第七十五話 生真面目で高潔な学友

『シュタッ』


『おっ、空から降りて来たって事は、兄ちゃんも根元魔法を使える魔法使マーギアーいかい?』


文明社会にして帝国自由都市であるリューベックの領内と、封建制度の社会である女男爵バローニン閣下が治められる領地の境界線にある、リューベック側の検問所の手前エーゴンが着地をしますと、髭面ひげづらの男性が声を掛けて来ました。


『リューベック市内にある叡智ヴァイスハイト学園で根元魔法を学んでいます』


私とは同い年の十四歳の若者であるエーゴンが生真面目に返事をしますと、髭面ひげづらの男性が笑顔を浮かべまして。


『兄ちゃんとは同い年くらいかな?。この前の仕事で伯爵グラーフ閣下に雇われた際に、金髪ブロンデス・ハールの綺麗な魔法使マーギアーいが味方に居てな。最初に見掛けた時は男装の麗人ってやつかと思ったが、川で水浴びしている様子を隠れて覗いたら男だったが。同じ学校で勉強しているのかも知れないな♪』


髭面ひげづら傭兵ゼルドナーは上機嫌で話しますと、伯爵グラーフ閣下から頂いた報酬を使い楽しむ為にリューベックへと向かい歩いて行かれました。


『知り合いか?。フローリアン』


根元魔法の姿隠之魔法ウン・ズィヒトバールカイツ・ツァオバーを解除して、姿を現した私にエーゴンが訊ねましたが。軽く肩を竦めまして。


傭兵ゼルドナーは貴族諸侯の皆様方からすれば使い捨ての消耗品に過ぎません。味方として共に戦った傭兵ゼルドナーの顔は意識して覚えないように心掛けています』


私の説明を聴いたエーゴンは納得した表情を見せまして。


傭兵ゼルドナーとしての次の仕事の際には敵に回るかも知れないからな。顔は覚えておかない方が気楽なのは確かだな』


私は覚えていなくとも、向こうが覚えている場合はありますから、軍場いくさばでは敵側から話し掛けられる事もありますが。正直に言えば仕事がやりづらくなるので、出来れば敵側からは話し掛けて欲しくはありません。


『顔見知りの命を奪うのは仕事でも楽しくはありませんから。前にも話したようにエーゴンの御母堂であらせられる女騎士リッテリン様の主君の女男爵バローニン閣下には、ハイディの御父君であらせられる男爵バローン閣下との衝突は避けて頂ければ助かります』


女騎士リッテリン様は私との間に御息女を儲けられていられますし。男爵バローン閣下の御正妻であらせられる男爵バローン夫人様のエリーザとも、私は男女の関係にあります。


『フローリアンの言う通りだ。叡智ヴァイスハイト学園で共に学ぶ学友の一人であるハイディの御両親であらせられる男爵バローン閣下と男爵バローン夫人様とは、自分も出来れば戦いたくは無い』


エーゴンは入学直後にハイディに武術の授業で一方的に叩きのめされていますが、遺恨に思わないのは立派な学友だと尊敬しています。


『エーゴンは高潔な人格をしていると思います。生真面目で融通が利かないのが、玉にきずですけれど』


私の率直な感想に対して、エーゴンは生真面目な表情で頷きまして。


『自覚はしている。フローリアンは言葉を飾らずに話してくれるから、自分のような人間からすると欠点を認識するのに大いに役立ち助かっている』


傭兵ゼルドナーとしては生真面目で融通の利かないエーゴンとは共に戦いたくはありませんが、叡智ヴァイスハイト学園で学ぶ学友としては敬意を払っています。

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