第三話 魔道具の照明が灯される天幕内

『パサッ。失礼する書記官殿。まだ本日の手続きは受け付けていられるかな?』


伯爵閣下に仕えられる騎士様に先導して頂いた天幕内では、魔道具の照明が灯されて内部は昼間のように明るくなっていました。


「眩しい…」


「薄目を開けて明るさに目を慣らしなさい」


「はい。お母さん」


日没後の暗い外から明るい天幕の中に入った妹さんが眩しそうにしています。


『はい。騎士様。もう閉めようかと思っていましたが。そちらの美少年と女性達を、騎士様が戦利品として獲得された奴隷として記録して公文書を発行すれば宜しのですか?』


やや頭頂部が寂しくなられている四十代後半くらいの年齢だと思われる書記官様の言葉に対して、二十歳くらいの若い騎士様は苦笑を浮かべながら首を横に振られまして。


『こちらの美少年の魔法使い殿は、この度の攻囲戦で勇猛果敢な働きを見せられた方だ。書記官殿』


騎士様の訂正を受けた書記官様は、私に対して軽く会釈をされまして。


『それは失礼しました。私のような文官は、戦いが終わるまでは後方で事務処理を担当していますので、最前線での動きには疎いので』


『御気になさらずに。書記官様』


奴隷扱いされたのに私が特に怒っていない事に、書記官様は少し感心された表情を浮かべられまして。


『冷静なお若い魔法使い殿ですな。文字は書けますかな?』


『はい。書記官様』


私のような平民身分ですと、読み書きが出来るのは少数派です。


『魔法使い殿が戦利品として獲得された女性三名を、奴隷として所有される手続きで問題はありませんかな?』


…まだ騎士様が天幕内に居て、私の様子を御覧になられていますね。


『はい。戦利品の三人家族を私の奴隷として所有する権利を記録する手続きを御願いします。書記官様』


騎士様に見付からなければ、このまま連れて逃げるつもりでいましたが。こうなっては一度私が所有する奴隷として公的に記録するしかなさそうです。

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