第五十五話 貴族諸侯同士で比較的安全に会談を行える街

女男爵バローニン閣下が家臣として御仕えになられている女騎士リッテリン様の母上を伴われて、近日中にリューベックに御来訪されると聞き及んでいる』


女男爵バローニン閣下と女騎士リッテリン様の同性の主従が、リューベックに来られるのですか…。


『昨日御母様に御会いした際に私も御伺いしたわ。貴族諸侯の男爵バローン閣下であらせられる御父様もリューベックに来られて、会談を行われるそうね。エーゴン』


ハイディの御父君であらせられる男爵バローン閣下と、エーゴンの御母堂であらせられる女騎士リッテリン様が御仕えになられている女男爵バローニン閣下は、御領地の境界線を巡り小競り合いを繰り返して来た関係ですが。


『リューベックは皇帝陛下直轄の帝国自由都市だから、敵対する貴族諸侯の皆様方が比較的安全に会談を行える中立的な街だからね』


リューベック参事会の議員を御父君に持つペーターの言う通りです。少数の護衛兵ライプ・ガルデしかリューベック市内には伴えませんから、男爵バローン閣下と女男爵バローニン閣下の同格の貴族諸侯であらせられる男女は、敵の大軍に不意打ちをされて囲まれるような危険を冒さずに、比較的安全な環境で会談を行う事が出来ます。


『議題は交易拠点だった子爵ヴァイカウント閣下の御領地の城下町に対する、伯爵グラーフ閣下の軍団による攻囲戦に関する話しだったと思うけれど。エーゴンはもう聞いている?』


ハイディの問いに対して生真面目な性格をしているエーゴンは、私の顔を見まして。


『詳しくは聞いていないが、昨夜の学生寮シュトゥデンテン・ヴォーンハイムでのフローリアンの態度から判断をすると、伯爵グラーフ閣下は目的を達成されたようだが?』


エーゴンの確認に対して私は頷きまして。


『ええ、エーゴンの推測通りですよ。冬季に本格的な攻囲戦を行うという危ない橋を伯爵グラーフ閣下は渡られましたが、賭けに見事勝たれました』


傭兵ゼルドナーとして伯爵グラーフ閣下の軍団に加わり攻囲戦を戦った私の説明を聞いたエーゴンは、生真面目な表情で頷きますと。


『自分が長期休暇で屋敷に帰る度に母上は、フローリアンの詳細を訊ねられるが。夏季休暇の際にフローリアンが海賊退治で活躍したと話すと、乳児の妹に授乳をされながら嬉しそうな表情を御浮かべになられていた』


気が付かないエーゴンは、ある意味で幸せなのかも知れません?。

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