第五十八話 背景調査の為の情報収集

『チャプンッ、シャアアアッ』


『お風呂を貸してもらい感謝をします。ペーター』


『気にしなくて良いよ。ボクもフローリアンと一緒にお風呂に入れて嬉しいし♪』


豪商にしてリューベック参事会の議員でもあるペーターの御父君の屋敷のお風呂は非常に大きいですが、同性の大切な学友でもあるペーターは嬉しそうな表情を浮かべながら私に身体を密着させています。


『ハイディの御母堂であらせられる男爵バローン夫人様は、ボクの事は夕餉ゆうげの席に招かれても、それ以上の関係は求めないという事は、知っているのかな?』


ペーターは叡智ヴァイスハイト学園の首席ですから、試験の成績は次席の私よりも良いのですけれど、善良な性格に妨げられて貴族諸侯の皆様方の動向を読めない部分がありますね。


『昨夜ペーターは、娼館フロイデン・ハオスに馴染みの男娼が居ると話していましたね』


私による示唆を受けたペーターは、疑問が解けて納得したという表情を浮かべまして。


『そうか。ボクが娼館フロイデン・ハオスで男の子の男娼だけに相手をしてもらっている情報を、男爵バローン夫人様は掴んでいるんだ』


娼館フロイデン・ハオスは弱味を握りたい人物の醜聞を得たり、どのような好みをしているか調べるのには最適な情報源と成り得ます。


娼館フロイデン・ハオスで働いている女性奴隷労働者スクラーヴェン・アルバイテリン等からすれば、自らの自由を買う為の資金を貯める副業として客の情報を貴族諸侯の皆様方の家臣に売る行為は、何ら躊躇ためらわないと思われます』


私も博士ドクトルから紹介して頂いた金融機関の高利貸しから受けた学費と生活費の返済に滞れば、男娼としてペーターの相手をしていた可能性があります。


『やはり貴族諸侯の皆様方は怖いよね。ボクは皇帝陛下直轄の帝国自由都市のリューベックに生まれて、本当に幸運だったと改めて思うよ♪』


『ペーターの言う通りですね』


文明社会であるリューベックの外の封建制度の世の中で生まれ育った私も、大切な学友であるペーターの見解には全面的に同意をしました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る