第五十六話 千人分の働きをする男子学生

『敵の敵は味方という事。ハイディ』


『その可能性もあるという事よ。コレット』


学生食堂での朝餉あさげを済ませましたが、エーゴンや他の学友達が居る前では話し辛い内容もあるので、議員の屋敷であるペーターの自室に場所を移しましたが。


『やはりハイディの言う通りですね。私達三人がいつでも自由に集まり、他者の目を気にせずに済む活動拠点があると便利だと思います』


私の感想にペーターも同意をしまして。


『調査協力の依頼が上手くいったら、ボク達三人で共同生活を送るのも良いかも知れないね。あっ、ハイディの場合は御両親の男爵バローン閣下と男爵バローン夫人様が許さないか』


ペーターの言葉にハイディは自嘲的にも感じられる笑みを浮かべまして。


『寧ろ逆よペーター。フローリアンを誘惑して男女の関係になり、女魔法使マーギエリンいの私と魔法使マーギアーいのフローリアンの間で子を儲けるように、御母様は全力で応援するわよ♪』


天から根元魔法の素質を授かり、叡智ヴァイスハイト学園で学ぶ私達三人の会話の意味を、子爵ヴァイカウント閣下の御領地で生まれ育ったコレットは理解出来ていないようでしたから。


『貴族諸侯の皆様方からしますと、身内に一人でも魔法使マーギアーいか女魔法使マーギエリンいが居ますと、他家に対して有利な立場で交渉や争いを進める事が出来ます。コレット』


私の説明にハイディが笑いながら。


『フローリアンなら一人で普通の傭兵ゼルドナーの千人分の働きをするわ。しかも身内なら自らの家門の利益の為に動くから、一回ごとに契約を結ぶ傭兵ゼルドナーとは異なり、継続的な味方として計算して物事を考えられるようになるのよ。コレット♪』


自らが魔法使マーギアーいや女魔法使マーギエリンいでは無い貴族諸侯の皆様方は、伴侶には天から根元魔法の素質を授かった人物か、血統的に根元魔法の素質を受け継ぐ子供を儲けやすい配偶者を探す事になります。


『ボクのお父さんも、貴族諸侯の家門に入り婿にならないかという話しがあったそうだよ。お父さんはリューベックでの商売と、参事会の議員として政治をする方を好んだから断ったそうだけれど』


ペーターは父方の曾祖父から根元魔法の素質を受け継いでいますから、御父君の議員の祖父が魔法使マーギアーいとなります。


『フローリアンはお祖父さんが魔法使マーギアーいなのよね?』


コレットの確認に私は頷きまして。


『ええ、その通りですよコレット。祖父は天から授かった根元魔法の素質を活用して傭兵ゼルドナーとして働きお金を貯めて、貴族諸侯の皆様方の争いより荒れ果てていた林檎アプフェルの果樹園を購入して再生させました』


祖父は自らの出自に関しては一切話さない人物なので、私は祖父以前の家族に関しては解らないでいます。


『フローリアンの御爺様は高名な傭兵ゼルドナーだったと、同世代の御婆様から御伺いした事があるわ。軍場いくさばでも何度か相見えた事があるそうよ』


ハイディは母方の祖母から根元魔法の素質を受け継いでいますから、二世代前の私の祖父とハイディの祖母は、幾度も軍場いくさばで戦ったそうです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る