第七十八話 アレクサンドラ・フォン・ザイデル

『ツェーリンゲンは高名な傭兵ゼルドナーとして活躍された祖父から、根元魔法の素質を濃く受け継いでいるようですわね♪』


『恐悦至極に存じ上げます。シュノーア家の女男爵バローニン閣下』


私との間に女児を儲けている彼女が仕える主君であらせられるシュノーア家の女男爵バローニン閣下は、検問所内の暖かい室内で、私に対して笑みを御浮かべになられますと。


『ザンドラは長男のエーゴン以降は天から根元魔法の素質を授かった子に恵まれませんでしたが、ツェーリンゲンの子種は祖父譲りの優秀さを受け継いでいましたわね♪』


ザンドラ。私の学友でもあるエーゴン・フォン・ザイデルの御母堂であらせられる女騎士リッテリン様の姓名は、アレクサンドラ・フォン・ザイデルですが。アレクサンドラの短縮形がザンドラという、いんむ発音となります。


『シュノーア家の女男爵バローニン閣下に御仕えなされていられます、御忠臣の女騎士リッテリン様の優れた血統が御息女の令嬢フロイラインに受け継がれたかと思われます』


椅子に腰掛けていられるシュノーア家の女男爵バローニン閣下に対して、直立不動の姿勢で立っていた私が恭しく深々と御辞儀を行う様子を、ザンドラが仕える御主君は満足気な表情で御覧になられまして。


『気に入りましたツェーリンゲン。リューベックに到着したら私の相手もしなさい。これまで胤変たねかわりの姉妹を二人産みましたが、どちらも天からは根元魔法の素質を授かりませんでしたけれど。貴方の子種でしたら期待出来そうですわね♪』


……はあっ。


『御満足頂けるように務めさせて頂きます。シュノーア家の女男爵バローニン閣下』


シュノーア家の主従の御二方の女性は両名ともに独身ですから、年下の男子学生である私と関係を持つのは個人の自由ではありますが、内心では溜息をついてしまいます…。

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