第四十七話 登録制度

『最近リューベックの外から移住して来た男なんだが、毎晩のように派手な乱痴気騒らんちきさわぎを起こして、近隣住民からの苦情が警備隊に寄せられている。学生さん』


店主からの情報提供を受けた後に、私達三人は手分けして厄介者の隣人の調査に乗り出しましたが。夏季休暇中に行った警備隊との共同での海賊退治で私の事を信頼して下されている隊長が、隊長室で二人きりで話しをしてくれています。


『家を借りる際には正規の手続きを踏んでいるが、貸した家主も何で貸したのか思い出せないと話していた』


リューベック市内で新規の移住者に賃貸物件を貸し出している家主から一軒家を借りた男性だそうですが、貸した当人が何故素性も知れない人物に家を貸し出したのか思い出せずにいるようです。


『話しを聴いている限りでは、未登録の魔法使マーギアーいのように思えます。隊長』


私の推察に隊長も頷きまして。


『ああ、俺も学生さんと同じ疑いを抱いて、叡智ヴァイスハイト学園に過去に在籍して根元魔法を学んだ卒業生か、中途退学した元学生ではないかと思い記録を調べたが、叡智ヴァイスハイト学園に在籍していた記録は見付からなかった』


ふむ。この地域では正規に根元魔法を学べる教育機関は叡智ヴァイスハイト学園しかありません。貴族諸侯の男爵バローン家に生まれた令嬢フロイラインのハイディは、本来でしたら御両親が雇用された専属の家庭教師から教育を受ける身分ですが。祖母から受け継いだ血統により、天から根元魔法の素質を授かったので、叡智ヴァイスハイト学園に入学して学生寮シュトゥデンテン・ヴォーンハイムの女子寮で暮らしています。


『私は祖父から、ハイディは祖母から、ペーターは曾祖父から血統により根元魔法の素質受け継ぎましたが。親が魔法使マーギアーいか女魔法使マーギエリンいで、叡智ヴァイスハイト学園で学ばずに家庭内で知識を身に付けた可能性もあるかと。隊長』


私の指摘に隊長は椅子に背中を預けて困ったような表情を見せまして。


『リューベック市内で暮らす魔法使マーギアーいと女魔法使マーギエリンいは登録を義務付けられているが、家庭内で密かに根元魔法を学んだ奴だとすると、叡智ヴァイスハイト学園に在籍記録が残っていないのも当然か。参ったな…』


文明社会のリューベックは法治主義で統治されていますから、私のような魔法使マーギアーいが根元魔法を悪用するのを抑止する目的で、登録制度が導入されています。

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