第五十七話 嫌悪感を通り越した諦めの心境

『今宵の夕餉ゆうげにハイディの御母堂であらせられる男爵バローン夫人様からの御招待を受けていますが、先程の学生食堂でのエーゴンの話しから次の展開が大体予想出来ました』


私の話しに血統的に根元魔法の素質を受け継いでいるペーターとハイディの男女の学友は、直ぐに揃って苦笑を浮かべましたが。コレットは少しの間考えてから、嫌悪感を顔に滲ませましたが。ハイディの前なので発言は控えたようです。


『気にする必要は無いわよコレット。御母様は夕餉ゆうげの後に非常に優れた魔法使マーギアーいであるフローリアンを、逗留とうりゅうなされている最高級の宿泊施設ウンタークンフトの寝所に招き入れるおつもりよ。近日中に御父様もリューベックに来られるから、フローリアンの子種で孕んで身籠みごもられても、配偶者の御父様との間の子だとする事が出来るから』


ハイディの御母堂であらせられる男爵バローン夫人様は、母親が女魔法使マーギエリンいの血統ですから。魔法使マーギアーいの私と肌を重ねて子作りを行えば、天から根元魔法の素質を授かった赤子が産まれる確率が高まります。


『当然御父様も御母様の行動は御承知よ。そうでなければ貴族諸侯の男爵バローン家の御夫妻が、離れた場所で暮らしていないわよ』


ハイディがうんざりした口調で吐き捨てるように話しますと、コレットは無言で同い年の十四歳の女性であるハイディの手に優しく自らの手を重ねました。


『ありがとうコレット』


『私の方こそ。話してくれてありがとう。ハイディ』


私とペーターのような異性の学友には出来ない細やかな気遣いが、同性のコレットには行えます。


『今回断っても御母様は他の手段で優れた魔法使マーギアーいであるフローリアンの子種を狙うのは疑いの余地が無いわ。面倒だから一度相手をしてもらえるかしら?』


御母堂に対して嫌悪感を通り越した諦めの心境に達している、大切な学友であるハイディの要望に私は頷きまして。


『私の身体に流れる根元魔法の血統狙いの女性と同衾どうきんするのは、男爵バローン夫人様が初めてという訳ではありませんから、御相手を務めさせてもらいます。ハイディ』


『悪いわねフローリアン』


まあ、男爵バローン夫人様の御相手を一度務めれば、リューベックでの会談を終えられた御夫君の男爵バローン閣下が御領地に帰られれば、当分の間は御誘いを受けずに済むと思われます。

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