第七十六話 エーゴン・フォン・ザイデル

『ザシュッ、ザシュッ、ザシュッ』


『衛兵長様。御疲れ様です』


『おや、ザイデル殿。御母堂であらせられる女騎士リッテリン様からは、そなたが迎えに来るとは伺ってはいなかったが?』


エーゴン・フォン・ザイデル。貴族諸侯の女男爵バローニン閣下に御仕えされている女騎士リッテリン様を御母堂に持つ、エーゴンの姓名です。


『はい。衛兵長様。母上からは指示は受けてはいませんが、雪が降り始め本格的な冬が到来しましたので、何か御手伝い出来る事があればと思いまして。まかしました』


エーゴンの説明を受けた検問所の責任者でもある三十代半ばの衛兵長は、好意的な表情を浮かべまして。


『最近の若い連中は上からの指示待ちが多く困りますが、ザイデル殿は御母堂であらせられる女騎士リッテリン様から薫陶くんとうを受けられていますな』


『恐縮に存じ上げます。衛兵長様。実は叡智ヴァイスハイト学園で共に学ぶ学友でもあるフローリアン・ツェーリンゲンの話から、女男爵バローニン閣下の御一行を御迎えにあがろうと思い付きました』


エーゴンは本当に生真面目な性格をしていると思います。自分で考えて行動したと話しても、私は一切気にしません。


『ツェーリンゲン……。ああ、あの傭兵ゼルドナーの孫ですな』


衛兵長はそう仰られますと、私の金髪ブロンデス・ハールを御覧になられまして。


『酒席で泥酔した父から聴いた話ですが、敵側に金髪ブロンデス・ハール魔法使マーギアーいが居ますと、味方の傭兵ゼルドナーの士気が戦う前から崩壊して戦争にならなかったそうです。実際に目の当たりにした訳ではありませんから、酒に酔った父が大袈裟に話を盛っただけかも知れませんがな』


多分ですが、衛兵長の父親の話は本当の事だと思います。

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