで出会った先輩に一目ぼれしたみたいでわりと仲良くしている風だった。


その先輩との関係を僕は気にしたこともなかったし聞いたこともなかったがまさか就職してからも続いているとは思っていなかった。


 だから結婚するって聞いた時はすごく驚いたけどうれしかった。


その先輩には僕もいろいろとお世話になったのでいい人と一緒になれるんだなと思っていた。


 結婚式に二人で出席できるとは思っていなかったのでナツも招待されているというのを聞いて うれしかったことを覚えている。 


ナツと結婚式への出席の相談をした。


 休みを一日多く取って前々日に田舎に向かおう。


途中でいろんな所に立ち寄ってデートしようって話した。


 ナツには僕の所まで来てもらってそこから車で一緒に向かった。


 田舎に向かう国道で会社の先輩から無理やり譲ってもらったネズミ捕り用のレーダー探知機が反応し始めた。


 僕もその反応を見たのは初めてだった。


彼女が何かあるのかな?としきりに前方を気にしていた。


 僕は一度スピード違反で赤切符を切られたことがあるのでゆっくりと走った。


音の間隔が短くなってきたその時、いた!レーダーを置いている。


 彼女はすごく興奮してすごいすごいを連発していた。すごーいって。


なんだか僕が褒められたみたいで照れ臭かった。


 彼女は僕の手を握って喜んでいた。


あの頃は小さな出来事でも大げさに感情表現していたなと思う。


 それがまた良かったんだ。

 

 途中ご飯を食べようとさびれた食堂に入った。


注文してから時間がたったけど全然出てこない。


 二十分待っておかしいと思いどうなってる?ってお店の人に聞いたら


もう出来ますって言われた。嘘だろそれは。仕方がない。


 ナツに僕のところまで来てもらったのは途中から海岸線を走るルートに変わる。 


それは僕が田舎に帰る時に通る道で景色がとてもきれいだから。


 それをナツにも見せて上げたかった。


そして景色のいいところや施設を見つけると立ち寄って遊んだ。


 二人だとどこにいても楽しかった。


今日は僕が予約したお高い旅館に泊まる日だった。懐が痛かったな。


 確か二人で五万円くらい払った。


本当は二泊したかったのだけれど、値段を聞いてやめにした。


 そこにしたのは他にホテルが空いていなかったのもある。


そして結婚式の前日は先輩がホテルを取ってくれていたので一泊だけにしたのだ。


 旅館にチェックインするとき駐車場で彼女は曲を聴いてほしいと言った。


 中森明菜の難破船。僕がいない時にさみしくて壊れそう。


もし別れることがあっても私はあなたから離れないくらい思っている。


 そして恋が愛に変わったことを知ってもらいたかったのだろうか。


今聞いても切ない。


 彼女なりに僕とのことを考えてくれている。すごくうれしいことだ。


 別れるときはこんな歌詞のような状態じゃなかったけど、この時はそう思ってたんだろうか。離れたくないって。


 でも人の気持ちは変わる。


 翌日、水族館に言った。そこでナツはフグを熱心に見ていたのでどうしたのって聞いたらそのフグの物まねをしはじめた。


ほっぺを少し膨らませて手を横にパタパタパタって。


それがなんともかわいらしかったことを思い出した。

 

 数か月そのかわいいネタを堪能していた。二人でパタパタしながら唇をとがらせてチュッてしたこともあった。


夕方結婚する先輩の家に挨拶に伺った。


 「おうシン。来てくれてありがとうな。彼女さんもありがとうな。 まあゆっくりしていってくれ」と言われて家に上げてもらった。


 そこには先輩の親戚の方が何人か居てたんだけど、なんとか堂の

社長さんという方がナツに声をかけた。「どこに住んでいるのかね」と。


 ナツが答えると、「じゃあ近いから遊びにおいで」と誘われていた。


多分僕が知らないだけでよくあることなのだろうと思った。


そのあと先輩が用意してくれたホテルに向かいチェックインした。


「大丈夫?疲れていない?」 「うん大丈夫」って。


二人でおにぎりを食べていると彼女の友達が訪ねてきた。


 彼女側のキューピットだ。初めましてとあいさつした。 


ナツとめぐり合わせてくれたことにお礼を言った。 


 そしてナツとその友達の話をにこにこしながら聞いていた。


おにぎりを持って帰ってもらった。


 友達は恥ずかしそうにしていたけれど遠慮なく! 笑


彼女はそのまま僕の部屋に泊まった。

 

 結婚式当日彼女は自分の部屋に戻り、おめかしして現れた。


カボチャのような形のドレスを着ていた。きれいだ。


 とてもきれいだった。


僕の礼服姿を初めて見た彼女はかっこいいってほめてくれた。


うれしかった。


式が終わり帰る時間が少し遅くなった。しかも渋滞。


 その頃はまだ高速が通っていなかったので彼女の寮に着くまで十時間くらいかかることもざらにあった。


なのでとりあえず泊まることにした。


 夕ご飯を食べてからまた車を走らせて最初に見つけたラブホテルに入った。


二人でシャワーを浴びてお風呂に入ってゆっくりと疲れを落とした。


お風呂から上がって僕は初めて彼女をお姫様抱っこしてみた。


彼女が僕の首に手を回し顔を近づけてきた。


そしてチュッってキスしてくれた。


「好き」って言ってくれた。


 彼女はあまりその言葉を言ってくれなかった。


でもその時ははっきりと何度も何度も「好き」と僕に言ってくれた。


僕らは愛し合った。


 僕が彼女に入った時、彼女はさらに「好き好き」と言ってくれた。


ずっと。うれしかった。彼女の愛情表現がその好きに集約されている。


 こんなに好きだと言ってくれたのは後にも先にもこの時くらいのような気がする。


僕のことを愛してくれたのだろう。僕も彼女に「大好きだよ」と何度もささやいた。


 幸せな時間だった。本当にお互いに思い合っているって実感できた。


僕は本当にナツを愛してしまった。


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