第七十九話 封建制度の社会への嫌悪感

『ボスッ』


『…学友の前ですけれど、失礼をしますね。エーゴン』


『構わない。フローリアン』


リューベックの叡智ヴァイスハイト学園の学生寮シュトゥデンテン・ヴォーンハイムの男子寮の自室に帰って来た私ですが、心身の疲労から寝台に俯せに倒れ込みました。


女男爵バローニン閣下は、非常に御満悦ごまんえつていであらせられた』


生真面目な性格をしている学友のエーゴンに、悪意がないのは解ってはいますが…。


『シュノーア家の女男爵バローニン閣下には、ハイディの御母堂であらせられるルガー家の男爵バローン夫人様と関係を持っている事を肌を重ねる前に伝えましたが。その結果として女男爵バローニン閣下からは、御自身と男爵バローン夫人様のどちらが良いと繰り返し執拗に問われて、心身共に疲労困憊する閨事ねやごとを強いられました…』


寝台に俯せに倒れ込んでいる私に対して、同い年の十四歳の男子学生でもあるエーゴンは。


女男爵バローニン閣下からすれば、叡智ヴァイスハイト学園で次席のフローリアンがルガー家の男爵バローン閣下と御夫人に、領地の境界線で争いが生じた際に傭兵ゼルドナーとして合力こうりょくしないように、釘を刺される目的もあられたのだと思われる』


こうした貴族諸侯的な思考が出来る点は、エーゴンも女騎士リッテリン様のザンドラの子息だと実感します。


ゴロッ。


『繰り返しになりますけれど、私はハイディの御両親であるルガー家の男爵バローン閣下と御夫人にも、エーゴンの御母堂であらせられる女騎士リッテリン様が御仕えされているシュノーア家の女男爵バローニン閣下にも、肩入れするつもりはありません。それに…』


『それに?』


俯せの体勢から仰向けに反転した私は、自室の天井を見上げながらエーゴンに対して。


『ルガー家もシュノーア家も、私が欲しいのでは無く、林檎アプフェルの果樹園で穏やかな生活を送られている祖父の影に怯えているのだと思います。孫の私が合力こうりょくした陣営に、高名な傭兵ゼルドナーであらせられた祖父も味方をすれば圧倒的な劣勢となります。そうした事態を避ける為に私と関係を結ばれて、あわよくば祖父の血統を受け継ぐ魔法使マーギアーいか女魔法使マーギエリンいが授かれば良いとの御考えです』


…貴族諸侯の皆様方は、御自身の地位と領地を守る為なら何でもされます。封建制度の社会は本当に嫌気が差します!。

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