第四十六話 土地は持って逃げる事が出来ない

『この度も良い取引を行えて嬉しく思います。ツェーリンゲン様』


『恐縮です。店主』


一年以上に渡り傭兵ゼルドナーとして獲得した戦利品の買い取りを行ってもらっている店主ですが、博士ドクトルに紹介して頂いた人物なので、叡智ヴァイスハイト学園に通う学生の私に対しても誠実な商売をしてくれます。


『店主は不動産関連の取引も行われていられるのかしら?』


やはりハイディは年長者の前ですと、無意識に御母堂の男爵バローン夫人様と似た話し方になるようです。


『申し訳御座いません令嬢フロイライン。不動産関連の取引には手を出さない事にしております』


先程までペーターの御父君でもある議員の屋敷で、自由に活動出来る拠点に関する話しをハイディは熱心に語っていましたから、誠実な商売を行う店主から情報を入手したかったようですが。


『土地は持って逃げる事が出来ないを、店主は自らの信条とされていますから。ハイディ』


私の説明に年長者の店主は御辞儀を行いまして。


『ツェーリンゲン様の仰られる通りで御座います。帝国自由都市であるリューベックで商いを始める前に、貴族諸侯の皆様方の争いに巻き込まれて、二度ほど自宅と店を焼かれた事があります。最初と二番目の妻もその際に命を落としましたので、今は三番目の妻と子供達とようやく安定した暮らしを送らさせて頂いております。令嬢フロイライン


淡々と無表情に話されていますが、私達三人のような若輩者には想像も出来ないような苦労を店主は経験されて来られました。


『今までの経験から猜疑心が強まりまして、常に家族の安全には気を配るようになりました。最近近所で奇妙な出来事が起きていると耳に入りました。魔法使マーギアーいと女魔法使マーギエリンいの皆様方でしたら、有効活用出来るかも知れない情報なので、御提供させて頂きます』


近所の厄介者を私達三人に片付けて欲しいという事ですね。


『上手く立ち回れば、活動の拠点が手に入るかも知れませんね。ハイディにペーター』


文明社会のリューベック内部ですから、法律を遵守しながら行動しなければいけませんが。叡智ヴァイスハイト学園で学ぶ十四歳の学生である私達が、自宅と呼べる場所を手に入れられる好機かも知れません。

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