第七十七話 主君の身の安全に常に細心の注意を払われる御方

『出迎えご苦労。エーゴン』


『恐悦至極に存じ上げます。母上』


女男爵バローニン閣下の御一行を警備される護衛兵ライプ・ガルデの衛兵達を率いていられる女騎士リッテリン様は、馬上から子息のエーゴンに対して労いの御言葉を掛けられました。


『交代の為の馬は用意出来ているな。衛兵長』


封建制度の社会においては上位の身分に属される女騎士リッテリン様の確認に対して、衛兵長は恭しく深々と御辞儀を行われますと。


『はい。女騎士リッテリン様』


ヒラリッ「ストッ」


女騎士リッテリン様は衛兵長の返答に御頷きになられますと、騎乗されていた軍馬から軽やかな身のこなしで下馬されまして。


女男爵バローニン閣下に御休み頂く前に、検問所の中をあらためる』


『はい。女騎士リッテリン様。御案内申し上げます』


女男爵バローニン閣下の忠臣であらせられる女騎士リッテリン様は、主君の身の安全には常に細心の注意を払われます。


『無用だ衛兵長。付いてこい。ツェーリンゲン』


『はい。女騎士リッテリン様』


衛兵長と実の子息のエーゴンを残して、私を伴い検問所の建物内に入られた女騎士リッテリン様は、内部を鋭い目付きで確認されましてから。周囲に誰も居ないのを確かめられますと。


『んーーーっ、チュッ。来てくれるとは思わなかったわ。フローリアン♪』


情熱的にくちびるを重ねて来た年上の女性に対して私は微笑み掛けまして。


『雪が降り始め本格的な冬が到来しましたから、移動に支障を来さないか少し心配になりました』


私の返答を聴きますと、満面の笑みを浮かべまして。


『心配してくれて嬉しいわフローリアン♪』


彼女は独身ですから、私との関係は年齢差のある男女の付き合いではありますが、不倫にはなりません。

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